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2019年度 T.S.エリオット賞を受賞したロジャー・ロビンソンへのインタビュー

カテゴリー: カリブ, イギリス, トリニダード・トバゴ, 市民メディア, 文学, 芸術・文化
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2019年度 T.S. Eliot Prize for Poetryの受賞者ロジャー・ロビンソン。写真撮影:ナオミ・ウッディス(掲載許可済み)

2020年1月13日、トリニダード系英国人の詩人ロジャー・ロビンソン [2]は、詩集『A Portable Paradise(仮訳:ポータブル・パラダイス)』でT.S. Eliot Prize for Poetry(以下T.S.エリオット賞) [3]を受賞した。T.S. エリオット賞は「英語で書かれ、英国またはアイルランド共和国で最初に出版された詩集」に対して授与される。
(訳注:T・S・エリオットはイギリス(生まれはアメリカ合衆国)の詩人、劇作家、評論家。1922年に発表された代表作『荒地』は、後の文学界に大きな影響を与え、1948年度のノーベル文学賞を受賞した。子供向けの詩集、『キャッツ – ポッサムおじさんの猫とつき合う法』はミュージカル『キャッツ』の原作)

審査員は、ロビンソン氏の作品を「日々の苦しみを経験しながら、『甘美で、心地よい人生(sweet, sweet life)』は存在するのだと言う証を見出し続けている」と称賛 [4]した。

詩集は5つのセクションに分かれており、それぞれのセクションは楽園というテーマを探求する詩で終わり、トピックスはロンドンの悲劇的なグレンフェル・タワー火災 [5]からウインドラッシュ事件 [6]の論争に至るまで多岐にわたる。移住、人種差別、アイデンティティ、そして不平等の問題すべてが大胆で生々しい観点で、取り上げられている。

彼の作品は、そう言った問題への異議を唱えるものかもしれないし、西インド諸島出身者のスワガァ(クールに決めた、自分らしいスタイル)の手がかりとなるかもしれない。読者は、彼の詩作が一体どこに向かっているのか大いに気になるところだろう。彼は見事な才能で、物事の渦中に身を置き、それに浸たりつつも、真実の監視人としてあり続ける。彼の言葉は暮らしの中で起きる苦痛を和らげるものであり、彼の詩集は温かい気持ちに溢れ、どんなに無力な状況下であっても、私たちの心の中に他人への思いやりがあることを認めさせ、他者への眼差しを敬虔な音色で詠いあげている。

受賞後、私は電子メールのチャットで彼に連絡を取り、受賞したことや詩集自体について、そして共感がとても重要な理由について、インタビューを行った。

ジャニーン・メンデス・フランコ(以下JMF):おめでとうございます!『A Portable Paradise(仮訳:ポータブル・パラダイス)』は本当に価値のある作品です。受賞は狙い通りだった、それとも嬉しい驚きだったのでしょうか?

Roger Robinson (RR): I never have my eye on prizes, but I appreciate the prize. I’m always about getting the poems to people rather than trying to win a prize. I do like how the prize is getting me to a wider range of reader, though.

ロジャー・ロビンソン(以下RR):決して狙っていたわけではありませんが、受賞をありがたく思っています。私は、受賞よりも、常に人々に詩を届けたいと思っています。ですが、この受賞を機に作品がより広い読者の目に止まることには、とても喜びを感じています。

JMF:エリオット氏自身がアメリカ生まれにも関わらず、イギリスに住んで働くことを選んだことは興味深いことです。一方、あなたはイギリスで生まれ、子供時代にトリニダードに戻った時期もありますが、最終的にはイギリスに定住することを選択しました。ご自分とエリオット氏との類似点やその理由について考えたことはありますか。たとえば、トリニダードは作品の土台となる場所なのでしょうが、イギリスは創作活動に適した場所なのでしょうか?

RR: Hmmmm…interesting. I think Trinidad is also good for creation, but England is good for commerce and access to the international publishing industry.

RR:うーん、、、面白いですね。私が思うには、トリニダードも創作活動に適した場所なのですが、イギリスは商業的に、そして海外の出版業界へのアクセスという点で優れています。

JMF:英国のガーディアン紙はあなたを「イギリス系トリニダード人のダブ詩人」と紹介 [3]しました。あなたも自分のことをそう思っていますか? ダブと言ったジャンルの音楽 [7]を聞いたことがないまたは話し言葉による演奏スタイルに馴染みがない人に、どのように「ダブ」の詩を説明したらよいとお思いでしょうか? 

RR: I’ve made a few dub albums. I think other people have called me a dub poet; I've not necessarily referred to myself that way. Dub poetry to me is poetry influenced by reggae rhythms, with a working-class focus.

RR:私はこれまでダブ・ミュージックのアルバムをいくつか制作してきました。世間では、私をダブの詩人と分類していますが、自分自身では、必ずしもそうだと思ったことがありません。私にとって、ダブの詩とは、労働者階級に焦点を当てたレゲエリズムの影響を受けたものです。

JMF:音楽があなたの詩に不可欠な役割を果たしてきたのは偶然ではありません。あなたはバンド(キング・ミダス・サウンド [8])のメンバーで、レコーディングやミュージックビデオ [9]を作成しています。詩というものにはすべてリズムがありますが、あなたの詩には読者の心や頭に残る音楽性があります。どのようにして、ご自身の作品を他の誰も真似できない、非常に信頼がおけるものへと洗練させることができたのでしょうか?

RR: I don’t know. I think I write from the things that interest me in a moment and I’m truthful to my interests. I don’t think it was a planned thing. Honing craft came through enjoyment of the rigours of practice.

RR:わかりません。その時、自分が面白いと感じたことから書き始めることにしています。つまり、自分の興味に正直なのだと思います。詩は計画してできるものではありません。磨きあげられた作品は、厳しい作品作りを楽しむ中で生まれたのです。

JMF:真実が見えにくい時に真実を語る人になることは、決心がいることだと言えます。あなたの一部の作品は、ジャーナリズムと詩の交差点のようなものだと言っても過言ではないかもしれません。あなたとは違う角度から「真実」というものを捉えている読者が詩集を読むということは、あなたにとって重要なことでしょうか?

RR: I think that I write like I am, so I’m no more daring than my own emotional truths. It’s no more important to me for people who see truth differently to read it, even though I like the idea of people developing and practicing empathy. The practice of empathy by all different types of people would be more important to me.

RR:私は自分の思うままに書いているので、大胆不敵に自分が感じているもの以上のことは書けません。人々が他者の喜怒哀楽の感情を理解し、共有する考え方は喜ばしいことですが、私にとっては、詩集の読者が私とは異なる視点で真実を理解しても構わないのです。様々なタイプの読者がそれぞれの共感を持つことが、私にはより重要なことです。

JMF:トリニダード・トバゴには自分にとって真実と呼ぶに足るもの、つまりあなたから見て楽園の定義にあたるものは存在したのでしょうか、そして、それは英国で変わってしまったのでしょうか? もしそうであれば、詩とはそのギャップを埋めてくれるものだったのでしょうか? 楽園はポータブル(気軽に持ち運びができる)かもしれないと思い始めたきっかけは、何だったのでしょうか?

RR: I started thinking that paradise might be portable because I wanted it to be — and because my grandmother went to England and brought most of her 11 children to England on the money she made sewing dresses. Her children were her paradise.

I think in England I got a sense of myself as an international artist, which I did not get in Trinidad.

RR:楽園がポータブルかもしれないと考え始めたのは、そう思いたかったからです。そして、祖母がイギリスに行き洋裁で生計をたて、11人の子供たちのほとんどをイギリスに連れてきたという事実があったからです。彼女にとって、子供たちは彼女の楽園だったのです。

イギリスでは、トリニダードでは得られなかった国際的アーティストとしての自分自身の手応えが掴めたと考えています。

JMF:この詩集の多くの詩には、人智を超えた偉大なもの、いうならば、更なる永遠の楽園が描かれています。これによって、何を成し遂げたかったのでしょうか?

RR: I wanted people to understand the power of prayer in their time of trauma.

RR:心に傷をおった日々を過ごす中でも、人々に祈りの力を理解してもらいたかったのです。

JMF:あなたの多くの詩に出てくる「ヒーロー」は、一般的には弱者であり、具体的に言ってしまえば、移民です。仮にそうだとしても、アウトサイダーとしての経験は自分の文筆活動にどのように影響しているのでしょうか?

RR: Hmmmm…I can’t tell; I’m too close to it to see. I’m sure it does. I mean, when I came to England I lived in tower blocks so I knew about living in one. I guess it made me see things in a different way.

RR:うーん、、、うまく言えません。自分と自分が書いていることが近すぎるのでよく分からないのです。きっとそうだと思います。つまり、イギリスにやって来た時、私は火事になったのと同じような高層住宅に住んでいました。だから、そこに住む人たちの事がわかったのです。そこから、物事を別の方向から見られるようになったのかもしれません。

JMF:あなたは、2020 年のBocas Lit Fest [10]出席のためにトリニダードに行く予定と伺っていますが、行ったら、他のカリブ海の作家と交流することに興味がありますか?

RR: Yeah, I am coming to Bocas and I'm definitely interested in meeting other writers. Trinidadian poets like Andre Bagoo [11], Shivanee Ramlochan [12] and Muhammad Muwakil [13] are gaining in world recognition, and I’d love to connect with Caribbean writers when I’m there.

RR:ええ、ボカスに行く予定で、もちろん、他の作家の方に会うことに興味があります。アンドレ・バゴー(Andre Bagoo) [11]シヴァニー・ラムロチャン(Shivanee Ramlochan) [12]モハメド・ムワキル(Muhammad Muwakil) [13]と言ったトリニダードの詩人は、世界的に認められていて、是非ともカリブの作家と交流を持ちたいと思っています。

JMF:最も影響を受けた人物とはどなたでしょうか?

RR: Poets like Kwame Dawes [14], Linton Kwesi Johnson [15] and Sharon Olds [16]. People like Muhammad Ali [17]. Musicians like David Rudder [18], Brother Resistance [19], and Bunji Garlin [20].

RR:詩人だと、クワメ・ドーズ(Kwame Dawes) [21]リントン・クウェシ・ジョンソン(Linton Kwesi Johnson) [22]シャロン・オールズ(Sharon Olds) [16]。詩人ではないけど、モハメド・アリ(Muhammad Ali) [23]。ミュージシャンでは、デビッド・ラダー(David Rudder) [18]ブラザー・レジスタンス(Brother Resistance) [19]、そしてブンジ・ガーリン(Bunji Garlin) [20]といったところでしょうか。

JMF:トリニダード・トバゴの詩は、必ずしも万人に人気があるわけではありませんが、詩はソカ(soca) [24]ラプソ音楽(rapso music) [25]から話し言葉による演奏に至るまで使用され、すべて [26]カリンダ(kalinda)』 [26] [武道] の伝統的掛け声(阿吽の呼吸)を連想させるものです。ある意味、これはカリブ海の詩だと言っても構わないでしょう。詩をパワフルな創作素材だと思う理由とは何なのでしょうか?
(訳注:ソカとはトリニダード・トバゴ発祥のポピュラー音楽。名称は、ソウル (Soul) とカリプソ (Calypso) [27] を合わせたもの。ラプソとは、トリンバゴ音楽の詩的な「ラップ」形式であり、カリプソとソカ音楽の次の進化的ステップである)

RR: I think it’s powerful because it helps people to practice empathy. Also it allows people to observe someone practicing vulnerability. A lot of inhumanity will occur without empathy and vulnerability.

RR:詩がパワフルなのは、詩は人々に他人を思いやる気持ちを抱かせるからです。また、詩により、弱い立場の人に気付くこともできます。他者への共感や弱者への思いやりがないと、多くの非人道的なことが起きます。

JMF: 地方の詩人へのアドバイスとかありますか?

RR: Keep writing no matter what anyone says; don’t stop writing.

RR:誰が何と言おうと書いてください。書くことを止めないでください。

JMF: この詩集で、最も誇りに思うことは何ですか?

RR: That I didn’t leave anything back. I gave it all.

RR:何も取り残さなかったこと。すべてを注ぎ込んだことです。

ロジャー・ロビンソン氏の『Portable Paradice』に興味がある方はこちら [28]をご視聴(英語)ください。

校正:Mitsuo Sugano [29]