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タイ:メディアを封じても、学生が主導する抗議行動は止められない。

カテゴリー: 東アジア, タイ, メディア/ジャーナリズム, 人権, 市民メディア, 抗議, 政治, 若者, 架け橋, タイでは、なぜ若者が抗議の声を上げているのか

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映画「ハンガー・ゲーム」の革命サイン、3本指で政権へ抗議の意思表示をするタイの若者たち。写真はFoundation for Community Educational Media 2006 (cc) BY-NC license.使用許可のもと、Prachataiが提供。


(記事の原文は2020年10月29日に投稿された)

この記事 [1]は当初、 Sek Sophalが Coconet [2](非営利のメディア・技術・文化団体である EngageMedia が、アジア太平洋地域で主催するデジタル著作権管理構築のためのプラットフォーム)に投稿したものである。グローバル・ボイスとのコンテンツシェアリング協定のもとに編集し以下に掲載する。

タイでは、4人以上の集会を禁止する緊急事態宣言発令 [3]にも関わらず、若者が率いる民主化運動 [4]は治まる気配がない。それに対処するため、国家の安全に重大な脅威を与えたとして、タイ政府は10月16日付けで4つの独立系報道機関および1つのFacebookページに対してニュースコンテンツ配信停止の措置を執った。この処分を受けたのは、Voice TV [5]Prachatai [6]The Reporters [7]、 および The Standard [8]そして Free Youth 運動 [9]の Facebook ページである。命令書には、国家放送通信委員会およびデジタル経済社会省の要請を受けて、国家警察長官スワト・ジョンヨドスク(Suwat Jangyodsuk) が署名 [10]した。

10月21日の刑事裁判所の裁定を受けて、これらメディアに対する処分は解除された。 [12] 憲法35条第1項および第2項は「報道を本業とする者は、職業倫理にしたがい情報を伝達し、または意見を表明する自由を享受する」さらに「第1項の規定に基づき、何人も、新聞社またはその他のマスメディアから表現の自由を奪い、その活動を停止させてはならない」と、規定している。同裁判所は、この規定を処分解除の根拠とした。

あえてこの措置に踏み切った政府の決断は、的外れで逆の効果を生んだ。4つの報道機関に規制をかければ、継続中の抗議行動を阻止もしくは弱体化させることができると、タイ政府が信じ込んでいたのなら、それは致命的な間違いであった。

マスメディアを凌駕する、若者たちの抗議行動コミュニケーション術

現在の反政府運動が始まる以前から、Voice TV、Prachathai、The Reporters および The Standard の4社は、タイ国民に向けて大局的観点に立った自由を尊重する内容の情報を発信するメディアとして、重要な役割を果たしていた。これらの報道機関は一貫して、質の高い報道内容、専門性を重視する姿勢、および、マスメディアとしての倫理的行動規範の3点を保ち続けている。そのため、これらの機関に対する支持は高まるばかりである。たとえば、Voice TV のユーチューブチャンネルは、反政府運動報道期間中、チャンネル登録者が2百万人以上に急増し [13]、今や国内で最も人気のあるニュースサイトの一つである。

タイ政府の意図が、反政府運動に関する情報の拡散を止めようとするものだったとしたら、今回の非常事態宣言は戦略的に誤っていたといえよう。タイの若者の多くは上記4社の独立系報道機関に依存しているとはいえ、同種の情報を独自に提供しているオンラインプラットフォームは、他に幾つもある。また、若者たちが求めるような情報は、 Telegram や Line、Signal などの コミュニケーションアプリといった別の伝達経路を利用して発信されたり共有されたりもしている。

抗議行動を起こす際には、一般的に主にマスメディアやその他のコミュニケーション手段に頼っているが、今回政府の処分を受けた報道機関は、 学生たちの抗議運動のための伝達手段、連携手段、および運営手段としての関わりは一切持っていない。 このことは軽視できない事実である。 抗議を続ける若者たちは、ソーシャルメディア機能を使いこなせるという強みを利用して、組織構造、情報流布、時間管理および抗議活動管理に関しては、 抜かりなく処理している。たとえば、10月14日から21日にかけて首都バンコクのラッチャプラソーン区、パツームワン区、ラートプラーオ区およびアソーク交差点やその他の地方で行われた抗議行動では、学生たちがいかに巧みに抗議運動を組織し、連携し、管理しながらやり遂げたかということが明確に実証されている。その例として、学生たちは治安部隊から身を守るため、抗議運動の時間や場所を直前まで伏せておくという事例が挙げられる。事実、抗議運動は同じ時間帯に数か所で同時に開始されている。実例として、10月18日(日)に、バンコクおよび国内の12の州 [14]のそれぞれの場所で抗議運動が実施されたという事例を挙げることができる。抗議運動の主導役を務める若者たちは、不必要な衝突を避けるため、治安部隊が抗議活動の現場へ向かっている間に、素早く集会を打ち切り参加者を解散させている。

政策の脆弱性が見え隠れ

2014年5月の軍事クーデターで政権の座についたプラユット・チャンユチャ首相は、タイ国内では独立系メディアと反りが合わないことで知られている。反政府運動が高まり続けていることから、メディア規制は効力がなかったばかりか、明らかな失政の兆しと無能を露呈し、首相の統治能力が問われた。

事実、この首相の決断はさらなる抗議行動をあおった。10月13日以来、バンコクでの抗議行動は日常化している。タイ当局による抗議運動リーダーの続けざまの逮捕や抗議運動参加者に対する威嚇や嫌がらせが主な原因と言える。13日に警察は、リーダーのジャトパット・ブーンパタララクサ(ニックネーム:パイ・ダオ・ディン) [15]を含む21人 [16]の抗議運動参加者を逮捕した。 翌日には、数千人の学生が行動を起こし政府庁舎へ向けて行進を開始し、政府に対する抗議の意思表示をするとともに拘束された仲間の釈放を要求した。

過去3か月に、62地区で246の抗議行動 [17] が行われている。抗議行動が続くのに伴い、非常事態が発令された10月15日直後から、政府による拘留者の数は急増した。 [18]Thai lawyers for Human Rights (TLHR、訳注:人権保護の弁護士団体) によると、10月13日から18日の間に81人もの [19]逮捕者が出ている。TLHRはまた、抗議運動参加者の少なくとも 65人 [17]が、それぞれの分担した役割に対して容疑がかけられているとしている。 さらに、タイの治安部隊が関与したとされる嫌がらせの [17] が145件挙げられているとも付け加えている。政府が抗議運動参加者を逮捕すればするほど、抗議行動の規模は広がりを見せている。

プラユット陸軍大将は、花をつける木を切ることにすら権力を使う。自分の戦車部隊に、庭園まるごと破壊する命令を出すことさえできる。しかし、春がくるのを止める力などあるはずはない。プラユット政権の終焉はそう遠くない可能性がある。

Sek Sophalは、立命館アジア太平洋大学アジア学部から太平洋学部修士号を取得している。同大学民主化支援研究所 (RCAPS) 研究員であり、カンボジア独立メディアセンター(CCIM) プロジェクト担当官も務めている。この記事で述べられた見解はSek Sophalの個人的な意見であり、彼の所属する機関を代表するものではない。
校正:Masato Kaneko [20]