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COVID-19、アフリカでの臨床試験の残酷な歴史を呼び起こす

カテゴリー: サハラ以南アフリカ, コンゴ民主共和国, ジンバブエ, タンザニア, ナイジェリア, 人権, 人道支援, 健康, 女性/ジェンダー, 市民メディア, 意見, 抗議, 歴史, 民族/人種, 科学, 行政, 開発, COVID-19

2008年3月29日、ジブチのグベットでの医療民事支援活動中、患者に接するマリテス・カブレザ ( 一等軍曹:第354民事活動部隊、特別機能チーム、アフリカ連合合同部隊付き看護師)写真提供者:ジェレミー・ T・ロック米空軍技術自軍曹 [1] (公有)

COVID-19の世界的影響 [2]に関するグローバル・ボイスの特集記事をご覧ください。

多くの科学者や研究者がCOVID-19(新型コロナウイルス)の治療に効果がある薬剤の治験を急ぐ中、治療薬候補への必要不可欠な臨床試験をアフリカの生身の人間を使うことに関して、熱い議論が戦わされている。

アルジャジーラによると、4月1日、フランスの研究者ジャンポール・ミラとカミーユ・ロシェの両博士は、テレビの生放送で、既存のワクチンの有効性を確認するためには、まずは臨床試験をアフリカで実施すべきだと提案した [3]。パリのコチン病院集中治療部の責任者であるミラ博士は、アフリカでの実施理由を「感染の機会が多く無防備な売春を行なう人を対象に行った、一部のエイズ研究の実施ケースと似ている」からだと主張した。

2人の研究者は、ヨーロッパとオーストラリアで行われているBCG結核ワクチンの新型コロナウィルスへの有効性を検証する治験について討論をする中で、これらの発言を行った。オーストラリアでは少なくとも4,000人 [4]の医療従事者を対象とする臨床試験が実施されている。

この研究者たちの態度は、医療実験と搾取が長く続いたアフリカの残酷な歴史を想起させる。アフリカの指導者たちは製薬会社(多くの場合、欧州または米国に拠点を置く)と共謀して、社会で最も脆弱な人々を対象に治験を実施してきた。

両研究者の発言はすぐに非難と怒りを誘い、「アフリカ人はモルモットではない」 [5]というフレーズのハッシュタグがトレンディ入りした。

サッカーの元コートジボワール代表選手ディディエ・ドログバは、次のようにツイートした。

全く信じられません。いまだにこんなことを警告し続けなければならないなんて。アフリカは実験場ではありません。私は、こういった卑劣で偽りの、そして、何よりも酷い人種差別的発言を強く非難します。
現在Covid 19の感染が拡大しているアフリカを支援し、感染のスピードが緩やかになりますように願ってください。

4月3日までにミラ博士は自らのコメントについて謝罪 [8]したが、それはフランスを本拠とする反人種差別主義グループSOSラシスメ(SOS Racisme)から大きな反発と圧力を受けた後であった。その一方、ロシェ博士が勤務するフランス国立医学研究センター(INSERM)は、報道は文脈を曲解したものであり、ツイッターでの怒りを「偽のニュース」として否定した。

同週、ニュース24によると、コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の研究に最前線で取り組んだウイルス学者ジャン=ジャック・ムエンベは、コンゴ民主共和国は「コロナウイルスのいかなるワクチンの治験にも参加する用意がある」と発表した。 [9]

国家パンデミック対策委員会代表および国立衛生研究所に属するムエンベ博士は、記者会見で次のように語った。

We've been chosen to conduct these tests … The vaccine will be produced in the United States, or in Canada, or in China. We're candidates for doing the testing here.

我が国はワクチンの治験場所として選ばれた。[中略]ワクチンは米国、カナダ、または中国で生産されるだろう。コンゴ民主共和国は、治験実施の候補地である。

繰り返しになるが、この発言はコンゴ国民と世界中のネチズンの怒りに火をつけた。彼らは、COVID-19の感染率が比較的まだ低い [10]コンゴ民主共和国で臨床試験を積極的に受け入れようとする、ムエンベ博士を糾弾した。

この数時間後、ムエンベ博士はビデオメッセージを通じて、ワクチンは米国や中国などの国で開発された後でのみ、コンゴ民主共和国で臨床試験を行うと正式発表した。

昨日、ムエンベ博士は、DRC(コンゴ民主共和国)がCovid-19ワクチンの治験が実施される国の1つであると発表した。彼は今になって、「米国と中国などの国でワクチンの治験が実施された後でしか、コンゴ民主共和国では治験は行わない」、そしてコンゴ人だけが「モルモット」になるわけではないと明言した。

アフリカでの医療実験という残酷な歴史

アフリカでの医療実験は、「偉大なる善」および髄膜炎やHIV / AIDSといった致命的疾患の治療法を見つけると言う名目の下、広く行われた。これに関しては、特にインフォームドコンセントや強制的医療手続きが不十分であると、倫理的および道徳的な警鐘が長年鳴らされてきている。

これらの治験は、多くの場合、世界保健機関(WHO)、米国疾病対策センター(CDC)、国立衛生研究所(NIH)などの主要な保健機関から資金提供を受けている。

ジンバブエでは、1990年代、17,000人以上のHIV陽性女性に対して、CDC、WHO、およびNIHが資金提供した抗レトロウイルス薬AZTの治験がインフォームドコンセントなしで [13]実施された。

1990年代、製薬大手のファイザーは、細菌性髄膜炎の流行時にナイジェリアのカノで200人の子供たちにトロバンと呼ばれる研究中薬剤を投与 [14]した。一部の家族は、ファイザーが説明義務違反などを行ったと提訴し、勝訴した。

医療実験は、人種差別や植民地主義の歴史に刻まれただけではなく、市民と保健当局との間に必要な信頼関係を損なう [15]危険な先例ともなっている。

「ヨーロッパの植民地主義と生物医学の両方がその領域をお互いに拡大し、強化した」とパトリック・マロイ氏は 『Research Material and Necromancy: Imagining the Political-Economy of Biomedicine in Colonial Tanganyika』と題した学術論文で述べている。

マラリアや「ペストのような」病態を示す感染症に対し、植民地当局はしばしばアフリカの被験者から生体サンプルを同意なく採取し、[中略]「アフリカ人の血は植民地時代の医療研究を支えるために使用されてきた」とマロイ氏は述べた。また、次のようにも書き記している。 

In Tanganyika as well as other African colonies, this meant that colonial subjects could be called upon to surrender tissue samples, literally portions of themselves, to the medical authorities.

他のアフリカの植民地と同じくタンガニーカ(現タンザニア)でも、植民地の被験者は無条件で人体の一部を組織サンプルとして医療当局に引き渡すことを余儀なくされていたということだ。

これらの行為は、東アフリカで流布された、ある恐ろしい噂と重なり合う。その噂とは、ヨーロッパ人に雇われた「ギャング(非行集団)」が「ムミアニ 」として知られるガム状の薬を作るために、アフリカ人をさらって、血を取るというものであった。スワヒリ語の『ムミアニ』は「吸血鬼」または「流血」 [16]と言ったイメージを彷彿させ、「搾取」の同義語ともなっている。

この残酷な歴史は、ワクチン接種、臨床試験、医療実験への深い不信感の種をアフリカに植え付け、その結果、政府当局や世界的な製薬会社と連携する保健当局が行う決定に対し、人々は猜疑心を拭い去ることができないでいる。

1990年代にナイジェリアのカノで発生した髄膜炎の裁判の敗訴がきっかけで世の不信感が高まった。そのため、後に必要不可欠なポリオ検査の実施が非常に困難な状態となった。抗ポリオワクチンに関する良くない噂も [17]広まった。最終的には2003年、ナイジェリアの 一部地域ではポリオワクチンを禁止 [18]することとなった。

植民地時代の「遺物(なごり)」からの回復

では、これはアフリカでのCOVID-19試験の可能性にとって何を意味するのであろうか? ネチズンや活動家たちは、「アフリカ人はモルモットではない」という見解を強く表明している。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス局長は、2人のフランス人医師の態度を「植民地の精神性」が「残っている」と指摘 [19]し、次のように宣言した。

Africa can't and won't be a testing ground for any vaccine.

アフリカはいかなるワクチン開発の実験場ともなり得ない。

ただし、医療実験に対する根強い恐怖と不信感は感染経路の追跡と治験に悪影響を与え、その結果、伝染性の高いコロナウイルスは拡散し、医療従事者は困難な戦いを余儀なくされている。

4月6日、コートジボワールでは、住宅密集地区での施設建設は適切ではないと主張する抗議者たちが、COVID-19検査センターを焼き払った [20]。この破壊行為は「西アフリカおよび中央アフリカでエボラ出血熱が発生した際に、一部の人々が医療従事者は重要な医療を提供するのではなく、地域社会に病気をもたらすと懸念し、彼らを襲撃した事件を連想させる」と、BBCは報道した。

しかしながら、2018年、コンゴ民主共和国では、エボラ出血熱が猛威を振るう中、ムエンベ博士およびコンゴ民主共和国政府が医療の指導権を握り、多くの人命を救った。彼らは、「倫理的枠組みに基づいて」 [21]必要不可欠な臨床試験を実施した [22]のである。2019年11月、エボラ出血熱を発症した数千人のコンゴ人に臨床試験を実施した後、ワクチンは承認 [23]された。

WHOは、4月12日、コンゴ民主共和国のエボラ出血熱終息宣言 [24]を行う予定であったが、新たな感染者がいないという状態が50日以上続いた後、4月10日、26歳男性がエボラ出血熱に感染 [25]し死亡するという事態に見舞われた。

現在、コンゴ民主共和国ではエボラ出血熱と出口の見えない人道危機に加え、コロナウイルス蔓延阻止にも注視する必要がある。

COVID-19ワクチンを発見するために、現在、62件の研究が進行中 [26]だ。信頼できる倫理的ワクチンの臨床試験には時間と注意が必要である。大手製薬会社は、アフリカでも、西側諸国で行われる臨床試験で通常遵守しているのと同じ倫理基準を維持する [27]のだろうか?

校正:Sae Shiragami [28]