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台湾原住民族の輝かしい一年、2021

カテゴリー: 東アジア, 台湾(中華民国), スポーツ, 先住民, 市民メディア, 歴史, 芸術・文化
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『斯卡羅 Seqalu: Formosa 1867』からのスクリーンショット 台湾公共テレビPTS Youtube チャンネル [1]。 俳優: チャマケ・ヴァラウレ [2]

(原文掲載日:2021年12月29日)

今年2021年も世界各地では厳しい状況が続いたが、台湾原住民族にとっては稀に見る実り多い年であった。原住民族出身者がオリンピックメダルを勝ち取り、権威ある音楽賞を受賞し、さらには人気テレビドラマを通して 原住民族の歴史が知られるようになった。

現在台湾に住む原住民族 [3]は、オーストロネシア人(オーストロネシア語族) [4]の子孫であり、何千年もの間台湾の島々に住み続けている。16世紀初頭からずっと、この地域の原住民族は、領有を目的としたオランダ人や日本人入植者などの、 武力による討伐 [5]に見舞われてきた。1949年国民党 [6](KMT)が台湾に移住定着したあと、原住民族は強制的に同化させられ、戒厳令の下で40年にわたって弾圧を受けてきた。台湾原住民族が就労と教育の機会を奪われ続けてきたのはこのような歴史がもとであり、文化と 言語は深刻な絶滅の危機に瀕している。 [7]

近年、特に蔡英文総統が過去の不当な行為について公式謝罪 [8]を表明して以来、原住民族が置かれている苦境への認識が強まり、 彼らの言語を保護 [9]し文化と歴史に光を当てることで、時代の流れを変えようとする機運が高まっている。

原住民族が得て当然の関心と理解が、ようやく生まれ始めたといえる。

東京オリンピック

台湾のグオ・シンチュン(郭婞淳) 、重量挙げ女子59キロで金メダル獲得 クリス・グレイテン撮影/AFP

今年、東京オリンピックに台湾から出場したアスリート68名中、13名が原住民族出身である。 [13]グオ・シンチュン(郭婞淳)、 アミ族 [14]名タナは3種目でオリンピック記録を更新し重量挙げ女子59キロ級チャンピオン [15]になった。

パイワン族 [16]の ヤン・ヨンウェイ(楊勇緯)は、男子60キロ級決勝戦で銀メダルを獲得した。ヤンのパイワン族名はドランガドランである。

東京オリンピックで、台湾にとって初のオリンピック柔道メダルを獲得したパイワン族出身のヤンは、「柔道男神」という愛称をつけられた。

音楽賞

台湾の原住民族はまた、この地で迫害や植民地統治を受けてきたにもかかわらず、それぞれの部族の儀式を継承することで伝統の音楽を守ってきた。

アーメイ [20](張惠妹) や アヤル・コモヅ [21](張震嶽)のような原住民族歌手の多くは、中国ポップスを歌ってキャリアを築く一方で、民族の詞と楽曲を書くことにこだわっている。さらにこれらの歌い手たちは、折に触れて文化や環境問題について率直な意見を積極的に発信する。

今年初め、台湾の音楽賞「ゴールデン・メロディー・アワード (金曲奨) 」で原住民族語歌手賞と年間アルバム賞を受賞したプユマ族出身のサンプーイ (桑布伊) は、授賞式のスピーチで、彼ら部族の暮らす土地が太陽光発電所建設により脅かされていることに触れた [22]

我的部落,知本部落,現在正面臨土地的議題,希望大家可以關心;希望土地的正義,環境的正義,可以站在我的部落跟台灣每個角落,也希望大家能支持還沒被正名的西岸原住民族,能回到自己的土地。

私たち部族の住む知本に環境破壊の危機が迫っています。どうか少しでもこのことに目を向けてください。私の部族はもちろんのこと、台湾のどんな土地に暮らす人であれ、住む場所や環境に対する公正な権利が持てることを強く求めます。

太陽光発電所建設予定地は、卡大地布(カタティプ)部落 (訳注 サンプーイはこの集落の出身) の子孫が暮らす台東市の湿地帯にある。生態系破壊の懸念に加え、開発の名のもとに、原住民族の土地所有権侵害が進んでいることも論議の的となっている。 [23]

パナイ・クスイ(巴奈)の両親は、アミ族とプユマ族である。パナイは歌手であり 原住民族の土地所有権を守る活動家である。今年、台湾のゴールデン・インディ・ミュージック・アワードで、アルバム「愛、不到」が審査員賞を受賞した際、彼女は台湾第四原子力発電所の是非を問う住民投票に皆が関心を向けるよう呼びかけた [24]

有一天我們都會死,我們要留一個什麼樣的世界給我們孩子?我們做音樂、我們做創作,到底要做什麼?現在你做音樂不會有錢了,如果你還沒有辦法誠實地說出你心裡的話,為什麼要做音樂?我們一直吶喊、一直吶喊,為什麼今天都沒有人談核四要不要同意?當然不同意啊!12月就要公投了,為什麼沒有人談這些事情?這是非常重要的!

私たちはいつかやがて死を迎えます。だとすると、自分たちの子孫にどんな世界を残したらいいでしょうか ? 私たちは音楽やアートを作りますが、実際のところ、何のために音楽やアートを作っているのでしょうか?今は音楽を作っても大金を稼げる時代ではありません。心の中で思っていることを人々に伝えてはいけないのなら、何のために音楽を作るというのでしょう? 私たちは叫び続けます。声を上げ続けなければ。何故誰も(今日の授賞式で)第四原発のことに触れなかったのでしょうか。もちろん、第四原発の建設再開に賛成してはいけません! 12月に住民投票が行われるのに、なぜ誰もこのことに触れないのでしょう?これは本当に大切な問題なのです!

12月18日、台湾で第四原発建設再開の是非を問う住民投票が行われた。52.3%の反対多数で提案は否決された [25]

『斯卡羅SEQALU:Formosa 1867』

台湾公共テレビ制作歴史ドラマ『斯卡羅 Seqalu: Formosa 1867』は、8月放送開始以来台湾人を熱狂させている。台湾南部が舞台の全12話シリーズは、原住民と入植者の複雑な関係を描いている。

台湾公共テレビ制作の歴史ドラマ『斯卡羅 Seqalu: Formosa 1867』には、原住民族から見た台湾の 歴史が描かれているというコメントが相次いでいる。

『斯卡羅 Seqalu: Formosa 1867』からのスクリーンショット PTS Youtube channel [1]

ドラマは、1867年に南フォルモサ(原注 フォルモサは台湾の別称)で発生したアメリカの商船ローバー号 [30]の難破を発端に、アメリカと斯卡羅(スカロ) の間で起きた武力紛争を描いている。紛争は、 アモイ [31]在住アメリカ領事 チャールズ・ルジャンドル [32]と斯卡羅の酋長である卓杞篤(トキトク)が基本合意書に署名したのち、平和的合意に達した。

斯卡羅の主要な人物すべてを、演技経験の少ないパイワン族俳優が演じた。酋長の卓杞篤を演じたのはチャマケ・ヴァラウレ [2](査馬克・法拉屋楽) で、彼はパイワン族のために作られたオルタナティブ・スクールで教師をしており、古代民謡の収集や歌唱、パイワン族の若い世代への伝承指導に情熱を注いできた。撮影後のインタビューで、チャマケはドラマから学んだことを次のように話している。

我們沒辦法回到150年前,也沒有辦法去改變150年前的那個樣子。可是我們可以決定我們想要長出來的樣子是什麼。不管是求和還是應戰,有沒有更好的辦法。能夠在堅定自己的立場當中,然後在維持和平,然後維持所有的共榮、共存、分享、分擔、分憂的這樣的一個概念之下,能夠一起為這片土地做努力的那個卓杞篤。我希望能夠把這樣的精神,能夠去傳遞給更多的人,更多更多在這片土地上面成長的台灣人、成長的排灣族人、成長的原住民。

私たちは150年前には戻れないし、150年前に起きたことを変えることはできません。それでも、何になるかを決めることはできるのです。選択が降伏であろうと、闘いであろうと、よりよい解決策を見出すことであろうと、酋長卓杞篤がやろうとしたことは 自分たちの価値観を大事にしながら、すべての人が共に成長し、生活し、分け合ってこの国のために協力しあうことができるような平和を維持するということでした。私はこの精神を一人でも多くの人、一人でも多くの台湾の人々に届けて、パイワン族はじめ他の原住民族の人々の力になることを願っています。

校正:Yoko Higuchi [33]