コロナ下のキルギスで教育に遅れ 情報格差が障壁に

(原文掲載日は7月23日)

「オンライン学習。幼い少女がノートパソコンに向かっている」 CC BY 2.0ライセンスのもとで、著作権はshixart1985に帰属

キルギス共和国では2020年4月初めより、国内の全校の生徒が自宅学習を続けている。だが、生徒や親たちはリモートでの学習に苦労を抱えている。国内各地には、インターネットへの接続が難しい生徒、適切なデバイスを持っていない生徒、あるいは必須となるモバイルアプリケーションの使い方が分からない生徒が多数いるからだ。

デジタル教育へ移行できる環境が整っていなかったのは、教師側も同じだった。当局が突然に教育の完全オンライン化を決定した際には、適切なツールの案内もなければ、スムーズな移行のための研修もなかった。

大半の教師は、新しいソフトウェアや教育方法に慣れるための1週間の研修を受けた。そして研修が終わり次第、直ちにバーチャル授業を始めなければならなかった。

教育とパンデミック

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)で、世界中の教育プロセスに大混乱が生じた。既に、世界各地の生徒や教師たちのほぼ全てに影響が出ている。

国連の報告書によると、学校やその他の教育機関の閉鎖で影響を受けた生徒数の割合は全世界で94パーセントであり、低所得国および低中所得国においてはその割合は99パーセントにのぼるという。

世界銀行は、新型コロナウイルスのパンデミックは教育制度に「壊滅的な打撃」を与えるだろうと予測しており、その余波は「今後数十年に渡って続く」としている。

公式統計では、キルギス国内の2020年3月以来の新型コロナウイルスによる感染者の累計は8万5164人、死亡者は2186人となっている。(2021年7月20日現在)

新型コロナウイルスに対するワクチンの接種は2021年3月に第1弾が始まり、特に医療関係者や緊急対応をする職種など、特定の職業の従事者が対象となった。保健・社会発展相と同副相らは最初に接種を受け、国民に対してワクチンの安全性と必要性を強調した。キルギスでは最初のワクチン群を中国から受け取っており、今後数カ月のうちに接種者を増やしていくためには、政府は追加取得に向けた交渉をする必要がある。

一方で、2021年3月から4月にかけて感染は拡大し続け、感染率は最悪となった。死亡者はほぼ毎日報告されている。しかし、マスク着用や対人距離の確保、大規模イベントの禁止などについての規制は実施されていない。

国内の感染状況が悪化の一途を辿る中、子どもたちはウイルスの強い媒介者となる可能性があることから、学校の再開はさらに遅れる見込みだ。

だが、アフンバヤバ国立医科大学で感染病についての研究助手を務めるチョルポンバイ・ウル・メリスは注意を促している。彼はグローバル・ボイスによるインタビューで、パンデミックの初期においては、子ども同士の感染拡大、更には子どもから家族への感染拡大の可能性があったことを理由に挙げ、「オンライン教育への移行は、感染リスクの低減に高い効果をもたらした」と述べた。

Statistically, children fall ill at lower rates than adults, in Kyrgyzstan and across the world. It is more likely that children carry the infection in an asymptomatic form and the percentage of children with such complications is low.

統計によれば、キルギス国内においても全世界においても、子どもの重症化率は大人よりも低くなっています。子どもの場合、各種合併症を発症する割合は低く、無症状感染の状態でウイルスを媒介しているケースが多いとみられています。

いまだ困難なアクセス環境

データリテラシーの向上を求めて活動する団体の世界的ネットワークに加盟している「データ・スクール」が行った調査についての書面、および、都市の環境とコミュニティの変化について調査する財団「シティ・イニシアチブズ」が、キルギスの教師338名と生徒1324名を対象に行ったアンケート調査では、以下の事実が明らかにされている。

  1. 学校教師の70パーセントが、オンライン教育への移行のための訓練を受けておらず、教育省が言及していたような相談体制や研修も受けていなかった。
  2. インターネットへの接続環境が悪い、あるいは全く接続できないという状況が、教師・子どもたちの双方にとって最大の障壁のひとつだった。また、持ち運び可能なデバイスの不足も同様に障壁だった。
  3. オンライン学習中は、生徒の教育のために両親が中心的な役割を担うことがこれまでに証明されている。

中央アジア大学の「コロナ禍におけるキルギスの声」プロジェクトで実施されたインタビューで、キルギスの教育科学省でアドバイザーを務めるドクドゥグル・ケンドゥルバイバは、都市部と田舎の人々を隔てるデジタル・デバイド(情報格差)について以下のように強調している。

Teachers [across the world and in Kyrgyzstan] said that they urgently had to switch to the use of digital educational technologies. Especially in remote places, there was no access to high-quality internet connection, as well as electronic devices, laptops, and phones.

(キルギスや世界中の)教師らは、デジタル教育のためのテクノロジー使用へ緊急的な切り替えをしなければならなかった、と述べています。特に都市部から離れた地域では、質の高いインターネット回線へ接続ができず、電子デバイス、ノートパソコン、携帯電話も使用できませんでした。

いまだ遠い、リモート教育の成功への道

キルギス政府は2020年3月、多様なリモート教育の形式を提案した。国営テレビチャンネルでは各種講義が放送された。1700本の授業動画が2020年度の学年末までに収録された。2020年から2021年にかけての年度に向けて、教育科学省は7022本の授業動画を用意した。

だが、生徒もその親も、教育科学省が提供したリモート教育プログラムが全ての人にとっては適切でないという事実に直面し、それは現在でも続いている。国内各地には、インターネットへの接続が難しい生徒、テレビや持ち運び可能なデバイスを持っていない生徒、あるいは必須となるモバイルアプリケーションの使い方が分からない生徒が多数いるからだ。

平等と正義の問題に注力するNGO団体「人権のための弁護士団(Lawyers for Human Rights)」による昨年の研究では、教育省は実際に行われたリモート教育の質についての分析や監視をしていなかったことが明らかになった。さらに、オンライン教育に必須となるデバイスについて、経済的事情で購入できない家庭に対する政府からの支給ができていなかったことが分かった。

パンデミックが始まって以来、教育に関する政府の取り組みは不均一だ。2021年3月9日に、小学2年生から4年生までの児童が従来式の対面授業へ復帰した。しかし数週間後、ビシュケク市当局は各学校およびキンダーガーテン(幼稚園)の教育プロセスのリモート化を決定した。これは4月12日から実施され、感染症の流行状況に改善がみられるまで続く。キルギスの主要都市では4月から5月にかけて、各学校が徐々に非対面措置を導入している。大学の場合、オンライン式と対面式の混合により講義や試験を続けている。

パンデミック下において、キルギスの健康状態は不確かであり、したがって、9月から始まる来年度の教育が完全オンラインのままになるのかどうかは見通せない。しかし現段階では、政府は新しい現実に教育プロセスを対応させることができないでいる。

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