迫り来る夏を覚悟せよ!『ゲーム・オブ・スローンズ』から読み解く気候問題

(原文掲載は2019年4月13日)

写真:パブリックドメイン。PXhereより引用。https://pxhere.com/en/photo/780571

文:カシア・モラエス

こんな世界を想像してほしい。そこでは支配者層は権力闘争に明け暮れる一方で、未曾有の脅威には目もくれない。しかもその脅威は、人間が作った境界線などお構いなしにその社会を滅ぼしかねないのだ。

この話は、『ゲーム・オブ・スローンズ』の劇中ストーリーとも言える。4月14日に配信開始予定のこのシーズン8(最終章)で、死者の軍団がついに「壁」を突破し、ウェスタロス大陸の命運は決まるだろう。この話はまた、現代世界の政治状況そのものとも言える。つまり、ドナルド・トランプやジャイール・ボルソナーロといった人物が、今もっとも必要とされている他国間主義へ戦いを挑んでいるのだ。彼らが大金持ちを守る壁や過去の独裁制賛美などの目くらまし政策にのみ議論を集中させている間、気候変動がもたらす正真正銘のまさに後戻りできそうもない脅威に、私たちは既にさらされているのだ。

シリーズの劇中では、諸名家はウェスタロスが直面している史上最悪の危機に対処することができない。現実世界の筋書きも似たようなものだ。これまで気候変動問題を引き起こしてきた主な国々は、その後始末に取り掛かろうとしない。一方で、現在は温室効果ガスの主要排出元となっている中国などの新興国は、先進国のお粗末な対応を隠れ蓑にして自国の対処を先延ばしにしている。「共通だが差異ある責任の原則」のおかげで新興国の立場は強い。とはいえ、全世界レベルで気候変動問題に取り組めなければ、そんな国々もまたこの戦いに負けてしまうだろう。ホワイト・ウォーカーの話に例えてみれば、個人の利益を最大化しようという「囚人のジレンマ戦略」が幻想である理由が理解しやすいかもしれない。仮にウェスタロスがホワイト・ウォーカーとの戦いに負けてしまえば、サーセイも他の誰もつける玉座などなくなってしまうのだ。

ではなぜ、大半のウェスタロス人は壁の北からやってくる切迫した大惨事にうまく対応できなかったのだろう。それは人は未知のものを理解しがたいから、という見方もできる。しかし、これでは先祖代々受け継いできた経験と矛盾が生じる。おそらくそんな訳で、ジョン・スノウは自分の命とウェスタロスの未来を危険にさらしてまで、ホワイト・ウォーカーの「生き残り」(そんなものが存在するならの話だが)を捕えようとしたのだろう。ドンキホーテの役回りのスノウは、権力者の眼前にこの問題を実際に投げつければ、惰性的な政治に打ち勝てると思っているのだ。論より証拠、今まさに自分を襲おうとしている生き物の存在を誰が否定できようか。

ホワイト・ウォーカーの存在や危険性が明確になった場合、人々はどう行動するか考えてみるのも興味深い。基本的な対処法としては次の3つがあり、それはみな、現在の気候変動問題と類似点がある。

1. 問題解決に取り組む

あるいはあなたは、以前はホワイト・ウォーカーの(または気候変動の)存在を信じていなかったり、その危険性をみくびっていたかもしれない。しかし近頃の出来事を見て、自分が置かれている状況とこれまでの価値観の再考を迫られたのだ。デナーリス・ターガリンの場合がそうだ。彼女はより差し迫った取り返しのつかない問題に対処するため、玉座争いから一時撤退したのだ。ジェイミー・ラニスターもまた、姉であるサーセイへの揺るぎない忠誠を破り、かつての敵と組んで皆の生存のために戦う。ジョン・スノウに至っては、敵にホワイト・ウォーカーの倒し方を教え、共通善のために軍事機密を明かしてしまうのだ。現実の世界で言えば、イーロン・マスクがテスラ社の全特許を開放したような事柄が、いかに競争で優位に立っても破壊された世界では生き延びるのは不可能なことを思い起こさせる。

2. 撤退という選択

1.で挙げたキャラクターたちと同様、ユーロン・グレイジョイもホワイト・ウォーカーとの会戦によって、その世界観や優先事項に揺らぎが生じた。それでも、彼はデナーリス率いる連合への参加は選ばなかった。ホワイト・ウォーカーが本当に泳げないことをジョン・スノウが確かめた後で、ユーロンはサーセイも誰もかも見捨てて、自分の島への帰還を決める。そこならば死者の軍団は来られず安全だろうと信じているのだ。彼はデナーリスにも同じ行動を勧めすらして、こう言ったのだ。「この危機が去ればふたりで世界を支配できるだろう」

だがその頃まで、支配できるものなど何か残っているだろうか?

気候変動のアナロジーと多国間協力に話を戻せば、米国やブラジルといった国々は、ツバルや他の太平洋諸島ほど差し迫った状況ではないかもしれない。だが、彼らが気候変動の影響を受けないと思うのは錯覚だ。逃れられるものなどいないだろう。

3.「少しも寒くないわ」(ありのままで)

サーセイは、自分以外が凍え死んでも権力を維持でき、いやむしろ権力を強めることができると思っている。抵抗運動への参加を拒んだばかりか、それを攻撃して目先の利益をできるだけ上げようと企んでいる。同様に、ロシア、サウジアラビアなどの国々も自国の石油産業の利益のために国際協力を拒んでいる。だが石油産業は短期的にGDPを上げる手助けをしても、石油は増大する気候変動の影響から国民を守りはしない。

ホワイト・ウォーカーと気候変動のもうひとつの類似点は、その攻撃が予測不能なことだ。どちらの脅威も人類にとって多少得体の知れぬものであり、攻撃に備えるために残された時間はあまりない。気候変動枠組条約締結国会議(COP)で例年、対策を議論し続けて約25年が経つ。今や世界の指導者たちは、話し合いをやめて行動を起こすよう、学齢期の子どもたちから迫られている。ブラジルに至っては、当地で今年開催予定だった次回のCOPについて、開催国の役目を辞退した。つまり新たな投資や協力の機会に対し自ら門戸を閉ざしたということだ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』の話は、我々が子どもたちの叫びに耳を傾けなければどうなってしまうかという良い実例だ。デナーリスのドラゴンが1頭、夜の王の手で殺された時、死者の軍団の影響力はたちまち強大になった。ただひとつの出来事によって物語は急転回し、もしかすると登場人物の全滅という運命が待ち受けているかもしれない。

同様に、気候変動の影響も突然に強大化するかもしれない。将来の温暖化の程度によっては地球全体の気候を極限まで押し上げ、物理系に不測かつ後戻りのできない変化をもたらすかもしれない。今はどの段階にあるのかははっきりとわからない。しかし1度から3度の気温上昇で劇的に変化が進む。この変化は時間と共に激しいものになるかもしれない。気候変動の多くの様相が今後何世紀にもわたって持続するとすれば。そして気温が更に上昇し、温暖化が明らかに進むとすれば。我々のなすべきことは、様々な緩和政策にあたって予防原則を適用すること、地球の気候システムの壊滅的で取り返しのつかない変化を回避することである。

カシア・モラエスは、ユース気候リーダーズ(YCL)の創設者でありCEO。コロンビア大学開発プラクティス課程で公共経営修士取得。リオデジャネイロのコロンビア・グローバルセンターにて、レマン研究奨学金給付財団の役員を務める。YCLイマージョン・プログラム2019について、詳しくはこちら。 

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