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ポテトビスケットチップスの物語 バングラデシュのブランドはどのようにしてインドを魅了したのか

カテゴリー: 南アジア, インド, バングラデシュ, 国際関係, 市民メディア, 政治, 旅行, 行政, 開発, 食
Potato Grading in Bangladesh. Image from Flickr by Bengal*foam. CC BY-ND 2.0. [1]

バングラデシュでのジャガイモ選別作業。Bengal*foamがFlickrに投稿した画像。CC BY-ND 2.0

南アジアの市場では、甘くてスパイシーな軽食やおやつがよく知られ、キャンディーやビスケットなどのさまざまなパッケージ食品を売る店が特徴だ。大手から小規模まで実に多くの企業がしのぎを削っているが、近年になってバングラデシュのメーカー、プラン(PRAN)がスパイシーで風味豊かな商品を提供して大人気となり、東インド市場でトップの座を占めるようになった。それだけでなく、プランはインドの他の地域にも進出し、バングラデシュやその他小国の製品はインドのビッグブランドにはかなわないという見方を覆そうとしている。

隣国同士のバングラデシュとインドは、双方向貿易で常々お互いに依存しあっている。コメや玉ねぎなどの農産物、石油製品などの輸出によって、バングラデシュはインドにとって4番目 [2]の輸出相手国となっており、2020年の統計 [3]によれば年間およそ80億米ドルを稼ぎ出している。それに対し、バングラデシュは2019年に対インド輸出が10億ドルに達した [4]。衣料品、植物由来のテキスタイル用繊維、紙糸などが、バングラデシュからインドへの主な輸出品である。

インド市場に挑むプラン

PRAN-RFLグループ [5]の名前は、Programme for Rural Advancement Nationally(全国的地方発展計画)の頭文字から来ている。同グループは、バングラデシュに本社を置き、農業ビジネスとプラスチック製品の製造を手掛ける大企業集団である。グループ会社であるプラン・フーズ(PRAN Foods)は、バングラデシュの農業ビジネスや地方の農家の振興を願うバングラデシュ陸軍の元少将、アムジャド・カーン・チョードゥリー [6]によって1981年に設立された。

1997年にプラン・フーズはフランスにパイナップル缶の輸出を始め、今では200以上の食品ブランド [7]を世界145か国4億人を超える人々に輸出している。ジュースやドリンク類、スパイス、ビスケット、その他の菓子類が同社の輸出品の70%近くを占める。バングラデシュからの移民が相当数暮らす中東 [8]や英国、マレーシアの良く知られた食料品チェーン店では、プランのブランドが商品棚を占領している。そして今、プランは少しずつインドの市場に浸透しつつある。

Chanachur or Bombay mix is a popular snack in South Asia. Many FMCG companies market different varieties of this product. Image via Flickr by Aftab Uzzaman. CC BY-NC. [9]

チャナチュル、別名ボンベイミックスは、南アジアで人気のスナックである。アフタブ・ウッザマンがFlickrに投稿した画像。CC BY-NC 2.0

1997年、プランはインド北東部にあるトリプラ州の州都、アガルタラから初めて輸入注文を受けた。注文を受けた商品はベンガル語ではチャナチュル [10]という名前だが、インドの地方によっては違った名前で知られていることもある。この商品が売れたので、まもなく同社はインド市場に向けて他の商品を投入した。

2015年、PRANは20億インドルピー(2,730万 [11]米ドル)を投資して、インドのトリプラ州 [12]に工場を開設した [13]。インドにおける3.2兆インドルピー規模の消費者向けパッケージ商品部門に製品を供給する事業である。日用品(FMCG)を取り扱うバングラデシュ企業がインドに製造部門を持つのはこれが初めてであった。プランは西ベンガルにもう1つ工場を立ち上げる [14]ことになると思われる。これまでのところ同社はインドで順調に販路を拡大し [15]、従来からの東インドと西ベンガルの市場を超えてデリーやムンバイにまで手を広げている。この様子を見て、デリーのジャーナリスト、サンジュクタ・バスはツイッター [16]に次のように投稿している。

それから2カ月後の今日、父に出かけてもらった。父の好きなお菓子屋さんに。買ってきたものを見てうれしかった。プランの新製品スパイシービスケット、バングラデシュ産。プランの食べ物やマンゴードリンクを初めて見て味わったのは20年か25年前、西ベンガルの国境の町マルダでのこと。そのプランが今日デリーにやってきた。やった!

2021年3月にプランはダッカからコルカタに通じる河川を使って [19]製品をインドに輸出し始めた。この710キロメートルのルートを使うと、片道8日要するものの、輸出コストを35パーセント削減でき、インドのブランドに対する競争力を強化できると期待されている。

ネット上で一躍大人気に

「ポタタ(Potata)」という名の、ビスケットとチップスを融合させたプランのスパイシーなビスケットチップスは、インドのネット上で一躍大人気 [20]になっている。毎年、南アジアではバングラデシュがジャガイモ過剰生産大国であることをプランはうまく利用したのだ。プランのジャガイモ製品はチップスやクラッカーのような従来型の商品としても売られている。

インドのライター兼ジャーナリスト、シバム・ビジはTwitterで一つの記事を取り上げて、プランは今や、インドの会社に先駆けてポテトビスケット市場をけん引していると断言する。

手に入れました。あまりにおいしくて一体何だろうと思っていたチップスの小さなパック。
そう、これはバングラデシュ産なのです。@Shrabontiさん、プランのポタタの生い立ちを解明してくれてありがとうございます。
バングラデシュは今やポテトチップスでもインドより良いものを作っています。

この製品はソーシャルメディアでも話題になっており、WhatsAppや食べ物関係のブログ [24]でも取り上げられている。シュラボンティ・バグチがインドのニュースサイト、ライブミント [25]のウィークエンドマガジン、ミントラウンジで次のように言及 [26]している。

I started seeing that packet everywhere — random tweets on my Twitter timeline talking about how these biscuits have been the find of the lockdown, Instagram posts and stories that came up while scrolling mindlessly, and an enthusiastic discussion on a hyperactive WhatsApp group about the best way of sourcing these made-in-Bangladesh biscuits.

いたる所でこの小さなパックを目にするようになりました。私のツイッターのタイムラインにはさまざまなツイートが投稿されています。内容は、このビスケットがロックダウンの掘り出し物になった事情、何気なくスクロールしていて目に留まったインスタグラムの投稿やストーリー、このバングラデシュ産ビスケットのベストな調達方法について超活発なWhatsAppグループで盛り上がっている議論、といったものです。

アッサム州テズプルのツイッターユーザー、デボジト・カトティは次のようにツイート [27]している。

アッサム州のほとんどの人は、バングラデシュに良い印象を持っていません。でも、バングラデシュからの製品がアッサム州で莫大な収益を上げています。アッサム州の製品でバングラデシュ市場に受け入れられるものが何かありますか(牛以外で)?

一方、Brand Practitioners Bangladesh(バングラデシュのブランド実務家たちが参加するグループ)フェイスブックページの投稿のなかで、バングラデシュのSNSユーザ、サドマン・エバンは、このビスケットがインドとバングラデシュ両国で大人気となった理由を考察 [29]している。

This biscuit tastes way better than any other spicy biscuits in town. And the price is also very convenient in terms of the taste. This is the reason behind all the hype I guess.

このビスケットは街なかで売られている他のスパイシービスケットよりはるかにおいしい。値段も味の割には大変お手頃。大人気の理由はこれだと思います。

ポタタ [30]」の他にも「ジャル・ムリ(Jhal Muri) [31]」、「フルート(Frooto) [32]」、「ライチ(Litchi) [33]」や、ポテトクラッカー、ドライケーキ、ポテトスパイシービスケットといったさまざまなプランの商品が、今ではインドの食料品店でよく知られた存在である。定評のある競合製品と競い合い、消費者の有力な選択肢に成長したのだ。プランのライチ [33]やマンゴードリンク、味付きラスクからできた甘いトーストは今やインド市場を席巻している。

ポテト戦争

プランのポテトビスケットが評判になると、インドの食品大手もすぐに自社の商品の改善に取り組んだ。インド最大級のメーカーのひとつ、ITC [34]は、チャトパタマサラ味の薄いポテトビスケットという触れ込みの「サンフィースト・オールラウンダー(Sunfeast All Rounder)」を発売した [35]。この製品のパッケージもデザインもPRANのものに酷似しており、権利侵害 [36]の可能性が取り沙汰されている。もう一つの大手ブランド、ブリタニア50-50(Britannia 50-50)は、2021年7月に「50-50ポタゾス(50-50 Potazos)」という名の独自のビスケットチップスを発売した [37]

ブランド専門家のバビン・アドヤルはLinkedInで次のように伝えている [38]

This is the market of FMCG; you are always in […] a situation where your competitor is […] waiting for your move to copy [it]. Competition is just a mirage! You name it, you grab it!

これが日用品市場というものだ。競争相手が待ち構えていて、[略]何かすればすぐ真似をする。[略]いつもそういう状況だ。競争など妄想に過ぎない! やりたい放題だ!

プランが革新的な製品をいろいろ生み出したことは疑う余地がない。味をブレンドすることによって競争の激しいスナック業界でシェアを獲得しながら、インドの熱烈なスナック好きの間でカルト的な支持を呼び起こしている。

校正: Mitsuko Yasutake [39]