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インドとネパールで編まれる稲わら芸術の知られざる美

カテゴリー: 南アジア, インド, ネパール, 先住民, 市民メディア, 民族/人種, 芸術・文化

稲わらから作られた「ジュティ(jhutti)」。CK・カルヤン・タルー撮影、許可を得て掲載。

アジアの地域社会は何世紀もの間米を主食にしてきたので、この重要な食料源が地域の芸術作品の素材や題材になってきたことは不思議ではない。この穀物をスケッチしたり絵に描いたりする芸術家もいれば、稲わら [1]を美しい形に編み上げて家を飾る古くからの伝統をひっそりと守っている地域もある。

カティルクラ(Kathirkula)

南インドのケララ州では、カティルクラと呼ばれる稲わらを編んで作られた束が家々や寺に吊り下げられる。カティルクラを吊り下げると、その家に健康と富、繁栄がもたらされると信じられている。

 

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ネルカティル(ŃĔĹĶÁŤĤĨŔ)とは、干した米粒のこと。カティルクラ(稲の束)は、繁栄を願って家々で飾られる民族のシンボルです。カティルクラは稲の穂を編んでブーケのような形にした房で、ケララ州の家にはたいてい吊り下げられています。

フェイスブックのページR-Aadya [3]には、インド・ケララ州で吊り下げられている稲わらについての記載 [4]がある。

“Nelkathir” is a bunch of artistically plaited bouquet of rice seeds, usually hung in front of the entrances to old ancestral homes (Tharavadu) in Kerala.

This symbolizes prosperity in homes. It is linked to a traditional custom called “Illam Nira”-(House filling with Paddy). This ritual heralds the farming and harvesting in Kerala. […] This can also be seen in front of all temples in Kerala as a symbol of opulence.

Deepthi Menon (RCP)

「ネルカティル」は稲の穂を芸術的に編んでブーケのような形にした房で、ケララ州にある昔ながらの家(タラバドゥ)の玄関先にはたいてい吊り下げられています。

ネルカティルは家々で繁栄のシンボルとして飾られています。ネルカティルは「イラム・ニラ(米で一杯になった家)」と呼ばれる伝統的な風習と結びついています。ケララ州では、耕作や収穫に先立ってこの儀式が行われます。[略]ネルカティルは富裕のシンボルとして、ケララ州のどの寺の軒先でも見ることができます。

ディープティ・メノン(RCP)

これを見ると懐かしい昔を思い出す。

ジョティ(Jhoti)

インド東部のオリッサ州には、ジョティまたはチタと呼ばれる米のりを使った伝統的なオリヤー芸術があり、祭りの機会に壁や床に描かれる。光の祭典、ディワリの期間中、稲の山や稲わらのモチーフが描かれる。オリッサ州言語文化庁 [8](The Odia Language and Culture Department)は以下のように述べている。

During this auspicious occasion, the mud walls and floors are decorated with murals in white rice paste or pithau. They are called jhoti or chita and are drawn not merely with the intention of decorating the house, but to establish a relationship between the mystical and the material, thus being highly symbolical and meaningful. […] For each occasion a specific motif is drawn on the floor or on the wall. For instance, in Lakshmipuja a stack of paddy or rice sheaves is drawn on the walls structured like a pyramid. […]

この慶事の期間中、土壁や床はピタウ(pithau)と呼ばれる白い米のりで描かれた壁画で飾られる。壁画はジョティまたはチタと呼ばれ、描かれるのは、家を飾るためだけでなく、神秘の世界と現実の世界を結び付けるためでもあり、非常に象徴的で深い意味がある。[略]それぞれの機会ごとに、特有のモチーフが床や壁に描かれる。たとえば、ラクシュミプージャ(ラクシュミ神への礼拝)の日には、ピラミッドのような構造の壁に、稲の山や稲わらのモチーフが描かれる。[略]

ジュティ(Jhutti)

インドには、壁に描かれる芸術ジョティがあるのに対し、ネパールの南部平原地帯には、ちょうどケララ州のカティルクラのように稲わらから作られる芸術ジュティ [9]がある。ジュティはカティルクラよりも複雑な形に作られている。米を収穫した後、選別された稲わらを編んでジュティが作られ、メー(米を脱穀する際に牛をつなぐ竹の竿)の高いところに吊り下げられる。タルー [10]族の人々は収穫する米の種類ごとにジュティを作ることで特に有名である。

左から右へ:カカヒ(kakahi) くし、マウル(maur) 花婿の髪飾り、カウワ・トリ(kauwa tholi) カラスのくちばし、パティヤ(patiya) 敷物。CK・カルヤン・タルー撮影、許可を得て掲載。

ジュティには様々な形と大きさがある。ジュティは自然や身の回りのものからアイデアを得て作られている。たとえば、カウワ・トリ(kauwa tholi)はカラスのくちばし、パティヤ(patiya)は敷物、カカヒ(kakahi)はくし、ジュンジュナ(jhunjhuna)は赤ん坊のおもちゃ、ベナ(bena)はうちわ、バカリ(bakhari)は穀物倉、マウル(maur)は花婿の髪飾りを模している。

米を収穫したあとは、鳥がついばむものはもう何も残っていないと信じられている。ジュティはもともと鳥に餌をやるために吊り下げられていたので、タルー族の人々の間では自然に対する愛情の象徴となった。ジュティは異なる種類の米が収穫されるたびに作られていた。

かつてグローバル・ボイスとのインタビューのなかで、タルー・カルヤンカリニ・サブハ(タルーの福祉組織のひとつ)シラハ支部元支部長、チャンドラ・キショレ(CK)・カルヤン・タルーは、ジュティを作る伝統にとって自然がいかに大切であるかを繰り返し語った。

Our ancestors loved and worshipped nature. They weaved Jhuttis so that the birds wouldn’t die of hunger after harvest.

私たちの祖先は自然を愛し崇拝していました。祖先たちは、収穫の後、鳥が飢え死にしないようジュティを編んだのです。

ジュティを作る伝統の復活を目指してバルカワル地域社会開発フォーラムが主催したジュティコンテストの様子を伝えるニュース記事のスキャン。ネパールの日刊紙カンティプルから。CK・カルヤン・タルー提供、許可を得て掲載。

しかし、この美しい芸術もネパールでは忘れられつつあり、若い世代はジュティ製作の技能をほとんど失っている。現在最も必要とされているのは、稲わらを美しい芸術的な形に織り上げるこの古くからの伝統を守っていくことである。

校正: Mitsuko Yasutake [11]