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アメリカで被害相次ぐ「蒸気侵入」問題とは

写真はミシェル・レイ氏/マウンテンビュー・ボイス誌の好意により掲載。再掲載許可済み。

この記事は リン・ピープルズ の執筆によるもので、国際的な環境問題解決の取り組みに焦点を当てた雑誌、 「エンシア・ドットコム」 原文が掲載されました。コンテンツ共有合意の一環として、グローバル・ボイスにて再掲載しています。(グローバル・ボイス英語版の掲載は2017年9月21日)

ジェーン・ホートンが、念願のマイホーム、約74平方メートル(約22坪)のファームハウスを購入したのは1975年だった。通りの向かいには半導体製造工場があったが、その時にはほとんど気にかけなかった。工場の社屋が取り壊され、敷地が金網フェンスで囲われた後でさえ、有毒な危険物が足元に潜んでいることなど全く知らなかった。ましてや、それが自宅内へ侵入し続けているということも。

2000年代初頭になって初めて、それはホートンを含むカリフォルニア州マウンテンビュー市の住民達の耳へと入った。地中でトリクロロエチレン(以下TCE)の蒸気がもうもうと立ち上っているという。TCEは発ガン性をもつ液体で、工場の施設でシリコンチップ洗浄のために使われていたものである。TCEの蒸気が地下水や土壌から上方へ滲み出し、この地域の建物内部へと入っていることをホートンは知ったのだった。2004年時点で、検査員による彼女の自宅内部の調査では、空気中のTCE濃度はアメリカ合衆国環境保護庁(以下EPA)がこの地域限定で定めた上限値を上回っていた。しかもそれは、汚染物質のうちおよそ75パーセントがすでに除去された後での結果であった。

「うちの子ども達は死んでしまうの?」TCE蒸気の自宅内への侵入が環境当局によって明らかになり、ホートンは悩んだ。写真は、ミシェル・レイ氏/マウンテンビュー・ボイス誌 の好意により掲載。再掲載許可済み。

「私たちはもうずっと、絶えず蒸気の真上にいたのです」ホートンは話す。蒸気が発見されたとき、一番下の息子はまだ小学生だった。「今でも思い出せます。何もかもがめちゃくちゃにされていて、解決には長い時間がかかりました。うちの子ども達はガンになるの?うちの子ども達は死んでしまうの?私はこれからどうなるの?・・・ずっと悩み続けています」現在は、EPAにより地下室に設置された換気システムが地中から上がってくる有害蒸気を吸い上げ、パイプを通し屋根上の排出口から放出しており、蒸気はすぐに空気中で受容できる程度まで薄まっている。EPAによる定期的監視によれば、この家のTCEレベルは以来ずっと安全値を示している。

ホートンは言う。「システムが正常に動くまで、約一年かかりました。この家がある限り、ここに設置され続ける予定です」

一方で、有害な蒸気が建物内部に侵入するという、上記によく似た事例は、アメリカ国内で次々と表面化している。その範囲は広く、例えばカリフォルニア州サンディエゴ付近では、トレーラーハウス駐車場 で蒸気侵入が発生している。そこからはるか2000マイル(約3200㎞)離れたミネソタ州では、州内のいたるところで蒸気侵入が発生している。​

関与する汚染物質としては、その大半がTCEテトラクロロエチレン (別称:パーク)、 ベンゼン 等の、悪評のある塩素系溶剤である。それが漏れたりこぼれたりした場所から地中に浸み込み、土や地下水を経由して移動が可能になる。よくある排出元には、ドライクリーニング店、ガソリンスタンド、自動車修理工場、軍事基地、工業施設などがあり、何十年も前に閉鎖されていた場所さえも含まれている。

ニューヨークのマウント・シナイ医科大学の疫学者であり小児科医であるフィル・ランドリガンによれば、このような蒸気を多量に浴びることで炎症・疲労感などの即座の影響を引き起こすことがあり、しかし一方でもっと心配なのは、少量を一定期間に渡って吸い続けることであるという。「特に乳幼児や低年齢の子供は、非常に低濃度のこうした物質でも被害を受ける可能性があります」とランドリガン医師は話す。長期にわたりTCEやパーク、ベンゼンを浴びることは、一部のガン及びその他の健康上の影響のリスクを高める、またはその可能性がある、として知られている。ただし、侵入した蒸気が人体に重大な脅威を及ぼすに十分なほどの高い濃度に達するのかどうかは、いまだ不明である。また別のある研究では、妊娠初期の女性がTCEを浴びることと、胎児の心臓の形成異常との関連も示唆されており、これは多くの議論を呼び、この蒸気侵入問題をより複雑なものにしている。

地中のバクテリアは、ベンゼンを始めとする炭化水素を容易に分解して比較的無害な水や二酸化炭素を生成し、汚染物質の危険性は減少していく。一方で、塩素系溶剤の分解は時間がかかる上、副産物として更に有害な物質を生成することがある。例えばパークはTCEに分解され、それが今度はジクロロエチレンや 塩化ビニルといった、強力な発ガン性を持ち強い残留性・可動性も備えた物質を生成するのである。

地上の空気の流れに引っ張られ、有害蒸気は汚染された土または地下水より移動して、住宅などの建物内へ侵入できる。イラストはシーン・クイン氏/エンシア誌より。

EPA職員を含め、専門家達は、蒸気侵入の全体量を見積もることはできていない。だか蒸気侵入の範囲は広大だとはいえそうだ。EPAの広報官エイミー・グラハムは、EPAスーパーファンド開発イニシアチブ (汚染土の浄化を専門に行っている)の​対象地のうち91ヶ所について言及している。それによると、これらの対象地には蒸気侵入に伴う受け入れがたい健康リスクが存在している。このことがきっかけとなってリスク緩和措置が取られることとなったとされる。この他の4000近い個所は、米国資源回収保全回復法の規制を受けており、先だってのEPAの推定によると、そのうち1/4は何らかの蒸気侵入の可能性が指摘されている。

EPAは、米国内に45万ヶ所以上あると推計されている ブラウンフィールド(別の汚染指標により指定を受けた土地)については蒸気侵入の有無について追跡調査をしていない。更なることには、2002年、米国会計監査院が示唆したところによれば、過去に稼働していた 20万個もの地下貯蔵タンク が適切に管理されておらず、漏えいのリスクが上昇している可能性があるという。また米国内で現在稼働している36000以上のドライクリーニング設備のうち、これまでに推定 75パーセント が周辺へ溶剤を排出していたとみられている。「調査結果が集まれば集まるほど、更に多くの蒸気侵入が国じゅうで発見されています」非営利組織である、 公共環境監視センター専務理事、レニー・シーゲルは言う。

「蒸気侵入で問題なのは、家庭や職場、礼拝の場、学校で、本人の認識のないままに意思に反して危険な化学物質を浴びるということです」シーゲルは付け加えた。「まさに侵入なのです」

有害蒸気がこのように建物内へ移動していることは、一般的にはまだ認知度が低いものの、環境健康の専門家や主張者、政府機関は綿密な調査に乗り出してきており、調査数は増加中である。EPAは2011年にTECの毒性​評価の最終版を公表するにあたり、安全と考えられるTEC暴露レベルを 大幅に引き下げた 。2015年、EPAは各州および各部族自治団体に向けて、蒸気侵入の評定と処理についての 任意ガイダンス を発表した。さらに2017年5月には、 スーパーファンド・ステータスに適用されるかどうかの認定基準のひとつとして、蒸気侵入を追加した。それでも、この問題をどう取り扱うか米国内での統一見解は未だ出ていない。

蒸気は「吸引」されている

規制を行う立場の人間達もまた、多くの科学者たちと同様、2000年代に至るまで蒸気侵入にはほとんど気付いていなかった。その頃、ラドンの有害性についての認知が進み始めていた。ラドンは、ウランとトリウムの地中での自然分解によって発生する、放射性・発ガン性を持つ気体であり、地下室内部への漏えいが発見された。点と点は線へ繋がりつつあった。

「ラドンの問題も、それが人工でなく自然由来である点を除いて、本質的には同じ現象です」 ブラウン大学におけるスーパーファンド基礎研究計画の共同所長、エリック・スバーグは説明する。

ラドン同様、通常の人は蒸気侵入にほとんど気付かない。「それは臭いもなく、目にも見えません」スバーグは言う。「精密な機器を使わなければ、低濃度で入り込んでいる物質の種類は特定できないのです」

ラドンも人工蒸気も、埃が掃除機に吸い込まれるのと全く同じ方法で建物内へ侵入可能になる。空気が高圧から低圧の方向へと移動する際、吸引力が生まれる。つまり掃除機による吸引力が床の上で塵を引き込み、掃除機の中へ閉じこめるように、空気の流れにより、建物基礎のひび割れや隙間などから有害蒸気を家の中へ引き込めるようになるのである。

「これは物理の基本です」米国国立環境健康科学研究所における スーパーファンド研究計画 の所長、ウィリアム・スークは言う。「気体は出口を探します。そして上昇する道筋を見つけます」

オハイオ州ノースカントン市では、掃除機と蒸気侵入の間に更に直接的な関連が出現した。フーバー社は1900年代初頭にこの地で掃除機の製造を開始した。以後数十年に渡り、製造過程で TCEとパークの排出(訳注:2018年1月現在リンク切れ)が引き起こされていたのである。

目下、およそ85エーカー(34ヘクタール)の フーバー社所有地 (訳注:2018年1月現在リンク切れ)で再開発が行われている。これに伴い、​EPAは、敷地内外に古くからある汚染物質による影響の評価およびその対処方法などについて監視を強めている。

2016年、当局はオハイオ州カントン市内のコミュニティ・キリスト教会において許容値をはるかに超えるTCEの存在を確認した。同教会は日曜学校およびプリスクールも開設している。写真はチャック・オズボーン氏/エンシア誌 の好意により掲載。

コミュニティ・キリスト教会は、かつての工場と境界を接している。ボス・フーバーと呼ばれているフーバー社の創立者ウィリアム・ヘンリー・フーバーは、実は100年以上前にこの教会の理事長・牧師および教師の職を務めていた。教会の低層階には日曜学校とプリスクールが併設されているが、2016年にEPAの委託を受けた業者が屋内の空気を調べると、許容値をはるかに超える量のTECが検出された。

「ここに問題があることなど、指摘を受けるまで知りませんでした」教会の会計責任者、ジャック・ハートレーは言う。

ハートレーによれば、教会で蒸気侵入問題を知る者は「あまり多くはない」とのことで、しかし今回の発見は「そこまで心配なものでもなかった」と付け加えた。当時教会にとっては、彼によれば、この聖なる場所を冷静に保つことの方が大きな懸念事項だったという。教会では40年を経た空調設備の交換が必要だったが、フーバートラストの経済支援により実施された。一方でフーバー・プロパティ・ディベロッパーは、教会内部の浄化システムの設置費用を負担し、その後TCE濃度は下降した。

「ここでは誰も、そのことについて認めたり話題にはしたがりません」地元に住む活動家、チャック・オズボーンは言う。「フーバー社の名前はここでは崇められています。同社が、我々の身の回りに有毒な汚染物質を放置していたなんて誰も想像できないのです。」

有害物質の追跡

冒頭のファームハウスの家主、ホートンもまた、相反する社会的圧力があると認識している。家に浄化システムが設置されてから、息子の友人の親の一部は子供をホートンの家に遊びに来させなくなった。「おそらくうちの空気は、マウンテンビュー内で一番きれいになったと思います」彼女は言い、ほかの多くの家庭では空気の質は不明なままになっており、それは空気試験を受けることで家の資産価値が落ちるのが心配だからだろう、とも言及する。

たとえ家主、行政、汚染物質の排出元、その他利害関係者が協力したとしても、蒸気侵入の問題には依然大きな困難が存在する。どこを、いつ、どのように注視すべきかを割り出すのは、なおも難しいことなのである。

一部の州では地下水に汚染物質がどの程度含まれているかを基にして​ ​、蒸気侵入の有無を調べるべきかどうかを決定する。また、それを確認する場所を決定する。​だが蒸気は必ずしも同じ地点に留まる訳ではない。蒸気は元の地点から東西南北どこへでも漂流するかもしれない。 下水管 を通ればもっと長い距離の移動ができる。各社は化学物質を直接下水管へ流すと言われており、古い配管のひび割れから蒸気は吸い上げられ、汚染地域へと侵入できる。地中深度ごとの濃度も季節により、あるいは日により変動する。大雨が降れば、汚染された水の層の上に比較的きれいな水の層が重なることもあるかもしれない、とブラウン大学のスバーグは説明する。「ただ手当たり次第に地面を掘削し、でたらめな深さから水を取り出して、それで問題の様相をつかめると明言する、そんな事はできないのです」スバーグは言う。

仮に、試料​とした​地下水の濃度が州ごとに定められた適格水準を超えていた場合、多くは次の段階としてその地下水面直上の地中ガスを調べる。​もし​地中ガス濃度が、​その​適格水準を超えてい​た​場合は​建物内の空気を検査する​が、地中ガス濃度検査を省略し、直ちに建物内の空気の検査を行うこともある。​なお、忘れてならないことは、地下水の水位は常に変動しているということである。

この屋内調査もまた厄介ものである。一般消費者向けの製品、塗料やガソリンやドライクリーニング済の衣類なども同じ蒸気を発するので、検査結果は不明瞭になりがちだ。さらに複雑なことには、屋内空気の汚染濃度の値は気圧、気温、空気循環などの影響を受け 10倍以上も変動する可能性がある。そう説明するのは、環境とリスク科学のコンサルティングを行うグラディアント社の担当部長、ローレント・レヴィーである。これまで行われてきた24時間をひとまとまりとするサンプル採取法では、日間や月間の変化を捉えきれない可能性がある。継続監視可能な、手頃な​機器​の開発を目指して​研究が続けられている。EPAも、サンプル採取を複数の周期にわたり行うことを現在では推奨している。

連邦政府によって 267ページに及ぶガイダンス がまとめられており、TCEとパークの毒性評価が更新されているが、それにも関わらず、屋内空気中の濃度がどのレベルになれば対処するのか、州によって大幅に異なっている。特定レベルに達した場合にいかに対処すべきかさえ、必ずしも明確でない。しかし、通常はホートン家や前述の教会に設置されたシステムのような常時監視や浄化といった形をとることが多い。

予防策を出発点に

地域ごとに足並みは揃わず、また 企業は訴訟で疲弊 し一般家庭は不安にかられ、故に数々の反発が生じている―――こうした状況を受け、レヴィーは「対策から予防策への転換」の必要性を説く。彼によれば、蒸気侵入の可能性のある地域という条件下で税金控除を実施すれば、浄化システムの予防的設置の促進になるかもしれず、同時に調査費用とその時間も削減されるという。現在、EPA第9地区管理事務所は、マウンテンビュー・スーパーファンド区域上に新築される建築物に蒸気侵入の制御措置を講じるよう要求している。

それでも、蒸気浄化措置によってこの問題がなくなる訳ではないことを決して忘れないことが重要だ、とレヴィーは言う。「現状ではただ経路を遮断しているだけです。やはり原因を遡って突き止める必要があるのです」

マウンテンビュー市はいち早く浄化事業に取り組んだ。飲料水に関する法規制がすでに発効していたのでEPAはスーパーファンド法に基づく措置をとることとなった。そのため同市はこのような取り組みをすることができたのである。2017年5月に全米浄化優先順位リストの適格基準に 有害蒸気侵入に関する項目が加えられた 。全米浄化優先順位リストとはスーバーファンド計画の下に指定される、長期的な浄化が必要とされる有害廃棄物汚染地区のリストである。今回の項目追加により、より多くの汚染源の改善が期待される。

有害蒸気の侵入回避事例の増加につながるように、土壌汚染の未然防止に努めることは重要な意味を持つと、専門家達は言う。 法改定 が行われ、地下貯蔵タンクの適正な利用と維持についての詳細にわたる条項が定められた。この改定は地下タンクからの漏えい防止に役立つものと考えられる。またEPAは、オバマ政権の末期に、TECの特定用途での利用禁止を打ち出した 。しかし、汚染源となる化学物質を使い続ける限り、厄介な侵入物を完全に食い止めることはままならないことである。

「我々はいまだにガソリンを使っています。塩素系溶剤も使っています。TCEは、銃の清掃用としていまだ高い価値があります」ブラウン大学のスバーグは言う。「どれも、まったくもって違法物質ではありません」

蒸気を排出する製品を自宅へ持ち込まないことや、蒸気侵入の試験と浄化措置を受け入れることにとどまらず、我々個人がもっとリスクを下げられる方法がある。細心の注意を払うことだ。

「これから引っ越しをする人に対して、その家やアパートの鉛含有塗料やアスベストに注意するよう助言するのと同様、建物の周囲もよく見る必要があるのです」マウント・シナイ医科大学のランドリガン医師は言う。「かつてクリーニング店があった場所の隣に、家を買おうと思うでしょうか?」

リン・ピープルズ は、シアトルを拠点に、環境と健康を専門に扱う科学ジャーナリスト。ザ・ハフィントンポスト、サイエンティフィック・アメリカン、アンダークマガジンなどに掲載歴がある。ハーバード大学にて生物統計学修士、ニューヨーク大学にて科学ジャーナリズム修士取得。

校正:Masato Kaneko

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