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ウイグルのメシュレップは存続できるか:伝統的な住民の集会にもおよぶ中国政府の圧力

カテゴリー: 東アジア, カザフスタン, 中国, 人権, 先住民, 市民メディア, 検閲, 歴史, 民族/人種, 芸術・文化, 言論の自由

アルマトイでのメシュレップの様子。YouTube [1]の動画からスクリーンショット。

ウイグル [2]の人々は、中央アジア全域に住む2500万人を超えるチュルク系国家を形成し、長い歴史とともに、遊牧と定住、イスラム以前の文化、スーフィズム(イスラム神秘主義)、イスラム教の精神的伝統が混ざり合う豊かな文化遺産を持つ。この文化の一つがメシュレップ [3](ウイグル語でمەشرەپ)である。メシュレップはコミュニティの集まりであり、多くは男性によるもので、そこで重要な役割を果たすのが音楽と、振る舞いを判定する場となることだ。

男性たちは通常中庭に集まり、ムカム [4]などの伝統的な音楽を奏し、一種のモラルに関する法廷と言えるものを開いている。そこでコミュニティの男性メンバーの行いについて検討し評価する。カザフスタンのアルマトイで開かれたこのメシュレップの短い動画でわかるように、たいていは冷やかしやジョークを交えた、暴力を伴わない身体的罰の真似事といったユーモアあふれるやり方で行われる。

メシュレップの規模や期間は様々だが、数時間にわたることもあり、30人から数百人集まることもある。女性や子どもたちもこの儀式の見学者として歓迎される。

中国新疆ウイグル自治区には現在ウイグル族の大部分が居住しているのだが、1980年代特にその西部グルジャ市 [5]でのメシュレップは、しだいに政治色を強め、若者の権利はく奪や失業、宗教の習わしの問題について公開で討議するようになった。1995年までに中国共産党(CCP)は「民族統一」という国の思想への脅威であり宗教活動の温床であるとして、メシュレップを禁じた [6]。ウイグル文化学者のジェイ・ドーチャーは著書”『Down a Narrow Road:新疆ウイグル自治区におけるアイデンティティと男らしさ』 [7]の中で、次のように説明している。

The increased role of meshrep groups in community activism and social mobilization, in forms such as anti-alcohol campaigns and youth sports leagues, led to a realization on the part of the local government official that unregulated grassroots organizations in Uyghur neighborhoods were proving more effective than official campaigns and state institutions at mobilizing Uyghurs.

飲酒撲滅キャンペーン、若者のスポーツリーグといったコミュニティ活動や人々を動員するような場面で、メシュレップの役割は増大しています。地方の役人は、ウイグルの居住地域では規制されていない草の根の組織の方が、公式なキャンペーンや国家機関よりも、ウイグル人を動員するのに効果的であると感じています。

許可されていないメシュレップが開催され続けるなか、中国当局は「不健全」(禁止とする)と「健全」なメシュレップとの差別化を決め、後者に当てはまるものを採用し、2010年には ユネスコの無形文化遺産 [8]にまで登録させた。中国政府による民族弾圧の政策 [9]を受け、多くのウイグル人がカザフスタンに移住しており、地元の人も最近移住した人も含め20万人を超すウイグル人 [10]が暮らす中央アジアのカザフスタンでは、この伝統が再び人々に広まっている。

さらに詳しくメシュレップの意義を理解し、中央当局の思惑を探るためロンドンを拠点とするレイチェル・ハリス [11]教授に話を聞いた。ハリス教授はロンドン大学にあるSOAS(東洋アフリカ研究学院)で民族音楽学を教え、現在イギリス学士院持続可能な開発プロジェクト [12]でカザフスタンのウイグル文化遺産再生を主導している。また2020年秋には著書『Soundscapes of Uyghur Islam(ウイグル族イスラムの音風景)』の出版を予定している。

インタビューは短く編集している。

カザフスタン、ゲイレト市のメシュレップでの非公式な「法廷」の様子、2019。写真:ムカダス・ミジ。許可を得て掲載。

フィリプ・ノーベル(以下FN ):あなたご自身のメシュレップの定義は何でしょうか? その起源を教えてください。 厳格に男性の儀式と言えますか? なぜ音楽が重要なのでしょうか?

Rachel Harris (RH)?Basically a?meshrep?is a party. But it's also much more than that. Formally, we might say that it is a system of community gatherings maintained by Uyghurs across the Uyghur region and in the diaspora. Meshrep gatherings involve?food, music and dance, joking, readings, and an informal community court. They are an important part of Uyghur culture because they forge lasting community bonds, they support the transmission of language and expressive culture, and they provide a forum for discussion, planning, and community action.

There are many accounts of Uyghur meshrep by travelers in the region going back to the 19th century, but the roots of this tradition likely go back much further. Uyghur researchers have documented many?different kinds of meshrep. Depending on local traditions, they are held for different?reasons: sometimes to celebrate an annual festival,?or to welcome guests. In some Uyghur communities – notably in the northwest Ili region and Uyghur communities in Kazakhstan and Kyrgyzstan – they are held monthly, organized by a fixed group of men who host the meshrep on a rotating basis in their family homes.
Uyghurs are proud of their meshrep. They say that?meshrep?teach the rules of communal behavior to young men, and they serve as a way to perform and transmit expressive culture and communally shared knowledge. Music plays a central role: it accompanies social dancing, and song lyrics provide an important?way for people to remember their history and their homeland.

レイチェル・ハリス(以下RH ):基本的にメシュレップはパーティーです。しかしそれ以上のものでもあります。正式にはウイグル地域やその移住先のウイグル人により維持されているコミュニティの人々が集まる仕組みと言えるかもしれません。メシュレップの集会には食事、音楽やダンス、ジョーク、朗読、非公式ではありますがコミュニティの法廷が含まれます。これはウイグル文化の重要な部分です。というのも、地域社会でつながってゆく絆を作り、言語や表現文化の伝承を支援し、議論したり、計画を立てたりするコミュニティの活動の場を提供するからです。

ウイグルのメシュレップについては、19世紀の旅行者の記述が多数ありますが、この伝統のルーツはさらに古い時代にさかのぼるようです。ウイグルの研究者たちは多くの種類のメシュレップを記録してきました。地方の伝統により、違った理由で開かれていて、年に一度のお祭りを祝うためや、お客を歓迎するために行われることもあります。特に北西部のイリ地方や、カザフスタン、キルギスタンのウイグル人コミュニティでは月に一度開かれ、交代で自宅を中心にメシュレップを開く固定した男性グループにより催されています。ウイグル人は自分たちのメシュレップを誇りにしています。メシュレップがあることで若者が地域の人としての行動規範を知り、表現力豊かな文化や地域共有の知識を披露し伝えてゆく場として人々が利用しているのだと、彼らは言います。音楽は中心的な役割を担っており、社交ダンスも伴っていて、その歌詞は人々がウイグルの歴史と祖国を思い起こすために重要なものなのです。

ウズベキスタン、シャフリサブスでの「国際ムカム・フェスティバル2018」に参加したレイチェル・ハリス教授。写真提供:レイチェル・ハリス 許可を得て掲載。

FN:中国国家により許可されたメシュレップになることで、一体何が起きているのでしょうか?

RH? Meshrep gatherings were inscribed by China on UNESCO’s list of “intangible cultural heritage in urgent?need of safeguarding” in 2010.?I've been observing China's?approach to safeguarding?meshrep over the past ten years. In the early years it took the form?of the kind of “top-down” approaches to heritage that we so often see in China: spectacular song-and-dance performances for television and tourists, organized by government agencies.

At the same time, the ever-tightening restrictions on community life in the region under the “anti-religious extremism” campaigns meant that it was?increasingly difficult for local communities to organize their own meshrep.?Since 2016 the situation has become much worse. China’s radical policies of surveillance, mass internment, and coercive forms of “reeducation” in Xinjiang have seen an end to virtually all cultural activities except those organized by the state. These are massive abuses of human rights which violate many international norms and laws. Under these campaigns we saw the transformation of meshrep into compulsory singing and dancing sessions for Uyghur villagers, which were intended to “cleanse” them of the “virus” of their faith. This context renders China's commitment to UNESCO’s heritage agenda completely void. In my view, UNESCO should no longer sanction the Chinese government's claim to be “safeguarding” Uyghur culture.

RH:メシュレップの会合は2010年中国により「緊急に保護が必要な無形文化遺産」として登録されました。私は過去10年以上にわたって、メシュレップを保護するという中国当局のアプローチを観察してきました。最初の数年間、それは中国でよく見られる「トップダウン」という形でのアプローチで、政府機関により計画された、テレビや旅行者向けの華美な歌や踊りのパフォーマンスでした。

同時に「反宗教的過激主義」のもと、その地域のコミュニティの生活に対して、さらに厳しい制限を設けており、地方のコミュニティが独自のメシュレップを行うことはさらに困難になっています。2016年以降状況はもっと悪化してきました。国による監視や多くの人の抑留、さらに新疆ウイグル自治区における強制的な「再教育」を行うといった過度な政策により、政府によるもの以外のすべての文化的活動が事実上終わりを迎えているのです。多くの国際的規範や国際法に違反する大規模な人権侵害があります。このようなキャンペーンのもと、ウイグルの村人たちにとって、彼らの信じる「ウイルス」を「浄化」することを意図した強制的な歌や踊りの会へとメシュレップが変容してきているのを、私たちは見てきました。このような状況は、中国がユネスコの遺産に対する考えに賛同し登録させたことを無意味にしています。私は、中国政府がウイグル文化を「保護する」という主張を、ユネスコはこれ以上認可すべきではないと考えます。

中国政府が企画した、旅行者向けのメシュレップの催しの一例

FN:現在カザフスタンに住むウイグル人コミュニティを通してメシュレップの復活を語ることは間違いないことでしょうか? この「奥深い遺産」は、ウイグル文化の参加型儀式として守られるのでしょうか?

RH?Over the?past few years, Uyghur communities in Kazakhstan have led a meshrep revival that takes a very different form.?They are engaged in revitalising?meshrep?as a tool for?community?self-organisation and self-support, and a way?to transmit Uyghur language and customs to the younger?generation. At my university, we have been working with scholars, Uyghur organisations and local communities to document and support these efforts. Of course, the cultural heritage sustained in Kazakhstan represents only a tiny portion of the rich and diverse expressive culture of the Uyghurs, but what they are doing may provide a future model for real, community-based cultural revitalization.

RH:過去数年にわたり、カザフスタンのウイグルコミュニティは、異なった形でメシュレップの復活を主導してきました。彼らはコミュニティの自己管理や自らをサポートするツールとして、またウイグルの言語や習慣を若い世代に伝える方法として、メシュレップの再生に取り組んでいます。私の大学では、学者やウイグルの組織、地方コミュニティと協力してこの取り組みを記録し、支援してきました。もちろんカザフスタンに残る文化遺産は、ウイグル人の豊かで多様な表現力を持つ文化の一部分にすぎませんが、彼らが行っていることが、真のコミュニティに根ざした文化の再生をもたらす将来のモデルになるかもしれないのです。

校正:Atsushi Fujihara [14]