- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

ミャンマーのLGBTQメイクアップ・アーティスト 美容サロンの店主から国境の隠れ家に身を潜めた革命支援者へ

カテゴリー: 東アジア, ミャンマー (ビルマ), 人権, 同性愛者の権利 (LGBT), 市民メディア, 戦争・紛争, 抗議, 政治, Myanmar Spring Revolution
[1]

メイ・ウー:ゲイのセレブリティ・メイクアップ・アーティスト 2021年2月にヤンゴンで行われた国軍への抗議デモで撮影。 写真 [1]とキャプションは、エーヤワディ・ニュース・マガジンより転載、使用許可済み。

記事 [1]は、ミャンマーの独立ニュースウエブサイト「エーヤワディ・ニュース・マガジン」に公開された記事です。コンテンツパートナーシップを介して、編集版をグローバル・ボイスに再掲しています。

2月1日に軍が政権を掌握するまで、メイ・ウーの日常で一番大切なものは化粧品、ファッションそして美容デザインだった。

メイクアップアーティストのメイ・ウーは過去10年以上、自身の技術と情熱で顧客を変身させてきた。そのおかげで、ヤンゴンで引っ張りだこの美容家の1人となった。顧客には、セレブリティや軍の上位関係者の家族などがいた。

ゲイであるメイ・ウーは「メイクアップアーティストは大好きな職業で、クリエイティブなアートだと思います」と語る。

しかし軍がクーデターにより、アウン・サン・スーチー率いる国民民主連盟(NLD)政権を奪取すると、メイ・ウーの人生は180度変わってしまった。

NLD政権の支持者であるメイ・ウー(33才)は、軍のクーデターに 反対 [2]した。

We can’t accept it. The military stole power from the elected civilian government, which we voted for.

僕らは受け入れられない。軍は、僕たちが投票して選出された文民政権から権力を剥奪した。

メイ・ウーは、多くの人がしたように、全国各地で発生した反クーデーター運動に参加した。それは夜間は鍋や釜を叩き、昼間は路上デモを行い、公務員にストの呼び掛けをするものだった。同時に、ウーは77万人のフォロワーがいる自身のソーシャルメディアのページを通じて、国軍の支配に反対する「ミャンマーの春革命」という抗議運動に関連した情報を拡散した。

3月には、ネピドーで軍事政権主催の宗教儀式が開催され富裕層出身者へ称号が授与されることになっていた。メイ・ウーは、この式典に参加する裕福な人たちへのメイクアップを拒否した。

しかし自身の活動に対し、ウーは代償を払うことになった。

軍政権は扇動を理由にしてウーに逮捕状を出した。軍は彼のアパートを強制捜査しコンピュータとメイクアップ用具一式を含む全ての所持品を押収した。「また、軍は部屋にあったもの全てを破壊しました」とメイ・ウーは語る。幸運にも、彼は逮捕を免れた。

軍事政権は3月後半に反軍事政権に対する取り締まりを強化した。そのため、メイ・ウーは、自身が反軍事政権活動に参加したこと、および軍から弾圧を受けた人とその家族を支援したことを理由として迫害を受けることを恐れて、4月にやむなく身を隠すこととした。

9月2日の時点で、軍事政権は市民1,043名を殺害、合計7,768名を逮捕した。そのうち6,132名は依然として拘留中である。さらに、軍隊は強制捜査中に略奪や財産を破壊した。

2020年、Covid-19の第1波および第2波を受けてロックダウン中、メイ・ウーはアマチュアのメイクアップアーティストの訓練など、仕事を続けることができた。2017年にメイ・ウー・マジック・ビューティースクールを開校して以来、ウーはメイクアップチームを率いる傍ら、アマチュアや若い才能を訓練してきた。クーデター前は、自身のサロンで正社員12名および約60名の短時間制メイクアップアーティストを雇っていた。

[1]

街中で行われた反体制抗議運動に参加するメイ・ウー。 民主主義の復活、拘束された民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問の解放を訴えた。2021年2月、ヤンゴンにて。写真 [1]とキャプションはエーヤワディ・ニュース・マガジンより転載、使用許可済み。

現在、メイ・ウーは、安全な国境地域で、以前とは全く異なる生活をおくっている(安全を理由に、具体的な場所の公開は拒否した。)武装抵抗によって断固として政権打倒をめざす多くの若者同様、ウーもかつて武器の訓練を受けたことがあるが、手になじむのは使い慣れたメイクアップ・ブラシだけで、銃の所持には適さないことに気づいた。それ以来、メイ・ウーは運動のために資金調達などその他の活動に時間とエネルギーを注いでいる。

I know my strength is not [in military activities], so I choose to support this revolution in whatever way I can. I just see myself as a pillar to help the revolution be victorious.

僕の腕力は[軍事行動で]は役立にたないことは承知しているので、自分にできる方法で革命を支えることを選びました。自分はこの革命の勝利を助ける柱のようなものだと見ています。

メイ・ウーは、軍事訓練に真剣に取り組む若い女性たちに対し、脱帽せざるを得ないとも認めた。女性たちの姿を見て、複雑な気持ちになるとも加えた。

I’m sure they never thought they would go through such a hard life. But they see that nothing is more important than ousting the regime. So, they feel immune to all the misery and difficulties they are facing. I feel sad for them but at the same time I feel happy [for the country].

女性たちは、こんなつらい人生をおくるとは考えてもいなかったでしょう。でも軍事政権を追い出す以上に重要なものはないと見ているのです。ですから、直面している惨めさや困難にはびくともしない。悲しくなりますが、同時に(国にとって)喜ばしいことです。

自分のセクシュアリティーについて堂々と語るゲイ男性として、2020年11月の選挙でNLDに投票した時の願いは簡単なものだった。ミャンマーで長く差別を受けてきたLGBTQの人たちの人権はもちろん、国民すべての人権を尊重する政府を願った。

「エーヤワディ・ニュース・マガジン」の取材に応じたウーは、文民政府下ではLGBTQの人に対する身体的な暴力や言葉による虐待は減ったと見ていると語った。

For a long time, we were insulted for our sexual orientation; but after 2015, we felt less discriminated against, and there were opportunities for makeup artists to choose the path they want.

長い間、我々は性的指向のために侮辱を受け続けてきました。しかし2015年以降、差別を感じることが少なくなり、メイクアップ・アーティストが自分の望む道を選択する機会も生まれました。

LGBTQの人は、刑法377条および警察法を根拠とした法的な迫害や差別の対象になる。同性間の性行動に及ぶ人には、最高10年の禁固刑が科せられる。これについてNLD政府は法律の改正に向けて動き始めていたため、LGBTQコミュニティは大きな希望を持っていた。

I have suffered discrimination as a gay person since my younger days. I don’t want to experience it again.

若い時からゲイの人間として差別に遭ってきました。二度と経験したくありません。

メイ・ウーが身を潜めてから、すでに(2021年9月現在)約5ヶ月が経つ。彼は時折、後悔するという。時にフェイスブック上で人々が楽しそうにやり取りしているのを見ると、その思いが強くなる。

That feeling doesn’t last long, though, because I comfort myself with knowing I have done nothing wrong and am taking a stand on the right side.

しかしその気持ちは長続きしません。何も悪いことをしていない、正しい側になっているという事実で自分を励ますのです。

メイクアップ・アーティストとしての以前の生活が懐かしいかと聞かれると、肯定と否定を交えて回答した。彼はかつて送っていた生活を思い返すと、懐かしくなるという。

But when I think about tomorrow under this current situation, I no longer miss it at all, because you can’t guess what will happen next. It’s exciting [to see] what the future will hold for me.

しかし、現在の状況で明日を迎えることを考えると、懐かしさは感じません。次に何が起こるのか、わからないからです。僕にとってどんな未来が待ち構えているのか[考えると]、胸が躍ります。

校正:Masato Kaneko [3]