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バルカン諸国で水力発電所の建設ラッシュ 環境保護主義者たちが警鐘を鳴らす

カテゴリー: 東・中央ヨーロッパ, アルバニア, コソボ, セルビア, ブルガリア, ボスニア・ヘルツェゴヴィナ, マケドニア共和国, 市民メディア, 環境, 経済・ビジネス
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北マケドニアのジャクピカ山系を流れるクラプスカレカ川で建設中の小規模水力発電所。この地域は、自然保護地域の エメラルドネットワーク [2]の一部である。 エコ-スベスト [3]による写真。許可を得て掲載。

西バルカン諸国の活動家たちは、各地で行われている小規模水力発電所の建設に抗議している。専門家によると、これらの電源開発により環境や水源が脅かされるという。北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、アルバニア、モンテネグロ、クロアチアでは、2,700を超える小規模水力発電所 [4]が計画されており、すでに建設中のものもある。

EUとEU近隣諸国との間の合意に基づきエネルギー共同体条約 [5]が結ばれている。この条約に基づき、条約加盟国は2020年までに何をおいても電力の27パーセントを再生可能エネルギーから確保しなければならないとされている。そのためバルカン諸国は急遽電力供給源を水力発電に転換することとした。

しかし評論家たちは、政府は適切な環境影響評価もせずに建設を急いる、また、進行中の事業は汚職にまみれているという。

中・東欧の市民社会組織(civil society organizations) [6]のネットワークであるバンクウォッチが2017年に実施した 調査 [7]で、欧州が資金負担しているバルカン諸国内の8箇所の水力発電所の視察が行われた。その結果、全ての発電所が自然保護区または生態学的に敏感な地区にあることが明らかになった。また、ほとんどの発電所の建設により河川が干上がったり、村の水源が痛めつけられたりしていることが分かった。2017年に北マケドニアで行われた発電所の現地調査では、川床に捨てられた建設資材が魚や他の生物の回遊を阻害していることが分かった。調査によると、

All of the plants visited are in urgent need of increased impact monitoring as well as restoration measures. In most of the cases flagrant violations of national laws and international financial institutions’ standards are visible.

視察を行った全ての発電所は、至急是正措置が必要であると同時にさらなる影響監視が必要である。ほとんどの事例において、国内法や国際金融機関基準に反する目に余る違法行為が認められる。

マケドニアの生物学者であり、現地の非政府組織エコ-スベストに所属するアナ・コロヴィッチ・レソスカは、グローバル・ボイスへの声明の中でこの傾向に懸念を表した。

All water bodies are invaluable to us. The survival of the rivers depends not only upon the survival of the ecosystems they run through but also on the survival of the local population that depends on them for food and water. Destruction of rivers means the silent destruction of all villages and settlements along with traditions and history.

どの水域も私たちにとってかけがえのない存在です。 河川の存続は、流域内生態系の存続だけでなく食料や水を河川に依存している現地の人々の存続に左右されます。 河川の荒廃により、流域内の全ての村や集落が、伝統や歴史とともに静かに消滅していくということを意味しています。

コロヴィッチは最近、絶滅危惧種のバルカン・オオヤマネコ [8]の生息地である、マブロボ国立公園での2つの大きなダムの建設を阻止する取り組みによって、 ゴールドマン環境賞を受賞した [9]

バンクウォッチ [10]の報告書は、バルカン諸国のいずれの地域でも、小規模水力発電所の建設と操業の利権を獲得した企業は、実権を握っている政治家かその親族が所有していることを明らかにした。報告書によると、

North Macedonia’s Deputy Prime Minister for Economic Affairs, Kocho Angjushev owns at least 27 small hydropower plants, and the president of the main opposition party, Hristijan Mickoski also holds at least five concessions. In Serbia, companies connected to Nikola Petrović, the best man (kum) of President Aleksandar Vučić, are among the top beneficiaries of hydropower support.

北マケドニアの経済問題担当副首相であるコチョ・アンギュシェフは、少なくとも27箇所の小規模水力発電所を所有しており、最大野党の党首であるフリスティジャン・ミッコスキも少なくとも5箇所の利権を保有している。 セルビアでは、アレクサンダル・ヴチッチ大統領の花婿付添人(ゴッドファーザー )であるニコラ・ペトロヴィッチに関係のある企業が、水力発電を支持した企業の中で最も利益を得た企業のうちの1社となっている。

北マケドニアでは、シロヴニツァの村の地元住民たちが市民社会組織の助けを借り、マブロボ市にある2つの発電所の建設に対する法廷闘争に今年勝利した [11]。 マブロボ市は、2つの発電所は国際法規および国内法規に適合していないとして、建設許可を取り消した。

隣国のコソボでは、マケドニア国境に近いシャラ山地にあるシュトルプツェ市で行われた水力発電所建設反対運動で、セルビア系とアルバニア系の住民が団結して行動を起こした。彼らは2018年半ばから、発電所の建設現場で絶え間なく抗議活動を行っている。10月8日には、一連の活動中に 国家警察から過度の実力行使 [12]を受けた。警察は子供を含む [13]参加者に唐辛子スプレーを使用し、20人に傷を負わせた。ローワー・ビティ村近くの住民3人が逮捕され、尋問の後釈放された。

シュトルプツェでの小規模水力発電所への抗議活動。マトコスグループは私有地での建設を中止した。

わずか20年前の民族浄化 [17]で民族が互いに分断されてしまった国で、新たな民族融和の動きが地域メディアの注目を集めている。 その一つが、2019年8月の「シュトルプツェ:セルビア系住民とアルバニア系住民がブルドーザーを燃やし逮捕される」 [18]と題した記事である。同様のニュースがセルビア語のBBCにも公開されている。

西バルカン諸国のエネルギーのほとんどは石炭由来である。この地域内の2018年の全発電量のうち水力発電ダムによるものはわずか3.8% [10]だった。 いずれの西バルカン諸国にも大量の太陽光発電の可能性 [19]が見込まれている。だが、利用されているのは想定量の1%にすぎない。

校正:Masato Kaneko [20]