ナゴルノ・カラバフ紛争 イスラエルがアゼルバイジャンへ武器供与 その背景を探る

(訳注:この記事の原文は2020年11月12日に掲載されました)

アゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフで使用したものと同型の、イスラエル製ハロップ・ドローン。2013年パリにて CC BY 4.0 撮影:ジュリアン・ヘルツォーク/ウィキメディア・コモンズ 著作権一部留保

ナゴルノ・カラバフで44日間戦闘が続いていたが、ロシアの仲介で不安定ながらようやく和平に漕ぎつけた。アゼルバイジャンは2020年9月27日、1988年から1994年の間のアルメニアとの争いで奪われたナゴルノ・カラバフの山岳地帯一帯を奪還しようと戦闘を開始した。目的は達成されたが、数千の生命が失われた。

11月10日に発効した和平協定により、南コーカサスの地図は書き換えられることとなった。今後2ヶ月の間に、アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフを取り囲むすべての地域の支配権を手に入れることになる。これらは、第一次ナゴルノ・カラバフ紛争でカラバフ在住のアルメニア人が支配することとなった地域である。激しい砲撃を受けた首都をふくめ、アゼルバイジャンが今回制圧できなかったナゴルノ・カラバフの一部地域については 扱いが保留されている(訳注:2021.08.26現在このサイトにはアクセスできません)。約2000のロシア平和維持軍が、アルメニア本土を結ぶ軍事上重要な道路とともにこの地域一帯を警備することになっている。

アゼルバイジャンの勝利は外部からの支援に負うところが非常に大きい。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコは、アゼルバイジャンと文化および経済分野で緊密なつながりを持っており、今回の紛争では政治支援、軍事上の助言、およびシリアから傭兵の派兵など、アゼルバイジャンを全面的に支援した

アゼルバイジャンとイスラエルとの友好関係も、アゼルバイジャンの戦果と深く関わり合っている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2015年から2019年の間にアゼルバイジャンが輸入したすべての武器のうち60パーセントはイスラエル製であり、その中にはサンドキャット装甲車や各種のライフル銃などがある。

アゼルバイジャンが、イスラエルからの輸入により軍事用ドローンを装備することができたということは重要な意味を持っている。この武器によりアゼルバイジャンはアルメニアの防空システムを凌駕することとなり、情勢は同国に有利な向きに変わった。イスラエル軍当局の高官筋は2020年10月14日、アジアタイムズに次のように語った。「アゼルバイジャンは、イスラエルの支援がなければ今回の戦闘水準を維持できなかっただろう」

イスラエルがアゼルバイジャンへ武器を供給したことを、イスラエル人の誰もが誇りに思っているわけではない。

アゼルバイジャンは、これらの高機能兵器を使用してナゴルノ・カラバフ住民の殺害を実行してきた。そのため、ナゴルノ・カラバフ在住アルメニア人の大半はこの地を去ったとみられている。この数週間、イスラエル製のハロップ・ドローンが、 ステパナケルト上空を飛行していた。その間、住民は地下深くの避難壕にうずくまっていた。「カミカゼ・ドローン」とも呼ばれるこのドローンは、2016年にアゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフを襲撃したときにも使われた

イスラエル製のクラスター爆弾もナゴルノ・カラバフで使用された。アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは、10月5日と23日の声明でアゼルバイジャン軍が、イスラエル製のM095型DPICM弾とLAR-160型クラスター弾でステパナケルト市内の住居地区を複数回襲撃したことを明らかにした。(また、アルメニアも10月30日にスメーチ発射装置からアゼルバイジャンのバルダ市に向けてクラスター弾を発射したとされる証拠が示されている)。アルメニアもアゼルバイジャンも(もちろんイスラエルも)、無差別殺戮兵器の使用を禁じる「クラスター弾に関する条約」に署名していない。

イスラエル政府はこの紛争に関して言及はしていないが、アルメニアは、イスラエルとアゼルバイジャンの間の武器取引に関しては、座視できない思いを抱いている。

最新情報:アルメニア政府は、イスラエルがアゼルバイジャンへ武器を輸出していることに対する抗議行動を審議するために在イスラエル大使を呼び戻す。

アルメニア外務省女性報道官@naghdalyan:「アルメニアは、イスラエルがアゼルバイジャンへ超近代兵器を供与することを容認できない。とくに、目下アゼルバイジャンが、トルコの支援を受けて武力侵攻を行っていることを考慮すると、なおさら受け入れがたい」

イスラエルのジャーナリストや航路追跡を行っている人たちは、ナゴルノ・カラバフ紛争が始まってから、アゼルバイジャン防衛省と関係の深い航空会社シルクウエイ航空の貨物輸送機がイスラエル南部のオブダ空軍基地に着陸する回数が急増していると指摘している。

アンカラから飛び立ったアゼルバイジャンの重量物運搬機、今週3度目。昨日はイスラエルにあった。

アルメニアの反応は激しかった。10月初旬、同国はテルアビブに大使館を開設してからわずか2週間後に、対イスラエル策を審議するために大使を呼び戻した。後に、イスラエル大統領ルーベン・リブリンから、アルメニアは人道支援を受け入れるかどうかを問われて、アルメニア首相ニコル・パシニャンは「傭兵へ武器を売りつけている国から人道支援とはなんということか。傭兵はその武器で平穏に暮らしている人たちを襲撃しているではないか。イスラエルは、そのような行動を容認するつもりならば、その支援を傭兵やテロリストに提供したらどうか」と声を荒らげた

パシニャン首相は、11月3日のエルサレム・ポストとの会見で次のように強調している。「イスラエルからアゼルバイジャンへの支援は、イスラエルがトルコ統領エルドアンと同じ立ち位置に立ったということを意味している。このことは、しかし、イスラエルとトルコ間の緊張した関係を考慮すると、いささか不自然な感じがする」と。そして、次のように結論づけている。「イスラエルは、ナゴルノ・カラバフでトルコと同じようにアルメニア人に対する大虐殺を扇動し、支援してきた。しかし、遅かれ早かれトルコは『帝国主義的な野望』をイスラエルに向けることになるだろう」と。

奇妙な類似性

ほぼ30年近く、関係国以外の国々がナゴルノ・カラバフを巡る紛争の沈静化に務めてきたが、その努力はいつも無駄に終わっていた。表面上はイスラエルとアゼルバイジャンは、誰が見ても疑う余地のない友好国というわけではない。しかし、こういった微妙な関係こそが、両国の友好関係を維持する上で象徴的に重要な意味を持っているのである。

イスラエルが近年湾岸諸国との緊張関係を緩和するまでは、アゼルバイジャンが同国にとって近東のイスラム主流諸国の中で、数少ない真に友好関係を維持している国の一つであった。1990年代にナゴルノ・カラバフ在住の数10万のアゼルバイジャン人が同地域から追放されたという、パレスチナ人と同様の体験をしていることを考慮すると、アゼルバイジャン人は、パレスチナ人の窮状にいくばくかの同情をしてもよいのではないかといった期待が持たれるが、ともあれ、そのアゼルバイジャン人がついに元いたふるさとに帰還するチャンスを得たのである。

しかし、この友好関係については別の見方ができる 。イスラエル首相ベンジャミン・ネタニヤフが 2016年に語ったように、イスラエルとアゼルバイジャンの関係は、「世界中のイスラム教徒とユダヤ教徒の関係はどのようにあるべきか、また現実に維持できる関係はどのようなものであるかを示す実例」である。このような経緯を受けて、アゼルバイジャンおよび同国大統領イルハム・アリエフを賞賛する記事がイスラエルおよび世界中のユダヤ人コミュニティの新聞にしばしば掲載されている。しかし、これらのマスコミはアゼルバイジャンの計り知れない人権侵害については慎重な態度をとっている。

マスコミは、アゼルバイジャン国内にある数万人規模のユダヤ人社会が、アゼルバイジャン人社会の中で良好な共存関係を維持していると強調している。この数週間、アゼルバイジャン当局は、国内にあるユダヤ人社会を取り上げて自国文化の多様性を強調し、比較的、文化が単一とされるアルメニアとの相違を際立たせようとしている。そのよい例が、山岳ユダヤ人の血を引くアゼルバイジャンの青年、ダニエルの動画である。彼はこの動画で、アゼルバイジャンのために戦おうとしている理由を述べている。

アゼルバイジャンは、多くの民族集団や宗派のふるさとである。事実、2000年の間アゼルバイジャンで平穏に暮らしている3万人のユダヤ人がいる。次の動画で、山岳ユダヤ人のダニエルが自己の思いを語っている。彼は、アルメニアの侵略から故国の領土を守ろうとして兵役に志願した

また、イスラエルには約7万人のアゼルバイジャン系ユダヤ人が居住している。彼らは、今回のナゴルノ・カラバフ紛争では アゼルバイジャンを支持する運動を起こした

アゼルバイジャンとイスラエルとの友好関係は、現実的な意味でも極めて重要である。アゼルバイジャンは、イスラエルにとって究極の敵であるイランと長い国境を共有しているからである。

この友好関係はイスラエルに数々の戦略的好機をもたらすと、ジェフ・ハルパー(イスラエル研究者で活動家また2015年にイスラエルの安全状態を検証した文献「 ウォー・アゲンスト・ピープル」の著者)は語る。ハルパーは、グローバル・ボイスとのメールのやりとりで次のように述べている。「イスラエルは何10年にもわたり、政治的軍事的同盟諸国と力を合わせてアラブ諸国を取り囲む『周辺戦略』を展開してきた。この同盟諸国の中には1990年代以降に加盟したアゼルバイジャンなどのソ連解体後の国々が含まれている」

「イスラエルは、アゼルバイジャンに対しテロ対策の助言や兵器の提供を行うとともに反政府勢力対策にも協力している。一方、アゼルバイジャンはイスラエルに最先端兵器の実験場を提供している」と、ハルパーは語る。アゼルバイジャンからのエネルギー供給もイスラエルにとって魅力である。アゼルバイジャンは、1999年にイスラエルへの石油輸出を開始した。そして、現在はイスラエルの総輸入量の37パーセントは、アゼルバイジャンからの輸入で賄われている。

国際危機グループのコーカサス研究者ザウール・シリエフによると、イスラエル・アゼルバイジャン関係が転換し始めたのは2010年だったが、イランはこの転換にほとんど関わりを持っていない。シリエフがグローバル・ボイスに語ったところによると、この頃、アゼルバイジャンは、至急軍備の近代化を図らなければならないと認識していた。一方、トルコとの関係が悪化していたイスラエルは、新たな友好国を見いだす必要に迫られていた。「イスラエルはトルコに取って代わり、アゼルバイジャンのためにワシントンでロビー活動を行った」と、シリエフは言い足した。

アルメニアは、イスラエルの画策を阻止できなかった。

しかしながら、それでもなおアルメニア国民とイスラエル国民は他ならない悲しみを共有している。それは、20世紀最大の残虐行為を受けたという心の傷である。両国とも、大量虐殺を生き抜いてきた国である。また、荒れ狂う紛争の中でここ数10年以上にわたり、歴史は繰り返すという恐怖にそそられて隣国に打ち勝ってきた国でもある。

このような共通の悲しみを持つにもかかわらず、イスラエルが1915年のアルメニア人ジェノサイドを認めようとしないということは、アルメニア人にとって到底受け入れがたいことであり、両国関係は袋小路へと突き進んでしまった。その結果、2019年にピュー研究所が行った世論調査結果に示されているように、アルメニア在住のユダヤ人に対して否定的な意見が広がる可能性がある。アルメニア国内の小規模ユダヤ人社会の人の中には、イスラエルがアゼルバイジャンを支援したために、全く孤立してしまったと感じる人もいる。イスラエルの日刊紙ハアレツのインタビューに答えて、ユダヤ系アルメニア人の一人は次のように答えている。「アルメニアはダビデだ。なぜイスラエルはゴリアテに武器を与えるというのだ」

倫理の問題

トルコは、アルメニア人を大量虐殺したことはなく、彼らをトルコ国内から「追放」したのだとする考えを示している。一方、イスラエル当局者は、アルメニア人ジェノサイドを認める意向をしばしば示してきた。しかし、イスラエルがこのような態度をとるのは、トルコとの関係が大幅にぐらついたときだった。また、イスラエル人の中には、イスラエルはジェノサイドを認める道義的責務を負っている。それなのに、アルメニア人ジェノサイドを認めないのは、正義よりも地政学を優先させているからだと、とられかねないと考える人もいる。

イスラエルで、アゼルバイジャンへの武器販売反対を声高に訴えている人たちの中に、イスラエル・チャーニーとヤイール・アーロンという二人の著名なジェノサイド研究者がいる。この二人は、イスラエルがアルメニア人ジェノサイドを認めるよう求めている。イスラエルおよびアルメニア人ジェノサイド関する2冊の著作があるアーロンは、2014年にハアレツ紙の論説で、イスラエルからアゼルバイジャンへの武器販売は、イスラエルがコーカサスにおける民族浄化に加担したことになると示唆している。2016年にはチャーニーが、タイムズ・オブ・イスラエル紙で、イスラエルはアドルフ・ヒトラーに武器を売るつもりかと、さらに突っ込んだだ議論を展開している。

イスラエルの武器販売に反対する活動家たちは、ナゴルノ・カラバフ紛争が激化すると、法的な異議申し立てを行った。しかし、10月12日、イスラエル高等裁判所は、エリー・ジョセフがアゼルバイジャンへの武器販売を禁止するよう求めた異議申し立てに対し、イスラエルが販売した兵器が、アルメニアに対する戦争犯罪で使用されるといった証拠が不十分であるとして公聴会の開催を認めず、彼の請願を却下した。イスラエルの人権派弁護士エイタイ・マックは、道徳的な面からジョセフの異議申し立てを支援して+972誌で次のように論じている。「アゼルバイジャンへの武器輸出は、アルメニアに対して敵意に満ちた脅迫を続けるアゼルバイジャン政府をさらに勢いづけることになる」

この法的な異議申し立ては、エリー・ジョセフ(イギリス生まれのイスラエル人で、人権派活動家)が行ったいくつかの法廷闘争のうちの一つである。彼は今年(2020年)、人権を侵害している国々へイスラエルから武器を輸出することに反対してハンガーストライキを行った

「イスラエル人よりもイスラエル国外の人の方が、イスラエルの武器販売のことをよく知っている。ユダヤ人として、また人間として、このようなことに関わってはいけない。それを黙って見ていてはいけない。イスラエルの武器販売とアルメニア人ジェノサイドを認めないこととの間には、強烈な関連性が存在しているのだ。かつてジェノサイドは私たちの身の上に起きた。将来また私たちに起きるかもしれない。そして今は他の誰かに起きているのだ」

グローバル・ボイスとの電話でジョセフは、イスラエルからアゼルバイジャンへの武器販売に反対する三度目の訴えを計画しており、もう一度ハンガーストライキをするつもりだと述べた。いつの日にかクネッセ(イスラエルの国会)が、人権侵害している国々への武器販売を禁止する法律を通過させてくれればと、彼は願っている。

「アゼルバイジャン、ミャンマー、南スーダン、あるいはベトナムへの武器販売の是非について、わが国が適正な判断を下せるように全力を注いできました」と、ジョセフは断言した。彼は、常にイスラエル人のためを思っており、愛国的立場を維持していると強調した。

しかし、ハルパーは、少なくとも予測しうる将来のうちにイスラエルの武器輸出が停止されることはないだろう、と考えている。武器輸出はイスラエルにとって大きな収入源になっている。また、アゼルバイジャンとの結びつきは、イスラエルにとって戦略上非常に重要である。さらに彼は、マックやジョセフなどの活動家は、市民の支持を得ようとしたときに苦戦を強いられる可能性があるとグローバル・ボイスに語った。

「イスラエル製武器およびその配置に関する問題は、イスラエルには存在しない。パレスチナ自治区にも存在しない。イスラエル在住のパレスチナ人が使用した場合も存在しない。国際社会で使用された場合も存在しない。問題はどこにも存在しない。つまり、イスラエル人は、軍事および安全保障に関する優れた能力に絶大な誇りを感じている」

イスラエルの武器に支えられてとにかく勝ち取ったアゼルバイジャンの勝利は、トルコにとっても大きな勝利である。アゼルバイジャンの勝利により、南コーカサスにおけるトルコの役割は、その重要性が増大したといえる。一方、アルメニアにとっては悲劇的な出来事である。また、イスラエルにとっては、エルドアン・トルコ大統領が彼の任期中、好戦的な政策を継続する限り、難問を背負わされたこととなる。

アリエフ・アゼルバイジャン大統領は、トルコにある程度の恩義がある。このことは、イスラエルとアゼルバイジャンとの結びつきに、どのような意味を持っているのだろうか。

アゼルバイジャンは何年にもわたり、トルコとの結びつきとイスラエルとの結びつきを均衡させるために努力をしてきた、また、これらの国との緊張が最も高まったときも同様に振る舞ってきたと、シリエフは話を結んだ。「南コーカサスでは、トルコの力が増大している。また、トルコはアゼルバイジャンと他の国々、なかでもロシアとの力関係を均衡させる役割を演じているといえるイスラエルがそのような役割を演じることができるとは考えられない」と彼は言う。

校正:Moegi Tanaka

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