ケニア選挙を舞台に暗躍するケンブリッジ・アナリティカ 情報と民主主義とは

Ballot boxes. Photo by Sheila Rouge, labeled for reuse.

シーラ・ルージュ撮影。投票箱を写している。二次利用可能な画像。

(原文掲載は2017年11月3日である。)

ケンブリッジ・アナリティカ(CA)社。データ分析会社である。この会社は、アメリカ大統領選でドナルド・トランプを勝利に導いた。ケニア総選挙をめぐって続く暴動に関して、この会社はどこまで影響力を及ぼしたのか、関心が寄せられている。

今週に入り、野党スーパー連合(NASA)の関係者らが、ある流出した記録をブログに公開した。彼ら曰く、それはCA社の社内メモで、ジュビリー党に所属するウフル・ケニヤッタ現大統領を再選させるため、同社が立てた戦術が記載されていた。

CA社の広報はグローバルボイスに対し、同情報は「まったくのでっちあげ」だと伝えた。

アメリカでドナルド・トランプが勝利して以降、イギリスを本拠にするこの会社が注目を集めている。同社が採用されたのは、無党派層をターゲットにし、情報分析と、トランプ陣営に取り込むための情報発信をするためである。

偽造メモが主張するところによると、反対陣営やルオ族の政治的発言を貶めようと、この会社が「印象操作」を行い、彼らを暴力的であるかのように「見せた」。そして、与党側の票固めのため、会社は与党支援者の「感情操作」も行うように促した。

誰がメモを作り上げたのかは未だに分かっていない。だがその内容は、与党とその支持者に対しますます広がる不満を利用しようとしているようだ。今年のより早い時期に行われた総選挙をめぐる激論は、このメモにより、さらに油が注がれることになった。8月の選挙において、ウフル・ケニヤッタ現大統領は法的には過半数票を獲得したが、野党(NASA)党首のライラ・オディンガがこの勝利について異議を申し立てた。その結果、選挙のやり方に不備があったとし、最高裁はこの選挙を無効にした。

判決が下ったために再選挙が行われ、ケニヤッタは再び圧勝した。しかし、この間、開票のシステムに全く改善が見られなかった、と批評家や野党の首脳が訴えた。また、数百万の有権者は10月26日の再選挙をボイコットという策をとった。そうしてこの国の政治の未来は更に不透明になった。選挙の結果に対し、野党首脳の中には抗議の意を表明する者もいる

国中のいたるところで激しい衝突が起きている。そこで実力行使をそそのかしているのは、ごく少数の個々人のようだ。

近年の選挙では、常にネット上に扇動者が現れ、特定のコミュニティの固定観念を植え付けようとしてきた。おそらく与党を利するために動いているのだろう。彼らは、ルオという部族を暴力的とみなし、野党第一党を支持しているのは、そのコミュニティ出身者のみだ、と決めかかっている。そうしてルオ族と与党ジュビリー党との亀裂は、深まる一方だ。

 

実際のところ、ケンブリッジ・アナリティカ社はケニアで何をしているのか

「ビッグデータ(訳注)。マイクロターゲティング(訳注)。選挙活動支援。デジタルサポート」Twitterプロフィール欄でCA社が紹介する自社の活動内容だ。

今週出回ったメモはニセ情報だったことが現在確認されている。一方で騒動により、今もなお、ある大きな疑問が、多くのケニア人の頭にはっきりと浮かんでいる。それは、CA社がケニアで実際に何の活動をしているのか、ということだ。

現政権、ジュビリー党がCA社を雇用し、選挙活動支援を受けたというのは、まぎれもない事実である。2017年5月に地元日刊紙のThe Starは、ウフル・ケニヤッタがイギリス本拠の会社と契約を結んだと報道した

この会社と政権与党が契約を結んだのはこれが初めてではない。CA社のケニア政治への関与は2013年に始まった。この時は、ウフル・ケニヤッタ並びにジュビリー党の前身である、国民連合(TNA)のもとで活動していた。

この会社はその年の選挙期間、4万7000人に対し、実地調査を行った。同社ウェブサイトによると、この調査結果で有権者の傾向を捉えることができ、「(雇用)ニーズと(部族衝突への)不安を持っていることを踏まえた」選挙戦略を立てることもできた、としている。

CA社がケニアで行った研究の紹介。同社ウェブサイトより。

この研究は、流動的で若年の潜在的支持層に対し、ソーシャルメディア上でCA社がどう働いたか、といういうことにも言及している。

Of the audiences identified, our work highlighted that the youth cohort were an underutilized party asset that could be highly influential if mobilized. To connect with this audience, CA’s communications and strategy team devised an online social media campaign to generate a hugely active online following.

ターゲット層とされる人たちの中で、若年層は政党にとって、活用の余地がある人的資源であるということを強調したい。もし若者が結集することになれば、彼らは強い影響力を及ぼしうる。彼らとつながるために、わが社の広報や戦略チームは、ソーシャルメディア上の選挙活動を考案し、非常に活発なフォロワーを獲得した。

ケニヤッタは2013年の選挙に勝利した。2017年、ジュビリー党がCA社と再度契約を結ぶと、BBCは、同社がケニアで行っている「事業」に関する記事を掲載した。CA社の広報官はBBCトレンディングに対し、「ケニアにおけるネガティブキャンペーンとは何の関わりもなく、他の国においても、民族間の不和を悪用しようと持ち掛けたことなどない」と述べた。

彼らが提案したと思われる、有権者がもつ部族衝突への不安を踏まえた戦略(前述のウェブサイトからの引用)とは果たしてどういうものだったのか。

BBCがこの記事を掲載してちょうど5日後にケニア総選挙が行われ、後日最高裁がそれを無効とした。

ジュビリー党がCA社に活動を委託することで、浮上するはずの問題がある。政権与党が数百万のケニア人の情報を得て、また一般企業とそれらを共有するということだ。個人情報を使用することで起こりうる事態に対し、国民のプライバシーを保護する法律が、ケニアにはない。また、こういった情報をどのように保持し、どうアクセスするかということに対しても、国内法による制限はない。

ソーシャルメディアで悪用される民族間の緊張

生まれながらに好戦的だというルオ族のイメージは、他の集団の関与があろうとなかろうと、ケニアのソーシャルメディア上に広く伝わっている。このことは国中に実際の結果をもたらしている。ルオ族のコミュニティが暴力的だとする性格分析や描写によって、シアヤやホマベイ、キスムといった、インターネットがまだ身近にない地域(訳注:ルオ族が多く住んでいるとされる)の住民も直接的な影響を感じている。

アルジャジーラ報道によるとケニアにおいて、選挙結果の発表を受けて抗議活動がおこり、3人の子どもを含む、少なくとも37名が亡くなった。この暴行による死者のほとんど全員が、野党拠点である首都ナイロビのスラムやケニア西部といった地域で命を落とした。

民衆を操作するため、政治手段として民族性を利用するということに対し、2017年7月にイギリス拠点のNGO団体プライバシー・インターナショナルが警鐘を鳴らした。大統領の委任を受けて数百万の国民の情報を集め、有権者の性格を分析し、的を絞り、丸め込むということに潜む落とし穴について、同団体が説明している。そこで取り上げたのは、2007年のケニア総選挙であり、この年は民族間の抗争や部族間の衝突によって、1,500人が亡くなり、60万人以上の人が家を失った。

これらの衝突に元大統領が絡んでいる証拠があった。人道に対する罪を扇動し、民族の暴力的衝突をまねいた嫌疑につき、国際司法裁判所の検察官は、ウフル・ケニヤッタと現副大統領のウィリアム・ルトの起訴手続きをとった。しかし、鍵を握る証人が亡くなっている、もしくは姿を消しているという事実もあり、証拠が十分にないためにこの訴訟は取り下げられた。

途上国のうち、CA社のサービスを利用したのは、知られているところではケニアが初めてで、膨大な情報を処理し、細かく行動ターゲティングを行うことで、選挙結果に影響を与えた。同社が使った戦術や方策の全容は、完全には解明されていない。しかし、この会社が与党と契約するという点については、他の途上国の政府、はたまた民主主義者たちにとって、他山の石になるかもしれない。

校正:Yuko Aoyagi

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