バングラデシュ:ヘビーメタルのコンサートはテロ行為か?

ヘビーメタルコンサートのポスター。Facebookイベントページより画像提供。

バングラデシュのヘビーメタル ファンは悲しみにうちひしがれていた。ブラジル出身のデスメタルバンドKrisiunとNervoChaosが、バングラデシュでの演奏を許可されなかったため、2017年5月9日に首都ダッカで予定されていたコンサートが、ソールドアウトしていたにもかかわらず中止に追い込まれたのだ。

メタル・モーグ(死体安置所)と題されたこのコンサートは、これら海外2バンドのアジアツアーの一環として、カルワン・バザレ地区にあるTCBホールで開催される予定で、いくつかの地元のバンドも出演することになっていた。コンサートの主催者は、所定の手続きを経て文化省からコンサートの開催許可を得たうえで、内務省に身元確認を申請した。しかし、5月8日(コンサート前日)午後、主催者は「安全上の理由」からコンサートは開催できないであろうと告げられた。警察は、安全上何が懸念されるのか、情報を明かすことはなかった

バングラデシュでのKRISIUNのコンサートは「安全性が懸念され」中止になったよ。

一方、KrisiunとNervoChaosは、すでにマレーシアを経由してインドネシアからバングラデシュへ向かっており、火曜(コンサート当日)の早朝、バングラデシュ時刻で午前1時半ごろ到着しようとしていた。到着後、両バンドのメンバーとスタッフは入国を許可されず、彼らのパスポートは差し押さえとなってしまった。報道によると、彼らは「身元確認が取れていないのに来た理由」を問われたようだ。

コンサートの主催者は、バンドのメンバーとスタッフがホテルにチェックインできるよう要請した。機材は、翌日、飛行機で出発するまで、空港に置いたままにする条件であったが、警察は、彼らが機材を他から調達してでもコンサートを実行するのではないかと懸念していたようだ。こうしたこう着状態は約10時間続き、彼らはブラジル大使館の介入により、やっと解放された。

バンドのメンバーは空港で足止めをくらった。RaptorのFacebookページからの画像。許可を得て使用。

ブラジルの過激なデスメタルバンドKrisiunは1990年に結成され、スピード感に満ちた曲と暴力的な歌詞で世界に知られている。Nervochaosは1996年に産声を上げ、他のヘビー・メタルバンドと世界中のツアーをこなしてきた。

Krisiunは自身のFacebookページで、この出来事に関する声明を発表した。

We had a very unpleasant experience, where we were victims of a great misunderstanding and experienced more than 10 hours of pure prejudice and misinformation.

As soon as we landed at Hazrat Shahjala International Airport in Dhaka at dawn on the May 9, we were approached by security officers while we searched for our luggage. We had our passports withheld, without any explanation, in an extremely conservative country. The event was canceled and the visas we obtained at the embassy of Bangladesh in Brazil (were) totally disregarded.

俺たちは非常に受け入れがたい体験をした。俺たちは大きな誤解に基づく被害者であり、あからさまな偏見とデマに満ちた10時間以上もの時を過ごした。

5月9日の明け方にダッカのシャージャラル国際空港に到着し、手荷物を探している時、警備員が近寄ってきたんだ。俺たちのパスポートは差し押さえられた。極めて保守的な国で、なんの説明もなくね。イベントはキャンセルされ、ブラジルのバングラデシュ大使館で取得したビザは完全に無視された。

バングラデシュ移民局のムキット・ハサン・カンは日刊紙Prothom Aloにこう述べた。「バンドのメンバーは観光ビザでやってきており、内務省による必要な身元確認がなされていなかったのです」

近年バングラデシュでは、自由主義、無神論者、同性愛者、宗教的な少数派を標的にした武装集団による殺りくが後を絶たない。治安部隊は、特に2016年7月のダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件以降、反テロ活動に力を注いでいる。国内の治安情勢は、それ以来改善しているのだ。

海外のニュースサイトの中には、バンドは「冒とく法」に基づき拘束されたと報道したものもあるが、バングラデシュにはそのような法律はない。

コンサートの中止を聞き、地元のファンは動揺した。

バングラデシュで皆がトラブルに見舞われたって聞いて心配している。がっかりだね。

残念だ
嘆かわしい

Facebookに投稿したファンもいた。

We are really sorry. Been waiting for months to see you guys live. Sorry! :(

とても残念だ。何ヶ月もライブを心待ちにしていたのにさ。チクショウ!

この騒動のとばっちりを受けたのがコンサートで演奏するはずだった地元のバンドだ。彼らは大きなステージでその才能を発揮する大切な機会を失った。

ここ30年ほどの間、バングラデシュで成長を遂げてきたヘビーメタルシーンは多くの障害に直面しており、それは保守的な人々のこのジャンルの音楽に対する消極的な態度と関係している。

KrisiunはFacebookに投稿し、ファンにコメントした。

We are hereby to manifest our big appreciation and respect for the Metalheads in Bangladesh, We know it's not their fault the show got cancelled here today. [..]

We came to Bangladesh to make a concert and unfortunately the authorities decided to cancel, it's not the promoter's fault, it's nobody's fault, it's local authorities decision to shut the show down, the Metalheads are great here in Bangladesh the concert was sold out, We deeply thank all you guys here for the enormous support, We will be back one day! Respect, together we are strong, Metal never dies!

俺たちは、ここに大きな感謝の意を表明すると共に、バングラデシュのメタルヘッズ(訳者注:メタル狂のこと)に敬意を払う。今日、ここでのショーがキャンセルされたことについて、彼らには何の責任も無いと分かっている。[中略]

俺たちはコンサートをするためにバングラデシュにやってきた。そして不運にも当局は中止を決定した。これはプロモーターの責任ではなく、だれの責任でもない。地元当局がショーの中止を決定した。メタルヘッズはここバングラデシュに集結している。コンサートはソールドアウトしていたんだ。俺たちは、皆の数々の支援に深く感謝の意を表明する。俺たちはいつか戻ってくる。俺たちの力は強大であり、メタルは不滅だ。

バングラデシュのファンたちは、その落胆ぶりを表現した映像をYouTubeに投稿した。

皮肉なことに、火曜日(コンサート当日)午前11時30分ごろ、内務省はコンサートについて「問題なし」という証明を発行したが、これには「宗教的感情を害する可能性のある」いかなる音楽も演奏しないこと、という条件がつけられた。しかしながら、空港での長時間におよぶ拘束の後、バンドのメンバーは、前日にキャンセルとなったイベントを開催できる状況には置かれていなかった

昨年5月、スイスのフォークメタル バンドEluveitieも、ダッカでの演奏を予定していた。このイベントもまたオープニングの数時間前に安全性に問題があるとして当局が中止を決定していた

EluveitieはYouTubeに、このメッセージを投稿した。

メタルファンの中には、ヘビーメタル文化に対する当局のあからさまな差別であると不満を述べる者もいた。他ジャンルのアーティスト、特にインドのポップミュージックのスターたちは、バングラデシュでの公演を問題なく許可されてきたからだ。

地元バンドのメンバー、ディオ・ハクはフェイスブックに投稿している。

Brazilian metal band comes to Dhaka, show gets cancelled due to ‘security reasons’ and their passport gets seized, and a whole lot of fans get disappointed. No such problems when our neighbours come to entertain us. Double standard much?

ブラジルのメタルバンドがダッカに来た、ショーはキャンセルされた、安全性の問題だそうだ、彼らのパスポートは差し押さえになった。多くのファンが失望した。隣国の人が俺たちをもてなすためにやって来てもこんな問題は発生しない。なんてダブル・スタンダードなんだ?

ブラジルから来たバンドのメンバーたちは、水曜日、彼らのアジアツアーを続行すべく日本に向けて発った。

校正:Masato Kaneko

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