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虐待され、コロナウイルスに感染し、ベイルートで足止めされるナイジェリア人家事労働者

カテゴリー: サハラ以南アフリカ, ナイジェリア, レバノン, 人権, 国際関係, 女性/ジェンダー, 市民メディア, 民族/人種, 移住と移民

(訳注:原文掲載は2020年8月13日であり、記事内容は当時の状況を反映している)

雇用主宅を追い出された後、レバノンで足止めされ、多いときは30人もの女性がこの家事労働者のためのシェルターに住んでいる。写真撮影:ダラ・フォイエラ。使用許可済み。

現在、43人のナイジェリア人女性がレバノンの首都ベイルートにある3軒のシェルターに身を隠している。彼女たちは今年8月4日にレバノンで発生した巨大爆発事故の後、家事労働者として働いていた雇用主宅を追い出された。

ベイルートで足止めされるナイジェリア人女性を取り巻く状況
– 3軒あるシェルターでは、1部屋に最大30人が居住
– 家具は無く、設備は水準以下
– 飲み水が手に入らない
– 食べ物が手に入らない
– 雇用主や仲介業者(人身売買人)から日常的に脅迫を受ける

英ガーディアン紙の報道 [4]によると、ベイルートの港湾倉庫での爆発は、超音速の衝撃波を生み出し、街を駆け抜けた爆風で135人の死者と5000人の負傷者を出した。8月10日には、爆発事故に対する抗議活動の広がりを受けて、レバノンのハサーン・ディヤーブ首相が内閣を総辞職 [5]した。

更に、新型コロナウイルスの大流行によって、雇用喪失が拡大し、元々深刻であった経済危機 [6]がさらに悪化していたところに、爆発事故によって蓄積された怒りがレバノン国民の間で噴出した。 

しかし、最も深刻な被害を受けたのは、大多数がアフリカ諸国出身である移民家事労働者たちだ。

英ミドル・イースト・アイは以下のとおり報じている。

移民家事労働者たちが、ベイルートにあるケニア領事館の外で、自分たちを祖国ケニアに帰す手続きを取るよう、当局に対し抗議活動を行っている。彼女たちの多くは先週火曜日の爆発事故の後、雇用主宅から追い出された人々である。

8月13日、レバノンの情報機関である公安総局は、抗議活動を行うケニア人移民家事労働者たちを逮捕した。

(リツイート)
レバノン公安総局がケニアに帰してと懇願する女性たちを逮捕している。
レバノンは移民労働者にとって地獄。彼女たちは文字通り祖国に帰してとお願いしているだけなのに、そのせいで逮捕されている。

これを取材したいケニアのジャーナリストはここに連絡して。
(元ツイート)
もし@nayelrahiに合流できるなら、バダロに向かって
(バナー訳注:@nayelrahi はツイート発信者。バダロは領事館のある場所)

レバノン公安総局は、祖国へ帰せと領事館で抗議しているケニア人労働者を逮捕している。たった今、誰かが連れて行かれた。
応援求む。パダロの領事館へ来て。レバノン犯罪国家が強引な実力行使に出ている。私たち全員に対してね。

爆発事故の前でさえ、新型コロナウイルスが原因で景気低迷が悪化したことに伴い、大勢のアフリカ出身の家事労働者が雇用主によってレバノンの路上に捨てられ [11]ていた。お金とパスポートもなければ、性的搾取を受ける女性たちもいる。 

カファーラ保証人制度 [12](訳注:中東諸国が採用している移民労働者を監視する制度)の下では、レバノンの移民家事労働者の在留資格は雇用主によって管理されている。この奴隷制にも似た労働法は、搾取と虐待を恒常的なものにしている。

虐待、搾取、ハラスメントに関する多くの事例 

ベイルートに拠点を置き、非営利組織「シリアン・アイズ」 [14]の一員でもある人権活動家のダラ・フォイエラは、現在ナイジェリア人女性たちが3軒のシェルターにいることを、WhatsAppを通じてグローバル・ボイスに話した。

1軒目のシェルターでは、2部屋の居室に30人の女性が押し込められている。フォイエラによると、この家は女性たちが身体的、性的暴行の被害を受けることがある危険なスラム街に位置しているそうだ。「この家に押し入ろうとした男たちもいる。女性たちは彼らが侵入してこないように、ドアをソファで押さえていなければならなかった」とフォイエラは言う。

ナイジェリア人元家事労働者たちの中には、新型コロナウイルス陽性と診断された人もいる。 写真撮影:ダラ・フォイエラ。使用許可済み。

しかし不幸にも、シェルターに住む1人の女性が新型コロナウイルス陽性であるために、他の女性たちもより安全な場所に移ることができない。国境なき医師団と協力関係にあるシリアン・アイズは、新型コロナウイルスに感染した女性たちを治療している。

2軒目のシェルターは 7人の女性を、3軒目は6人の女性を匿っている。これらのシェルターはベイルートのより安全な地域に位置している。2軒目のシェルターに滞在している女性たちの中には、8月12日にナイジェリアへ帰還した人もいる。

レバノンで足止めされていた女性たち。祖国に帰ってこられて興奮してる

ナイジェリアの斡旋業者によって レバノンに人身売買された 女性たちの多くは、爆発事故の後、レバノン人雇用主から逃げ出すか追い出されるかのどちらかであった。彼女たちのパスポートは雇用主が強制的に取り上げているため、有効なナイジェリアのパスポートは誰一人として持っていない。

様々な情報源によると、女性たちの多くは、奴隷のような仕事に引き戻そうとする雇用主から受ける、継続的なハラスメントやトラウマに耐え続けている。 

フォイエラは、「ローラ」を名乗る人物からのWhatsAppメッセージから、グローバル・ボイスに提示可能なものをいくつか証拠として見せてくれた。ローラというのは彼女の身元保護のためのペンネームである。 

ローラは雇用主から5件のボイスメッセージを受け取ったが、 その内容は最初は嘆願から始まったものの、程なくして脅しへと悪化していった。 

最初のボイスメッセージを、 大まかにアラビア語から英語に翻訳すると、「ローラ、元気?どこにいるの、なぜ出ていったの、教えてほしい。どこにいるのか教えて」とあった。

次のWhatsApp のボイスメッセージは暗に脅しであった。「パスポートを取りに来て。国に帰りたいなら、パスポートを手に入れないと」

3件目のWhatsApp のボイスメッセージはこうだ。「もし国に帰るなら、パスポートとお金を取りに来てから行くように斡旋業者に伝えたよ」

4件目は斡旋業者からだった。「ローラ、なぜ奥様のもとから逃げ出したの?あなたが仕事を続けたくないことを奥様に伝えるのはとても簡単だよ。パスポートは私たちが持ってる。あなたと話し合って、問題を解決してからナイジェリアに帰ってもらうのが私たちにとっては良いのだけれど……」

ローラの「奥様」から届いた5件目のボイスメッセージは明らかな恐喝だった。「もしパスポートを取りに来ないなら、警察を呼んで捕まえてもらう。そしてあなたが逃げ出したと言うよ」

フォイエラによると、このように足止めされた家事労働者たちは 、渡航文書を発行するレバノン公安総局と連絡をとることができるナイジェリア大使館に頼るしかない。

大抵は、大使館での申請に基づいて4枚のパスポート写真を提出すれば、ナイジェリアに戻る無料航空券を入手できる。 

家事労働者が盗みを働いたと主張して、元雇用主が家事労働者に対して刑事責任を負わせるときは、 ローラの事例のように、本国送還が延期されることがある。合法的な出国書類をもって空港にいるときでさえ、彼女たちは逮捕され、3、4週間拘留された後にまた路上に放り出される可能性があるのだ。 

フォイエラはひどく怒ってグローバル・ボイスに以下のように強調した。

The Nigerian government needs to put pressure on both the Lebanese foreign and labour ministries to grant a general amnesty to all Nigerian domestic workers to be repatriated.

ナイジェリア政府はレバノンの外務省と労働省に対し、全てのナイジェリア人家事労働者が本国送還される大赦を行うよう、圧力をかける必要がある。

それが、「不当に罪に問われた女性たちが空港で逮捕されずにレバノンを出国できる」唯一の方法なのだ。

校正:
Motoko Saito [17]