女神が踊る出エジプト記アニメ『セデル・マゾヒズム』とは

「ユー・ガッタ・ビリーブ」歌唱シーンより。ニナ・ペイリーによるVimeoへの投稿

グローバル・ボイスは、アメリカ人のフリーカルチャー活動家兼映画制作者のニナ・ペイリーに、彼女の新作アニメ映画「セデル・マゾヒズムについてインタビューした。この作品は旧約聖書(トーラーの出エジプト記を大まかなベースにしていて、この宗教書に秘められた家父長制を暴きだしている。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)とは、著作物の配布を容易にする一連のライセンス群。CC0ライセンスは全ライセンス中で最もオープンなもので、ユーザーは自由に使用、配布、改変でき、またオリジナル版/改変版共に、商用利用であっても出所を明示せずに使用できる。一方、クリエイティブ・コモンズ「表示-非営利-改変禁止」(CC BY-NC-ND)は全ライセンス中最も制限が強く、「不許複製」に近い。

ペイリーは2008年監督の長編アニメ映画「シーター、ブルースを歌う」を、2013年にパブリックドメインで公開している。この映画はインドの叙事詩ラーマーヤナの物語で、1920年代アネット・ハンショウのジャズソングに乗せて語っているこの作品によりペイリーは世界に名を知られることになった。ひとつにはこの叙事詩に加えたフェミニズム的解釈のため、もうひとつは映画で使用したアネット・ハンショウの歌に関する著作権をめぐる長い法廷闘争のためだ。ペイリー側が5万米ドル以上支払うことで決着がつき、全額を借金でまかなった。最終的に彼女は、映画の著作権をクリエイティブ・コモンズ「表示-継承3.0非移植」(CC-BY-SA 3.0)からCC0(パブリックドメインと同等)に変更している。

ペイリーはユダヤ人ポッドキャスト局「ジュダイズム・アンバウンド」によるインタビューに答え、セデル(過越祭期間に最初に学んだ出エジプト記についての、自分なりの見解が「セデル・マゾヒズム」だと述べている。セデルはユダヤ教の儀式で、古代エジプトの奴隷制からのイスラエル人の解放を語り継ぐ儀式でもある。彼女はまたインタビューの中で、自分は「新生・無神論者」だとしたうえで、出エジプト記について最近研究していくうちに違和感を持つようになったいきさつを説明している。

「セデル・マゾヒズム」に出てくる歌やシーンを、ペイリーはすでにいくつもインターネットにアップロードしており、その中にエジプト女神石像をFlashアニメ化した歌唱シーン「ユー・ガッタ・ビリーブ(信仰するなら私になさい)」もある。そこに登場しているのがモーセと、気づけば家父長制に打ち負かされそうになっている「歌う」古代女神たちだ。

グローバル・ボイスはペイリーとコンタクトをとり、次回作について詳しく教えてもらった。

サブハシシュ・パニグライ:まずは、次回作おめでとうございます。制作全体を通して、どんな役割を担っておられますか? 何についての映画ですか?

Nina Paley (NP): Once again I'm producing, directing, writing, animating, everything-ing…I'm hoping the sound designer for “Sita Sings the Blues“, Greg Sextro, is able to do more sound design for Seder-Masochism. The music is all “found” and used without permission [at the moment]. Much or all of my use is Fair use, but ultimately that can only be determined in court.

Seder-Masochism is about the Book of Exodus from the Torah/Bible, and indirectly the Quran (Moses is a prophet of Islam). My interpretation of Exodus is that it's the establishment of complete patriarchy, the elimination of any remaining goddess-worship from older times.

Some of clips from the feature-in-progress are here.

ニナ・ペイリー:今回もまた、プロデューサー、監督、脚本、作画、その他何でも屋を担当しています…できれば「シーター、ブルースを歌う」のサウンドデザイナーをしてくれたグレッグ・セクストロさんに、「セデル・マゾヒズムの仕事をもっとお願いしたいところです。音楽はすべて「見つけてきた」ものを、(今のところは)無許可で使っています。私の用途はほとんど全てフェアユースですが、最終的には法廷で決着するしかありません。

セデル・マゾヒズムは旧約聖書(トーラー)出エジプト記を題材にしています。(モーセはイスラム教の預言者なので)間接的にはコーランも扱っていることになります。私の解釈では、出エジプトとは家父長制が完全に確立し、古代からの女神信仰が根絶やしにされた出来事です。

制作中の作品は一部シーンをこちらからご覧になれます。

パニグライ:この制作企画を始めたきっかけは何ですか?

NP: Sita Sings the Blues was denounced by fundamentalists who called my collaborators “self-hating Hindus.” As a Jew, that rhetoric was familiar to me – Jews *invented* that “self-hating” nonsense. Since I'm not a Zionist, I've been called a “self-hating Jew” too. Also, the Hindutvadis called me a “white Christian woman who hates Hindus”, and sent hate emails saying “how would you like it if someone made a film about YOUR religion?!” Of course I love it when someone makes a good film about Abrahamism - Monty Python's Life of Brian is the best I can think of.  I was (am) also frequently accused of “cultural appropriation“, implying that only those of Hindu/Asian descent are qualified to work with Hindu/Asian stories. So it seemed that everyone, right and left, wanted me to make a film about “my” religion, Judaism! I figured if they're offended by Sita Sings the Blues, they'll be REALLY offended by that. I printed up a Jew Card so I could “play” it for this project.

ペイリー:原理主義者たちは「シーター、ブルースを歌う」を非難し、私の共同制作者のことを「自己ヘイトのヒンドゥー教徒」と呼びました。ユダヤ人の私には聞き慣れた言い回しでした。だって「自己ヘイト」という戯言を『考案した』のはユダヤ人ですから。私はシオニストではないので、私自身もこれまで「自己ヘイトのユダヤ人」と呼ばれてきました。また、ヒンドゥー至上主義者たちは私のことを「嫌ヒンドゥーの白人クリスチャン女」と呼び、ヘイトメールを送り付けて「誰かがオマエの宗教をネタにこんな映画を作ったとしたら、どんな気がする?!」と言ってきました。もし誰かがアブラハムの宗教(訳注:ユダヤ教・キリスト教・イスラム教を指す)を題材にいい映画を作ってくれたら、もちろん私は大喜びしますね。モンティ・パイソンのライフ・オブ・ブライアンなんか、考えつく限りでは最高です。また「文化の盗用」だという非難も頻繁に受けました(今もですが)。ヒンドゥー教やアジア系の物語を作品にする資格があるのはヒンドゥー教徒やアジア系の子孫だけだ、とでも言いたいのでしょう。まあそういうわけで、どちらの皆さんも、私が「自分の」宗教、ユダヤ教の映画を作ることをお望みのようです! 「シーター、ブルースを歌う」にご気分を害された方なら、こちらの作品には激怒されること請け合いです。今回の制作企画に関していつでも「ユダヤ人カードを切る(訳注:相手の配慮を利用する意の俗語表現)」ことができるよう、プリントアウト版ユダヤ人カードを用意しました。

ニナ・ペイリー作、古代女神のGIFアニメ。出典:ニナ・ペイリー/ウィキメディア・コモンズ

パニグライ:歌がとても面白いですね! 1000年前の石像にどうやって命を吹き込んだのですか?

NP: There are already goddesses in the Flash sections of Seder-Masochism I animated a couple of years ago. I needed to put more “goddess” into the film, and was tediously redrawing the Flash goddesses in Moho, the software I'm using now. It occurred to me that instead of redrawing them I could use the source images they're based on, I spent a few days finding the highest resolution images I could, and a few more days manually removing the backgrounds in GIMP. Moho can do things Flash can't, such as this type of animation with raster images. Anyway, they looked cool so I'm using them in the remaining Seder-Masochism scenes.

ペイリー:2~3年前にFlashアニメで作った「セデル・マゾヒズム」の断片には、もう女神たちが描かれています。もっと大勢の「女神」を映画に登場させたくて、今使っている(アニメ作成ソフト)Moho上で、Flashの女神画像を延々と描きおこしていました。ある時、描きおこさなくても元にした画像をそのまま使えばいいことに気づき、2~3日かけて最高解像度の画像を探し、その後また2~3日かけて、(画像編集ソフト)GIMP上の手作業で画像から背景を消去しました。Mohoを使うと、ラスター画像をこの種のアニメにするなど、Flashではできないことができるんです。とにかく、いい感じに仕上がったので、「セデル・マゾヒズム」の残りのシーンでも使っていきます。

女神のFlashアニメはウィキメディア・コモンズよりダウンロードできる。

ペイリーは映画制作のかたわら、他のフリーカルチャー活動家たちの運動に協力し、キックスターターのキャンペーンを立ち上げた他、米国拠点のNGO、QuestionCopyright.orgへの基金も募っている。制作した映画の断片を順次アップロードし、インターネット上で公開している。

校正:Mariko Ikemi

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