- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

バングラデシュ:川岸の浸食で多くの人が家を失う

カテゴリー: 南アジア, バングラデシュ, 人道支援, 市民メディア, 災害, 環境, 科学, 行政
[1]

バングラデシュ:パッドマ川に飲み込まれる建物 TechTV BD作成ユーチューブ動画のスクリーンショット

バングラデシュでは荒れ狂う パッドマ川 [2]の影響で未曽有の土壌浸食が生じている。そのため、ダッカ管区シャリアトプール県ナリア分区 [3]内の広大な地域が水没している [4]

パッドマ川は、上流域においてモンスーンによる強雨が長期にわたり継続したため、いま増水に見舞われている。ナリア分区内の5,000以上の世帯と500以上の企業が、最近数か月の間に 土地と家財を失った [4]と、リリーフウェブ [5]は伝えている。モフタール・チャー地区の3,000世帯は、1週間ですべてを失った [6]。家屋以外に、多くの道路、橋、排水溝、事業所、商店そしてその他生活に必須な基盤が水没してしまった。

シャリアトプール県ナリア分区でパッドマ川が3階建ての建物を飲み込む。河川堤防の浸食により深刻な変化が生じている。すなわち、数か月のうちに4,000世帯が家を失った。

パッドマ川は、200年続いた村を一晩で飲み込み、バングラデシュ、シャリアトプール県ナリア分区で300年続いたマルフォートガンジのバザールを壊滅させる。写真:AFP通信社ダッカ支局長シャフィクル・アルマ

Dataful.xyz(非営利データジャーナリズム事業 [22])は、アメリカ地質調査所が提供している衛星写真のデータをもとに、動画を作成した [23]。この動画によりパッドマ川が過去10年間 [24]に周囲をどのように浸食していったかを確認することができる。国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)は、この川の浸食により、バングラデシュに知らずしらずの内に災害が忍び寄っている [25]と考えている。

大規模な構造上の損害

パッドマ川沿川の土壌侵食が引き起こした大規模な被害の様子を示すショッキングな動画がインターネット上に公開されている。この動画には建物全体が数秒の内に川に飲み込まれる様子が映し出されている。

 

医学士ナウフェル・マフムード・ブイヤン [26]テネシー工科大学博士論文提出志願者)は、土壌侵食の影響に関する資料 [27]をフェイスブックに載せている。

 

The Padma river has eroded approximately 0.4 sq km near Naria Upzilla (Shariatpur) in last few weeks. A quick analysis using satellite images shows at least three mosques, one health complex, one school, and one bank have been partially or totally engulfed by the Padma river. In the meantime, approximately 1.5 km of road and hundreds of houses and commercial infrastructure were lost although 2018 has not yet been a flood year in that area.

パッドマ川は最近の数週間のうちにナリア分区(シャリアトプール県)近傍の約0.4平方キロメートルの区域を浸食した。衛星画像を用いた簡易分析によると、少なくとも、3か所のモスクと健康管理センター、校舎、および銀行の各1つが、パッドマ川に部分的に、または、完全に飲み込まれてしまったことが分かる。また、この地域は2018年の洪水シーズンをまだ迎えていないのに、すでに約1.5キロメートルの道路、100軒の家屋および商業施設が失われてしまった。

[28]

マルファタンジ・バザール(シャリアトプール県ナリア分区)近傍におけるパッドマ川の浸食による質的損傷評価(2018年9月11日現在)。実証のための現地調査データを手早く入手することができなかったので、分析に当たっては衛星画像とグーグルアースのデータを使用した。 なお、パッドマ川による浸食は日々続いているので、この記事が公表されるときには上記に示した地域の状態は変化している可能性がある。画像著作権:Md N M ブイヤン 使用許可済

パッドマ川沿川の住民は、同川の流路変化に伴う土壌侵食によりたびたび被害をこうむっている。とはいえ、この度、ナリア地域がパッドマ川に飲み込まれていった速さは異常と言える

今回損傷評価を行った場所は、目下進行中のバングラデシュで最大の パッドマ橋築造事業実施個所 [29]から20キロメートル余り下流にある。

政府の対応には幾つかの疑問点も

バングラデシュ政府は、パッドマ川の溢水(いっすい)箇所に砂のう類を積み上げた。しかし、川岸の 脆弱部を大規模に破壊 [30]して流出する大量の流水や流木等をくい止めるには十分な機能を果たしていない。また、政府は災害対策本部を39か所に設置して、被災者のために食料と避難所を提供している。

2018年前半に政府は、洪水及び堤防浸食リスク管理計画 [31]に2億5,500万米ドルの予算を投資することを可決した。これにより、バングラデシュ水開発局は最低でも50キロメートルの河岸防護構造物を築造することと、少なくとも89キロメートルの洪水防止提を修復することが可能となった。しかし、この事業はまだ始まっていない。そして、現在は洪水のために事業停止の状態に陥っている。

ネットワーク市民のM.A.ラティフ [32]は下記のように記している。

…The devastating erosion of the Padma river is ongoing for the last couple of years, no initiative to build a dam or embankment was taken by the local administration. A big portion of Naria Upazila Health Complex and a mosque adjacent to the hospital already washed away…

……パッドマ川による壊滅的な浸食が、この2、3年間進行している。それなのに地方行政機関には、主体的にダムまたは堤防を築造しようとする姿勢がうかがえない。ナリア分区健康管理センターの大部分とこの病院に隣接したモスクが流れにさらわれてしまった……。

政府は浸食を受けた地域を被災地区に指定すべきである、そしてこれ以上の被害が生じないように堤防を築造すると共に河川の浚渫を始めるべきであると、ラティフ氏は提言している。下掲の動画は、市民が川岸を防護するために常日頃、懸命に努力している様子を示している。Riverbank erosion: a persistent problem

河岸の浸食:絶えることのない問題

バングラデシュでは、雨季の間に国内のおおよそ2万4,000㎞に及ぶ河川 [33]の流れにより大量の微砂、砂、および濁水が下流に運ばれる。NASA地球観測発行の2018年8月版 報告 [34]によると、1967年以降、6万6,000ヘクタールの土地がパッドマ川の浸食により失われた [30]。毎年、少なくとも20万の人々が土壌浸食により土地を失い環境難民 [35]となっている。

環境・地理情報サービスセンター(CEGIS) [36]が公表した2018年の研究報告は、川岸の浸食により約2,270ヘクタールの土地が失われたと推計している。また、同報告はジャムナ川、ガンジス川およびパッドマ川の堤防沿いには脆弱性の推定される箇所が22あると予測している [37]

ジャーナリストのムハンマド・ヌール・アラム・ラジュとアフロザ・タゼニンはデイリー・スター紙のオプ・エド(Op-ed) [38]欄に下記のように記している [37]

The government initiative is mainly focused on some subsidy programmes including relief distribution, Vulnerable Group Feeding (VGF), Vulnerable Group Development (VGD), etc., however, these programmes are often inadequate, disorganized, politicized, ad-hoc and ineffective; thus there is much scope for improvement of government initiatives.

The government should include river bank erosion disaster in its five-year programmes and a clear vision should be set for addressing it.

政府の政策は、社会的弱者への食料配布事業(VGF)や社会的弱者進展事業(VGD)など困窮者への救済金配布といったある種の補助金行政に主な重点を置いている。しかし、これらの政策は、まとまりを欠いていたり、政治利用されたり、その場しのぎだったり、はたまた非効率であったりして、本来の目的を十分に果たしていないことがしばしばある。したがって、政府の政策には改善の余地が多く残っているといえる。

政府は堤防浸食災害復興事業を五か年計画の中に取り込むべきである。そして、その事業に取り組む姿勢を明確に示すべきである。

校正:Mariko Ikemi [39]