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スイスのビール会社 新製品名に亡きネパール国王の名を使用し大ひんしゅくを買う

カテゴリー: 南アジア, ネパール, 国際関係, 市民メディア, 食
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チムールペッパー(別名:ネパールペッパー)は、調味料、香辛料そして薬剤として使われている。写真:クシシュトフ・ゴーリク ウィキメディア・コモンズから転載 CC By-Sa 4.0

スイスのビール醸造会社トゥールビネンブラウは同社の季節限定ビールに、今は亡きネパール国王の名前と肖像画を使用しネパール国民の間に 大騒動 [2]を巻き起こした。

トゥールビネンブラウ社は、チムールペッパーというネパール産スパイスを用いて香りを添加した新ビールを開発した。そして、そのビールに1972年から2001年まで在位したネパール国王の名を採って ビレンドラ [3]という商品名を付けた。また、国王の肖像画に小細工を加え、国王がビールのグラスを手に持ちながら微笑んで見えるようなラベルを作成した。これを見て多くのネパール人は激怒した。特に同国王を敬愛する人たちの怒りは激しかった。

開明的君主とされたビレンドラ国王 [4](訳注:ビレンドラ国王のフルネームはBirendra Bir Bikram Shah (ビレンドラ・ビール・ビクラム・シャハ))は、2001年に開催された王族の晩餐会で他の王族たちと共に虐殺された(訳注:ネパール王族殺害事件 [5])。

ビール(#beer [6])にネパールの香辛料が入っているので、スイスのビール醸造会社トゥールビネンブラウは、季節限定ビールの商品名にビレンドラ国王の名前を使うこととした。国王の名前の響きがビールに似ていると考えたからだ。なお、同国王は1972年から2001年までネパール( #Nepal [7])国王として君臨した。

ビールとはネパール国王の名前だ。

亡くなったネパール国王の名誉を「傷つけた」として、国王を敬愛する数団体が在ネパールスイス大使館の前で 抗議行動 [2]を行った。また、いわゆるビレンドラビールという名称に抗議する請願書 [10]がインターネット上に現れたりもした。

トゥールビネンブラウ社は在ネパールスイス大使から、インターネットでのビレンドラビールの宣伝をすべて中止するよう 要請を受けた [11]とされる。この要請を受けて同社はチムールペッパーを用いたビールの販売促進を断念した。

ビールの王様だって。とんでもない。ビレンドラ国王は痛風にかかっていたんだ。だから、スイスのウスノロな新し物好きが我が国王に「今月の香気」などという訳の分からない称号を付けたからといって王様は喜ぶものか。

しかし、ネパール人のすべてがチムールペッパーの香り付きビールに気を悪くした訳ではない。

国民は故ビレンドラ国王を敬愛している。国王の名の付いたビールだって好きだ。
ところで、ビールに「ビレンドラ」という名前を付けたからといって、どうしてそんなに国民は腹を立てたり気分を悪くしたりしているのか理解できない。
ビールの名前の付け方には特に関心はない。腹を立てている人たちの気持ちを知りたい。

ビレンドラ国王の名前や名誉に傷をつけるつもりはなかったと、トゥールビネンブラウ社の創業者でオーナーでもあるエイドリアン・ウエーバーは、きっぱりと言い切った。

グローバルボイスが2018年5月15日付で受け取ったEメールの中でウエーバー氏は、問題のビールは現在も販売 [15]しているが、春季のみの販売であると記している。

The Birendra Beer is still on sale. But it was only meant to be a seasonal beer for Springtime. Although we have undoubtedly great success also among our Nepalese customer in Zurich, we are looking forward to the next seasonal beer, the summer special. This beer called «Taifun» is spiced with Ginger and cooked with rice. It will be saleable by the end of this week.

ビレンドラビールは現在も販売中です。しかし、春季のみの限定販売となっております。チューリッヒにお住いのネパール人のお客様からすでに多大な支持をいただいてもおりますが、わが社は次の夏季限定ビールに期待をかけています。「タイフン」と名付けたこのビールは、コメを副材料にし生姜で香りをつけた商品で、今週末(訳注:2018年6月2日)に発売の予定となっております。

国内ではネパールペッパーとして一般的に知られているチムールペッパーの利用法が、世間に知られるチャンスだったのに、この度ビレンドラビールが引き起こした波紋は残念なことである。チムールペッパーといわれる香辛料は、野生のサンショウ属の植物から採取され [16]、調味料、香辛料、そして薬剤として利用される [17]。サンショウ属に分類される8種の植物が、ネパールの30の地域のいたるところでみられる [18]

サンショウ油はヨーロッパの幾つかの国で 使われている [18]食材 [19]としてのチムールペッパーの利用法は、米国などの国々でますます注目を浴びるようにもなっている。

チムールペッパーを利用して新しいビールの香りを作り出すということはなんといっても斬新な醸造法である。しかし、商品名の付け方や亡き国王の肖像画使用に関する論争のためにその利用法が見過ごされてしまえば、まことに残念なことである。

校正:Yuki Takagi [20]