キューバ:海外に分散する家族をつなぐ、つかの間のインターネット

MONKによるイラスト、ペリオディスモ・デ・バリオ誌(訳注:キューバの独立系メディア)より。許可を得て掲載

キューバの首都ハバナにある屋外の公衆無線LANスポットで、6人家族がタブレットの周りに集まり、代わりばんこに画面をのぞき込んでいる。通信が途絶える恐れがあるので、皆、早口でしゃべっている。

「なあ、兄貴」ひとりの男性が画面上の男性に話しかける。「送ってくれた2足の靴はぴったりだったんだけど、色のついたパンツがダメなんだ。全部白の新品でなきゃいけないんだってば」彼にはサンテリア(訳注:キューバの民間信仰)の入信儀式のための衣装が必要だった。兄は買い直しに行ってやると約束した。「言葉の壁で、探すのがまだ難しいんだよ」と兄は言った。

キューバ中どこのWi-Fiスポットの公園でも、このような会話を聞くことができる。ハバナ大学の人口統計学研究センター(CEDEM)によれば、キューバ人3人に1人の割合で、海外に住んでいる家族がいるという。キューバの人口1000万人のうち、2030年までに年間4万人が海外に流出するだろう、とCEDEMの経済学者で人口統計学者のフアン・カルロス・アルビス=カンポス氏が予測している。

海外への出稼ぎが、キューバに残る家族の生計を支える主な手段になっている例が多い。マイアミに本社を置くハバナ・コンサルティング・グループの報告によると、2017年にはアメリカからだけでも357万5000ドルがキューバに送金されているという。

新しい家族の動態:ネット上の団らんから「国境越しの子育て」まで

現在キューバには公衆無線LANスポットが全国635ヵ所あり、これまでにない方法で家族をつないでいる。

ハバナのアメリカ・アリアス母子病院向かいの公園にあるWi-Fiスポットでは、何十人もの女性が悲喜こもごもに行き来している。電話口で笑い声をあげて話す人もいれば、泣き悲しんでいる人もいる。

ある女性は連れにこう話している。「赤ちゃんができたこと、彼にこれからワッツアップ(訳注:通信アプリ)で知らせようと思うの」

Ilustración: MONK (Periodismo de Barrio). Usada con permiso.

MONKによるイラスト、ペリオディスモ・デ・バリオ誌より。許可を得て掲載

2017年に、心理学・社会学研究所(CIPS)がキューバにおける新しい家族の動態についての研究を行った。主任研究員ミラグロス・サモン氏によれば、生活の質の向上をもとめて家族の誰かが海外移住する「国際分散家族」は、キューバではごく一般的だという。「ほとんどの場合、家計やその他必要な資金を稼いでくるメンバーが、海外にいても一家の大黒柱で発言権を持ち続けます。Wi-Fiスポットのおかげでこの距離が縮まり、よりスムーズに発言権を行使できるようになりました」

Wi-Fiスポットの公園で、また別の会話が聞こえてきた。中学生の少女が母親との通話を終えたところだった。

彼女が友達に話す。「ママに叱られちゃった。土曜のパーティーには行かせてもらえないわ」

「でも、遠く離れてるのに、どうやってそんなことができるの?」

「離れていても、何でもママの思い通りになるの」

そのやり方を彼女は説明する。少女の姉が彼女の成績表を母親に送り、母親から少女の叔母に情報がわたる。叔母は夜この公園に通信しに来ているのだという。

「黙ったままでいることがばれたら、Xbox(エックスボックス)を取りあげられるかもしれない。携帯とかゲームを取りあげるっていつも脅されてるの」

Wi-Fiスポットになっている別の公園の街燈の下では、56歳のローザがほぼ毎晩30分間、ネットを介して家族と連絡を取っている。
ローザにはマイアミに在住の娘とテキサス在住の息子がいる。娘は定期的にキューバに帰郷してくるが、息子とは2012年以来会っていない。

「家族に電話するのが私の元気の素なの。キューバにWi-Fiがなかった頃、話ができるのは誕生日か年末だけだった。話す機会をいっぱい逃してきたわ」とローザは話す。

モバイル・アプリのimoを使って初めてビデオ通話で息子の顔をリアルタイムで見た時のことを、ローザは思い出す。バッテリーが切れるまで3時間話した。

まるで自分が息子の傍にいるように、何もかも取り込もうとしたわ、とローザは話す。「顔を見せて。家の中を見せて。子どもたちの寝室も冷蔵庫に入っている食べ物も」と息子に言った。電話口で彼女は、涙をこらえて笑い声をあげた。というのも、嬉しいことながら、不法出国していた息子が帰国するだろう瞬間を思うと頭がいっぱいになったのだ。2018年初めにキューバ政府は不法出国者の帰国を許可する声明を出し、それには医者やアスリートなど、海外滞在中に亡命した者も含まれている。

社会学者のデボラ・ベタンコート氏は2016年に発表した『国境越しの子育て』という修士論文の中で、次のように書いている。「いわゆる『国際分散家族』は……この種の家族では、海外移住者と国内の家族との地理的な距離にもかかわらず、関係が壊れることなくむしろ強化されることがわかる。こうした関係の基盤となる重要な要素が2つある。コミュニケーション手段と送金だ」

インターネット接続の新しい法律、新しいサービス

Foto: Ismario Rodríguez (Periodismo de Barrio). Usada con permiso.

撮影:イスマリオ・ロドリゲス、ペリオディスモ・デ・バリオ誌より。許可を得て掲載

2013年に、キューバ通信省はインターネット接続の商取引を許可するという決議(No.197/2013)を発表した。それまでは限られたホテルでしか接続できず、1時間あたり4キューバ兌換ペソ(約440円)以上の料金がかかっていた。

2015年に、キューバの国営通信会社エテクサ(ETECSA)が35ヵ所の公衆無線LANスポットを開設すると発表し、キューバ国民はようやくWi-Fiスポットを利用できるようになった。同社は2017年12月の発表で、携帯電話用インターネット・サービスを2018年末に開始するという。

キューバでのインターネット接続料金は現在1時間あたり1兌換ペソ(約110円)だが、キューバの平均月収が30兌換ペソ(約3,300円)であるのに対し、いまだ高額である。

「これから毎日電話するわよ」

夜のWi-Fiスポットで女性がひとり、躍起になって公園内を歩き回り、携帯電話を耳に押しつけ大声を張り上げている。通話先の人物から、もっと話を聞き出そうとしているのだ。

「あなたはどこにいたの? 死んだ男の子たちに知ってる子はいるの?……テレビでは何て言ってる?……あの愚かなトランプが何かしゃべってたらしいけど見てなくて、今聞いたばかりなの」。途中で悲鳴やすすり泣き、小言が入っては、話が中断される。「あなたぐらいの年齢の子が、どうやってライフル銃なんか手に入れられるのよ?……これから毎日電話するわよ。お父さんに代わってちょうだい」

後で我々はその女性に話を聞き、17歳になる彼女の息子がフロリダ州ブロワード郡に住んでいることがわかった。ブロワード郡マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で、同じ日の昼間に同じ日の昼間に銃乱射事件が発生し、生徒17人の命が奪われた。息子が通っていたのは別の高校だったが、ニュースを耳にして彼女は気が動転した。一刻も早く息子の声が聞きたかったのだ。

この記事は、当初ペリオディスモ・デ・バリオ誌に掲載された記事を編集したもの。

校正:Yuko Aoyagi

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