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フィリピン有数のリゾート観光地ボラカイ島にカジノ計画 住民は反対 政府は推進の意向 

カテゴリー: フィリピン, 市民メディア, 政治, 環境, 経済・ビジネス, 開発
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ボラカイ島の代表的な白砂の浜辺「ホワイト・ビーチ」 写真:モン・パラチーノ 使用許可済

フイリピンきってのリゾートビーチで知られるボカライ島 [2]この島は富裕層だけが楽しむ賭博と観光の地となり、一般旅行者やバックパッカーには無縁の地になると危惧されてい

細やかな白砂でできた浜が延々と続く岸辺と水晶のように青く澄んだ海に囲まれたボラカイ島は、フィリピン​きっての観光地で、世界でも有名な海浜リゾート地の一つに数えられる。かつては、​国内​旅行を楽しむ人や外国からのバックパッカーのオアシスとして知られていたこのリゾート地は、地元民の反対運動にもかかわらず、富裕層だけが賭博を楽しむ場になってしまいかねない状況である。

2021年9月29日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領を支持する政党連合が「圧倒的多数 [3]を占めるフィリピン代議院 [4]ボラカイ島開発機構 (BIDA)設置法案が可決された。この法案はダバオ市選出のパオロ・ドゥテルテ議員ドゥテルテ大統領の子息)が提案したものである。代議院議員307名の内192名が賛成票を投じ、反対票を投じたのは [5]7名(内6名は野党のマカバヤン連合の議員)だけだった。

一方のフィリピン元老院では、シンシア・ビリアール元老院議員からBIDA法案が提出された。彼女はボライカイ島内に、コスタ・デラ・ビスタと名付けたいくつものコンドミニアムやボラカイ・サンズホテルを所有する一族出身の大富豪元老院議員である。

このような動きはドゥテルテ大統領の前言と全く異なるものである。同大統領は、「環境回復」を図るべきとする世論を考慮して2018年のうちの半年間、ボラカイ島を閉鎖 [6]しカジノを禁止するとしていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の大流行で経済が停滞しているので財源増収策が必要だ、だから今はボラカイ島でのカジノ開催を認めるとしている。

フィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)は、マカオを本拠とするギャラクシー・エンターテインメント・グループおよびこの業界の重鎮アンドリュー・タン氏から出されたボラカイ島におけるカジノリゾート開発計画 [7]許可を与えたと発表した。

BIDA法に基づき特別観光旅行圏が設定されれば、各地方自治体(LGUs)に属していた運営、課税、投資及び許認可の権限が中央政府に移されることとなる。そして国有企業 [8](GOCC)としての権限を持った機関が、ボラカイ島全域および本島内のアクラン州マライ町に属するカティクラン地区を管理することになる。カティクラン地区には港湾と空港が設置されている。

2018年7月のマライ地方政府利害関係機関の推定によると、ボラカイ島から得られる収入は、5億800万フィリピンペソ(11億3790万円)強のマライ町全財源の78.03パーセント、アクラン州の予算20億フィリピンペソ(44億8000万円)強の25パーセントを占めるとされている。これらの財源は、州の各種行政サービスの財源になり得るが、ボラカイ島を所管する政府機関が新たに設置されれば、削減されるか又は完全に削除されるという危惧がもたれる。

2018年当時、ドゥテルテ大統領がボラカイ島を閉鎖した真の目的 [9]は環境回復ではなく「目障りな」貧民街の撤去だという憶測があちこちに広まった。

2018年9月19日、環境天然資源省(DENR)は、ボラカイ島の環境を維持するために 許容できる人口 [10](環境保護のための許容可能人口)は、最大に見積もってもわずか54,949人で、そのうち19,215人は海外及び国内旅行者が占めるとの見解を示した。2020年のフィリピン統計局の国勢調査によると、ボラカイ島居住者の人口は約37,800人である。

豪華ホテルやカジノそしてコンドミニアムの建設ラッシュに伴い、「目障りな」スラム街の貧民層は島から追い出されてしまうだろう。

島民の間には、カジノができればPOGOs [11](訳注:フィリピン娯楽賭博公社認定の諸団体)が以前に起こした売春やマネーロンダーリングなどの犯罪をはじめ、様々な社会問題が起こりかねないという危惧が広がっている。

このような事態が繰り広げられる中で、多くのアケアノン族(アクラノン族)がボラカイ島に観光旅行特区やカジノを導入することに反対している。また、市民も、報道機関やSNSを使ったり所管の官庁に請願したりして、この国営化企業ボカライ島開発機構の設置法案に反対 [12]している。

9月25日(土)に、数百人が65台の車両に分乗しカリボの中心市街からマライ町のバランガイ・カティクランまでデモ行進を行った。聖職者と元神学生が主導したこの行進は、宗教団体と地方自治体職員から支援を受けた。

他にも多くの人がボラカイ島開発機構の設立に反対している [13]。この機構は政府の付属機関として同島の管理を担うことになるからである。

バヤン・アクラン(訳注:アクラン州民という意味)という活動団体に所属するキム・シン・トゥグナによると、ボラカイ島開発機構設置法の目的は、ボラカイ島を上流階層や海外商社のための排他的特区にしようとするものである。トゥグナは、中央政府はボラカイ島における全ての社会経済活動を管理しようとしているとも言っている。また、2018年のボラカイ島閉鎖は、同島を多国籍企業へ解放するための前触れであり、ボラカイ島内の土地の大部分は海外の投資家に握られ、やがて中国資本が所有するカジノに占拠されてしまう [14]だろうとも言っている。

ほぼ全ての地方自治体が、国有企業によるボラカイ島の管理に反対している。フロレンシオ・ミラフローレスが知事を務めるアクラン州の職員および代議院のテオドリコ・ハレスコ・ジュニアとカリート・マルケスの語ったところによると、国営企業と民営化に関するいくつかの法案が代議院委員会で未決のままとなっているが、これらの法案が集中審議の後に可決されると、法人が設立されることになる。そうなれば、地方自治法により各地方自治体に委任されている [15]権限はその法人により「剥奪」されてしまうだろうということである。

ボラカイ島で小規模な事業を営むネネット・アギレ-グラフは、島内の同業者の気持ちをうまく代弁している [16]。彼女は、ABS-CBNニュースに次のように述べた。

For us, it’s a bit shocking. Because after saying that he hates casino, he doesn’t like gambling, it made us all happy. But now, with this new pronouncement, it’s kinda scary because you don’t know what’s gonna happen.

我々にとっては少し驚きでした。ドゥテルテ大統領が、カジノは嫌いだ、ギャンブルも嫌いだと言うのを聞いて、皆が喜んでいました。でも、いま新しい表明が出されてゾッとしています。これから先何が起こるか不安です。

彼女は、ボラカイ島の景気回復策の提案も行っている。

Send more vaccines to the island and open it to tourism, and I think we will be able to generate the money that they need, without resorting to opening the island to casinos.

ボラカイ島にもっとワクチンを届けて観光客に門戸を開いてください。そうすれば、カジノを導入しなくとも島内経済回復に必要な資金の調達は可能になります。

カリボ大聖堂のホセ・コラソン・タラオク司教は、アクラノン住民は「ボラカイ島を​しっかりと守らなければなりません」と語った。

タラオク司教は教書で「私は、我々の大切な土地を台無しにしてしまうようなカジノを認めないよう​、州の指導者​に強く訴えます」と述べ [17] さらに次のように​続けた [18]

But why do we need to put up a gambling casino? Gambling is a game of chance which foments a culture contrary to the demands of sound reason.

This gradual takeover of the human psyche by gambling is a big personal liability that can become no less than a socio-affective disorder. It will slowly weaken and eventually destroy the moral fiber of the people.

なぜカジノを導入する必要があるのでしょうか。賭博は、良識に反する行動を煽るような、偶然の結果を求めるゲームです。

賭博により人間の精神が徐々に蝕まれていくと、罪悪感や恥の感覚が乱れ、各人の倫理観が問われる事例が多発するようになります。カジノは、人々の道徳心を徐々に衰退させ、最終的には破滅させてしまうのです。

校正:Yasuhisa Miyata [19]