- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

スリランカ政府 象から身を守るために銃装備を容認 自然保護活動家は反発

カテゴリー: 南アジア, スリランカ, 人権, 市民メディア, 環境
Elephants bathing at Pinnawala Elephant Orphanage [1]

「ピンナワラ村象の孤児院」で水浴びをする象 写真:2017年撮影 筆者提供

スリランカ政府は、農民を象の被害から守るために新たに結成された民間自衛団に武器を支給する計画を公表した [2]。 このことに自然保護団体は懸念を示している [3]

スリランカに生息する象の数は7,500頭と推測されている。今、農民と象の間に生ずる衝突が差し迫った問題となっている。農民が象の行動領域を徐々に侵害していくにつれて、象の生息域は狭まりつつある。行き場を失った象は、餌を求めて畑を荒らすという結果になる。ある地域では、象を危険な厄介者 [4]として扱う事例も見られる。象に遭遇して命を失った人もいる。2019年だけで、約100名が象に命を奪われている [5]

スリランカでは2019年の1年間に、史上最多の361頭の象 [4]が死んだ。その内85パーセントは、「農作物荒し」に対する仕返しとして殺されている。毎年数10名が象に殺され、象による被害は農作物及び生計手段にも被害が及んでいる。そして人間 [6]は、電気柵、毒物、食物に仕込んだ爆発物 [7]により象を殺害している。

スリランカの2019年における象の死亡件数は史上最多に達した。その内85パーセントは人の手により殺害されている。歩き回る象は、電気柵、毒物および爆発物によって殺害されているとみられている。スリランカ政府は一刻も早く行動を起こすものと信じる。

スリランカでは野生象の殺害は犯罪とされており、最も重い刑として死刑に処せられることもある。しかしそれでも自己防衛のためだと主張して象を殺害する行為は無くならない。

銃による解決

スリランカ政府は長年にわたって、森林の縁に住む農民を移住 [12]させたり電気柵 [13]を設置したりするなど、人間と象の衝突を最小限に抑える政策を数々執ってきた。

2020年1月13日、スリランカ政府の野生生物保護省は、人間と象との衝突が最も激しい地域において、防御組織の要員2500名を志願制により一般市民から募集すると 発表した [2]防御活動の第一段階 [15]はすでに始まっている。象を追い払うために、防御組織の要員8名毎に5丁の銃器が支給されることになっている。中国政府の援助を受け、象の侵入を妨げるための頑丈な柵の建設提案もなされている。

民間志願者に銃を支給するという決定に反対の声が上がっている。銃を手渡す目的は象を脅すためだとされているが、毒物や爆発物などさまざまな手段で象を殺す事例が毎年見られるように、銃で象を殺すことも可能になる。政府は、要員に象を殺害する許可を与えていると、法律家ウイーン・ジャヤシンハは言う。

2000丁の散弾銃を農民に支給するという政府の決定は、いろんな意味でとんでもない驚きだ。特に、象を殺したり身体に障害を与えたりしてもよしとする許可を国民に与えるなんて、なんとも先見性のない政策だ

スネラ・ジャヤワルダーネは、Groundviews [21]に下記のように書いている。

Killing elephants with shotguns is very inefficient. The clusters of tiny, iron pellets rarely kill such large animals instantly. Instead, pellets lodge in tissue and cartilage, causing wounds that ooze and fester for months before infection, then limited mobility and eventual starvation kills the great aristocrats of Sri Lanka’s jungles. This long and painful penalty plays out, with the fallen elephant calling a final, heart-wrenching, childlike gulping, a cry of distress.

散弾銃による象の殺害は極めて非効率である。小粒の鉄製散弾で象のような大きな動物を一気に殺害するなど滅多にあり得ない。それどころか、散弾は体内組織や軟骨内に留まり、傷を何ヶ月も化膿させ、ついには感染症をひきおこす。そのためスリランカのジャングルに生息するこの貴族のように気高い巨大な動物は、行動範囲を狭められ、やがて飢餓状態に陥り死んで行く。地面に倒れた象に課せられた試練は長く苦痛に満ちている。子供が泣きわめくような悲嘆の声、胸を張り裂くような叫びとともに象は最期をとげる。

ジャヤワルダーネは、象による被害を防止するために2000丁の銃が住民に支給され、さらに追加支給も予定されていることをリポートするスリランカのウエブサイトPulse.lk [22]のユーチューブ画像を紹介している。

このリポートの中で野生生物保護省前長官スミス・ピラピティアは、法律の規定により、象には危害が与えられないことになっていると強調する。しかし、政府は防御という名目のもとに一般人に銃を支給している。

スリランカ入国旅行者取扱者協会委員ニシャン・ウジェテューンは、銃を一般人に与えれば象以外の動物の密猟が増える可能性もあるし、違法に狩った動物の食肉を販売する業者も増える可能性があると警告する。

スリランカの豪華ホテルの待合室に侵入し、従業員や宿泊客を驚かせる象

スリランカは近年アジアにおける野生動物ツアーに最適の国と認識される [25]ようになった。毎年、数百頭の象がスリランカ中北部、ミンネリア国立公園内の古色蒼然とした湖に集まってくる。これは広く「ギャザリング [26]」として知られている。ジャヤワルダーネは 問う [21]

I wonder, will the wildlife enthusiasts of the world want to visit a Nation that is systematically killing her elephants? Will Sri Lanka, where magnificent elephants have now been demoted from National Treasure to vermin, be the paradise isle that modern tourists dream of?

世界の野生動物愛好家は、象を組織ぐるみで殺害するような国を訪れたいと思うのだろうか。スリランカでは、国の宝とされる象の多くが害獣扱いされるようになってしまった。そのような国が、賢明な旅行者の夢見る楽園の島と言えるだろうか。

校正:Sae Shiragami [27]