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トルコで相次ぐ自然災害 山火事、干ばつ、洪水、将来は地震の可能性も

カテゴリー: トルコ, 市民メディア, 歴史, 災害, 環境, 科学, 開発

(原文掲載日は2021年9月1日)

専門家によれば、イスタンブールは将来、壊滅的な地震に見舞われる可能性があるという。写真:シナースィ・ミュルドゥル。Pixabay [1]より引用。

ここ数カ月、トルコは数々の自然災害や環境危機 [2]に見舞われている。ヴァン湖では7月の干ばつで数千羽のフラミンゴが死亡した [3]マルマラ海の沿岸は数カ月間に渡って「海の鼻水」と呼ばれる物質に覆われ [4]、海岸が使用不可能になった。トルコ南部の沿岸地域一帯では先月、240件もの山火事が猛威を振るった [5]山火事から幾らも経たぬうちに、黒海地方では集中豪雨による鉄砲水と土砂崩れが発生し、特にバルトゥン、カスタモヌ、シノプ、サムスンの各都市で被害が出た [6]。この結果、カスタモヌ県内の112の村と、シノプ県内の86の村で停電が発生 [7]したほか、報道によれば6つの橋が崩壊し [8]、この地域の道路は瓦礫(がれき)と化した。この洪水で、2000人以上が家を追われ [9]移住を余儀なくされた。災害緊急事態対策庁(AFAD)の発表 [10]では、人員8000名、救助犬20頭、ヘリコプター隊1隊が負傷者や生存者の捜索に当たっているという。8月27日時点での最新情報では、82名の地域住民が死亡 [11]し、依然として16名が行方不明となっている [12]

これは全ての始まりなのだ。どうか神が我々を守ってくれますように。

直近の壊滅的な洪水は、気候変動と大雨がその一因ではあるものの、一部の専門家は、河床(かしょう)付近においてダムが不適切に配置されたり、過剰な建設行為が行われたことも今回の洪水発生に寄与した、と主張している。地震の専門家で地質工学技術者のラマザン・デミルタシュは、ビルギュン紙によるインタビューで次のように述べた [18]

If we confine a 400-meter-wide stream bed into 15-meters, and if the water also rises by 7–10 meters, the result is a natural disaster. It is the humanity that directly narrowed the stream bed and opened the bed to development and construction that is the culprit. Let's not blame it on the excessive rainfall as if it’s unprecedented in history. An artificial dam was formed with buildings built alongside, and the flood caused by torrential rain made the situation worse.

仮に400メートルの幅の河床を15メートルまで狭め、水位も7~10メートル上昇したとすれば、結果として起きるのは自然災害だ。開発や建設のために、人間たちが直に河床を狭めたり広げたりしている。これが犯人だ。あたかも歴史上類を見ないものだったなどとして豪雨のせいにするのはやめようではないか。川沿いに建物が建てられたことで人工的なダムが形成され、大雨で発生した洪水の状況がさらに悪化したのだ。

この他に、種々の災害やそれを取り巻く状況は政治的な問題だと述べる専門家らもいる。フランス24によるインタビューで、水管理・気候変動政策を調査するギョクチェ・センジャンは次のように述べた [19]

I don’t see Turkey having any comprehensive and holistic climate change policy that addresses everything in an interconnected way. You cannot separate food security issues from energy security issues, and food prices from the issue of drought.

私が思うにトルコには、あらゆる物を相互に関連させて取り組む、包括的・総合的な気候変動政策がない。食糧安全保障問題とエネルギー安全保障問題は切り離すことができないし、食糧価格と干ばつ問題も切り離すことができない。

エルドアン大統領は、最大の洪水被害を受けた地域のひとつであるボズクルトを訪問 [9]した際、当地の可能な限り早急な復旧に向けて力を貸すと約束した。

Hopefully, we will rise from our ashes again. We can’t bring back the citizens we lost, but our state has the means and power to compensate those who lost loved ones.

我々はきっと、灰燼(かいじん)の中から再び立ち上がるだろう。失った国民を取り戻すことはできなくとも、愛する者を亡くした人々の心を埋め合わせるための力も手段も、この国は持っている。

しかし、トルコの災害対策を向上させるということは、支援を実施したり、洪水で被害を受けた街を再建したり、焼失した森に植林したりすることだけではない。トルコは、2015年のパリ協定にいまだに批准していない数少ない国々のひとつであり(訳注:原文掲載時。トルコは2021年10月6日に批准した)、複数の災害を受けて、未批准を多くの環境活動家が批判している。トルコ緑の党のエミネ・オズカン報道官は、フランス24によるインタビューで、「これが第一歩です。気候変動に対する地球規模の闘いに、我々も参加しなければなりません」と述べた [19]。トルコ政府によれば、パリ協定に批准せずにいる理由は、区分が不公平だからだという。トルコは「先進国」として位置づけられているため、「途上国」のように資金支援を得ることができない。

ジャーナリストのアスリ・アイディンタスバスは、ワシントン・ポスト紙の2021年8月4日の記事に次のように書いた [20]。「二酸化炭素排出の削減に取り組む代わりに、トルコは2018年 [21]に至るまでに国際的なシェア [22]増やしてきた。 [23]現在も、政府は石炭採掘を奨励し続け [24]ている。また無謀なことに、沿岸部への建設 [25]も推進しており、これにより、しばしば林地や自然生態系が犠牲となっている。最近では、林地での建設行為や開発行為を禁止する古くからの法律が政府によって変更され [26]、一部地域での建築が可能になった」

迫り来る、より大きな災害

昨今の自然災害と政府の対応の弱さ [27]を見るにつけ、多くの人々が疑問に感じているのは、政府には最悪の災害に対応する準備ができているのかということだ。すなわち、トルコ最大の都市であり、経済の中心地であるイスタンブールで発生する可能性がある地震のことだ。

トルコは今、どうやら多くの不運に襲われていると思われている。

でも、そうじゃない。

悲劇がこんなに続いているのは、悪政による当然の結果だ。この悪政は、ある男に統治されることを決めたことと直結している。

男が去らない限り、これは終わらない。

トルコは活発な地震帯の上にあり、歴史を通して悲惨な地震を経験してきた。最悪のものは1939年にエルジンジャンで発生したマグニチュード7.9の地震で、3万人近くが死亡した。直近で大規模なものでは、2020年にエラズーで発生した地震があり、1600人が負傷、41人が死亡した。

トルコ国内で地震活動が最も活発なエリアは、イスタンブールの南にあるアルムトゥル半島だ。ドイツ地球科学研究センター(GFZ)が発表した調査結果 [29]によれば、同半島は「活発なプレート境界であり、多数の死傷者が出る破壊的な地震を引き起こすものとして知られている」という。1999年にはマグニチュード7.5の地震が発生し、1万8000人が死亡し [30]、25万人が家を失った [31]

この災害の記憶は現在でも尾を引いている。この地震を生き延びた大人の中には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんでいる [32]人々がいることが、調査により示されている。

今年の8月17日で、トルコはこの破滅的地震から22年を迎えた。しかし専門家は、もし類似した規模の地震がトルコを襲った場合、更に深刻な被害が出ることは避けられないと警告 [33]し、政府の備えと対応戦略が不足していることを強調している。

アーバン・トランスフォーメーション財団(KENTSEV)が今月初めに発行した新しい報告書 [34]では、マグニチュード7.5以上の地震が発生した場合、610万人が影響を受け、180万戸の家が損害を受けると見積もられている。

コンダ(Konda)による2020年の世論調査報告書が示した [35]ところでは、回答者のうち81パーセントの人が、次に起こる地震への備えができていないと答えた。また、67パーセントの人が、地震への備えに関する訓練などを受けていないと答え、68パーセントの人が、地震時にどう行動すべきか [36]を知らないと答えた。

予防手段

今月初めにトルコの地中海沿岸部とエーゲ海沿岸部で山火事が発生した際、トルコの大統領は早々に支援要請について却下した [20]。トルコが自国の消防飛行機を保有していないことを認めた後でさえも、与党・公正発展党は矛盾した論調 [27]に固執して、国際的な支援の申し出をはねつけた。

しかし、こうした戦略は環境面でも政治面でも愚策だと、専門家は述べる。ミドル・イースト・アイによるインタビュー [37]で、世論調査会社・イスタンブール経済リサーチのゼネラルマネジャーであるジャン・セルチュキは、有権者は気候変動や環境問題についてもっと強い関心を持っているというのが当社の見立てだ、と述べた。さらに、トルコの「政府は、環境面でいえばあまりよい実績を出してはいない」とも述べた。

このほか、トルコ緑の党のコライ・ドアン共同報道官は、ミドル・イースト・アイに対し、政府は環境を犠牲にして経済への一極化を進めていると述べた [37]

これについては十分な根拠がある。大規模なイスタンブール運河 [38]プロジェクトや、2018年に可決された「ゾーニング恩赦法」 [39]と呼ばれるものなどだ。これは、安全基準を満たさない建設業者に対して(手数料を支払えば)罪に問わないとするもので、1948年以来、19の「ゾーニング恩赦法」が国会を通過 [39]している。震災後のテントの設置や人道支援のために登録されていた区画は、建設ブームによってその多くが姿を消した [40]。更に、建物の安全性を監視するための独立した監査委員会の設置を求める野党政治家に対し、公正発展党は現在までに58件の動議を棄却している [39]

ひとつの疑問が残る。近年起こった環境災害や惨事が何ひとつとして、環境の安全性への取り組みについて支配政権に考え直させることができなかったのであれば、いったい何が彼らを動かすのだろうか。

校正:Motoko Saito [41]