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スリランカ 世界初の「象に優しいバス」事業 人間と象との衝突削減が狙い

カテゴリー: 南アジア, スリランカ, デジタル・アクティビズム, 市民メディア, 意見, 朗報, 環境, 開発

訳注:この記事の原文は2017年10月13日に掲載された。

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スリランカ: 人間と象との衝突を避けるために考案された「象に優しいバス」を利用する生徒  写真:グラウンドビューズ提供

この記事は、ブリティッシュスクール・イン・コロンボの生徒アーニャ・デ・サラムラルセンが執筆し、グラウンドビューズ(受賞歴のある、スリランカの市民ジャーナリズムウエブサイト)に掲載 [2]されたものである。彼女は象に優しいバス [3]発足記念日を祝う行事に参加し、このバス事業の複数の関係者から話を聞いた。グローバル・ボイスとの記事共有合意の下に、サラムラルセンの記事に編集を加えたものを以下に掲載する。

2017年9月9日、スリランカのワスガムワ国立公園一帯で「象に優しいバス」事業発足を祝う第1回目の祝典が執り行われた。このバス事業はスリランカ野生生物保護協会 [4](SLWCS)が、人間と象との衝突を軽減する目的で導入した革新的プロジェクトである。

スリランカでは象の生息環境が縮小する一方、人間が象の行動領域を徐々に侵すようになるにつれ、人間と象との衝突事故 [5]が増加するようになった。行き場を失った象は食べ物を求めて農作物や人間の居住区域を荒らす結果となり、それを追い払おうとする人間に行き当たると攻撃的になる。このような抵抗、恐怖および領域争いの繰り返しにより、両者の間に争いが生じるようになった。

スリランカでは毎年、おおよそ50人が象に命を奪われている。村民は恐怖心にかられ、身を守るために象に向けて発砲したり毒薬や感電装置を使用したりする。そのため象は、生命の危機にさらされている。毎年、100頭から150頭の象が殺されている。また、統計 [6]によると、人間が象の日常の行動領域に踏み込んだときに、衝突の可能性は一番高くなるという。

スリランカ政府は人間と象との衝突を軽減するため、柵の設置、象の移送、人間の行動範囲から象を遠ざけるための「大掛かりな追い込み作戦」など、 広範にわたる政策を実施してきた 。しかし、これらの人間と象との衝突回避策は、現地の実態を捉えたものではなかった。 そこで実態に合わせた取り組みとして「象に優しいバス」が導入された。

昨年来 [7]、登下校時に子供たちを乗せた「象に優しいバス」が無料で毎日運行されており、子供たちは象の通り道を歩かずに安全に通学できるようになった。大人たちも通勤の往復に、わずかばかりの乗車料金を支払いこのバスを利用し動物に遭わずにすむようになった。このバスの1日の平均利用者数は191名となっている。そのうち子供の利用者数は概ね72名である。

このバス路線はヒムビリヤカダ [8]、イリヤガスルポタ、およびウェヘラガラガマといった中部州 [9]の村にある「象の通り道」を通過する。ここでは、象の徘徊(はいかい)する姿が度々見られ、人間と象が衝突する可能性は依然として高い。これらの村は森林保護地区にあるワスガムワ国立公園の南縁沿いにある。村民は足繁くこの周辺に出入りするので、公園外部の森林で食べ物や水を求めてさまよう象に遭遇することがよくある。

サラムラルセン(ブリティッシュスクール・イン・コロンボの生徒、12歳)は昨年、「象に優しいバス」事業の発足に当たり、資金集め計画の詳細を紹介する動画 [10]を作成した。彼女と仲間たちはブリティッシュスクールで資金集めのためのバザーを開き、「象に優しいバス」事業のために12万7484ルピー(約834米ドル、訳注:約92,600円 2017年の対ドル為替レートで換算)を集めることができた。なお、この事業の開始には、公道における営業許可料および運賃徴収許可料など総額約3万5000米ドル(訳注:約390万円)の費用が必要だった。

最近のSLWCSの統計 [6]によると人間と象との衝突は、「象に優しいバス」の運行が始まって以来80パーセント減少している。運行が始まった最初の7か月で、衝突の回数は83回から21回に減少した。

プッセラヤヤ在住のハルシニ(13歳)は、「象に優しいバス」の運行の開始により、日に5キロを歩く必要がなくなったので通学が飛躍的に楽になったという。ハルシニは、強雨や象による被害を避けるためにたびたび学校を休むことがあったが、いまはバスで安心して通学できるので休むことは滅多になくなった。

「象に優しいバス」は、象から身を守るのに役立つだけでなく、人間と象との衝突に関する学習にも役立っていると、子供たちはいう。24人乗りのバスには、象の保護や野生生物に関する色とりどりの絵や教育標語がたくさん掲げられている。ヒムビリヤカダから通学するメナカ(8歳)とチャトゥリカ(11歳)は、登下校のバスの中で皆で勉強するのがとても楽しいので、「象に優しいバス」通学は大いに気に入っているという。

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「象に優しいバス」絵画コンテストへの応募作品 グラウンドビューズ提供

「象に優しいバス」運行開始祝賀事業の一環として、SLWLCSは絵画及び作文コンテストを実施した。多くの応募作品は象と村人との調和を主題にしているが、同時に子供たちが象に対して抱いている恐怖心など人間と象との衝突の深刻さを扱ったものもある。

象に踏みつけられている人の絵や象に追いかけられている農民の絵などがある。

スリランカ野生生物保護協会では、環境の大切さや生物保護の必要性を子供たちに教えることでこの絵に示されているような否定的な捉え方を変えたいと、同協会会長ラビ・コリア氏は語る。

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「象に優しいバス」の内装 象に関する色とりどりの学習教材が掲げられている グラウンドビューズ提供

このバスは地域のみんなのものです、とコリア氏は言う。

We own the bus but it is operated by a driver and conductor from the village. Also, the money collected from tickets is used by the community to take care of the bus.

このバスはスリランカ野生生物保護協会が所有していますが、運営は村の運転手と車掌に任されています。集計した乗車料金は、村がバスの維持管理費として使用しています。

SLWCSでは、ワスガムワ地区へもう一台バスの追加を計画中である。また、人間と象の衝突が尽きない国内の他地域にも、「象に優しいバス」事業の導入を計画している。

コロンボ宝石商会のシャルミラ・カシムなど、数人の民間篤志家が「象に優しいバス」事業に出資している。理由は次の通りである。

the bus allows children to attend school more regularly, while at the same time keeping the elephants safe.

バスのおかげで子供たちは休まず学校へ通えるし、一方同時に象の安全を守ることもできるからである。

「象に優しいバス」のきれいに磨かれた若草色の車体からは、村人たちがこの事業を誇りに思っていること、象に対する否定的な捉え方を変える努力をしていることが窺える。

このバスの登場で、象たちは以前より自由に歩き回れるようになった。数百年前から変わらぬ姿で、自然と調和しながら、群れをなして食べ物を求めることができるようになったのである。

校正:Minako Enomoto [13]