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フィリピン国家警察の人権アプリに隠されたもの

カテゴリー: 東アジア, フィリピン, テクノロジー, 人権, 市民メディア, 政治, 行政
[1]

フィリピン国家警察(PNP)のアプリ「あなたの権利」。Google Playアプリストアページより。

12月4日、フィリピン国家警察(PNP)が人権啓発アプリを公開した [2]。警察と市民が自身の権利を知るのに役立てることが目的とされている。しかし、この行為が「典型的な偽善」であり、PNPによる数々の悪名高い人権侵害の汚点を隠匿できはしない、と人権擁護活動家たちが批判した [3]

このアプリはGoogle Playストア [1]からダウンロードできる。提供している主な情報としては、まず被疑者の黙秘権に言及するミランダ準則 [4]がある。他には、捜査に関する規則で、検問所での操作や治安維持に関する規則、逮捕状、捜査令状の執行に関する規則、そして勾留しての取り調べに関する規則について取り上げている。また、拷問されない権利や、逮捕された者、拘束された者、勾留による取調べを受ける者が有する権利についても紹介している。

PNPのアプリ「あなたの権利」が公開された次の日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は冷酷な「麻薬撲滅戦争」の再開を警察に命じた [5]。その2か月前、複数のティーンエージャー殺害 [6]に反応して大騒動が起こり、その後の抗議デモにより、大統領はこの政策を中断していたのだった。

昨年12月10日、国際人権デーにマニラで開催された抗議デモ。撮影:ロン・メサ(掲載許諾済)

麻薬撲滅戦争はドゥテルテ大統領の中心的な政策である。人権擁護団体によると、この政策によって、小規模の薬物密売や薬物使用の疑いで、約1万3千人の命が警察や国家支援の警備員によって容赦なく奪われた [7]

ドゥテルテ大統領が主導する「麻薬撲滅戦争」、モロ民族に対する「テロとの戦い」、そして共産主義革命対策の「全面戦争」 [8]、これらに関連して繰り返される大量殺人はとどまる気配がない。このような状況下では、人権擁護家がPNPのアプリを好意的に捉えることはなかった。

人権擁護団体カラパタンのクリスティーナ・パラベイは次のように語る [3]

PNPが提供するアプリ「あなたの権利」は、典型的な偽善と言えるでしょう。みんなが知っているように、PNPが提供しているのは、拷問、超法規的殺人の許可、違法逮捕などであり、容疑のでっちあげ、不正行為だけです。そして総じて、誰にもとがめられることもなく公然と遂行しています。

トクハン(麻薬撲滅運動)の犠牲者の大部分は都市部の貧しい住民である。撮影:シリアコ・サンティアゴ(掲載許諾済)

アプリがユーザーのプライバシーも侵害している [9]という疑惑に対し、ネット市民や国家人権委員会 [10]は懸念を抱いた。このアプリがインストール時に通話ログ、SMSメッセージ、写真などのファイルへのアクセス許可を要求する点が奇妙だとしている。テクニカルライターのアート・サマニエゴ・ジュニアは、フェイスブック上に [11]その必要性への疑問を呈した。

PNPのアプリ「あなたの権利」に赤信号が灯っているようです。もし「一般市民とPNPの全職員に人権に関する情報を提供する」ことだけが目的ならば、なぜ私のSMSにアクセスし、通話ログを確認し、私の写真やビデオを見たり利用したりする必要があるのでしょうか?

その後、これ以上ユーザーに向けて個人情報へのアクセス許可を求めないよう、情報通信技術省はPNPに対し、同アプリの更新を要請したと伝えられている [12]科学技術専門ニュース [13]によってアプリのダウンロードは比較的安全と調査されているが、フィリピン人権擁護家が主張する [3]ような、ドゥテルテ政権が露骨に人権を無視しているというより大きな問題は依然として残っている。

インターネット上でPNPがどれだけ人権に関するアプリを公開しても、どれだけ人権のマニュアルを普及させても、関係ありません。そのようなことをしても、インターネットの中ではない、現実の世界において彼らも中心になってわが国で権利侵害を行っていた、ということはまぎれもない事実で、アプリが消し去ることができるわけではないのです。

昨年12月10日、国際人権デーのマニラ。ドゥテルテ政権下で人権が抑圧されている様子を表現する学生たち。撮影:ロン・メサ(掲載許諾済)

校正:Hikaru-Miota [14],Etsumi Itai [15]