「自分の内側から、何かを見つけ出すことも必要なのです」スフリエールの噴火が島民の暮らしに影を落とすーービンセント島出身の写真家ナディア・ハギンズが語る

4月下旬にセントビンセント・グレナディーン諸島に降った大量の雨で、植物は息を吹き返した。 写真: オレンジゾーンで咲くトーチ・リリー(2021年5月6日)ナディア・ハギンズの許可を得て使用

(訳注:この記事の原文は2021年6月2日に投稿された)
セントビンセント・グレナディーン諸島のスフリエールが4月9日に活火山であることが 再確認 された。それ以降、降灰による避難から健康被害に至るまで、噴火による影響が大きく国の警戒レベルは赤とオレンジの間で変動している。

スフリエールの噴火後、セントビンセントに生息するオウムを撮影する写真家ナディア・ハギンズ。写真はハギンズの許可を得て使用
(Photo by Anusha Jiandani courtesy)

写真家のナディア・ハギンズへのインタビュー後編で、(前編はこちらから読むことができます)ハギンズは、スフリエールの噴火を記録するとともに、 火山灰の安全性メンタルヘルス に関わること、それに救援組織との 連携をはじめとする教育的情報を自身のInstagramに掲載し、一連の状況を伝えている。
私たちは、1979年のスフリエールの噴火後に撮影された写真に敬意を表し、いまだ支援を必要とする人々がいる地域について話し合い、カリブ海域が辿った道から、レジリエンス(回復する力)の意味を探る。

ジャニーン・メンデス・フランコ(以下JMF): 2019年に撮影した溶岩ドームの写真を見て、愕然としました。2021年の噴火を振り返って、今、写真は私たちにどんなことを語りかけてくるでしょうか?

Nadia Huggins: That we're not in control of anything. I haven't been up to the volcano as yet, but some people have photographed it and obviously it's just grey, gravel, steam…it just goes to show that everything changes at some point; nothing remains the same. It's like a lesson, ultimately, in our lives. We just have to go with the flow and embrace what happens. Natural disasters will happen in the Caribbean; we just have to find ways to adjust and adapt, unfortunately. Even in the midst of that, there's still a lot of opportunity to reimagine [things like] building homes, where we settle; I think we really need to get into problem-solving mode now. I see it as an opportunity for a lot of growth.

ナディア・ハギンズ(以下NH):それは、人というのは、何もかも思い通りにすることはできないということです。私はまだスフリエール山に行ったことはありませんが、なかには噴火後の姿を撮影する人もいます。一見しただけでも、灰色、砂利、水蒸気……といった状況です。ありとあらゆることが、ある時点で変わってしまうということ、変わらないものなどないということを伝えています。それは、究極的に言えば、人生における教訓のようなものなのです。抗わず、起こることを受け入れる、ということを教えてくれています。カリブ海では自然災害は起きます。残念ですが、順応し、自ら適応する方法を探すよりほかはないのです。そんな中でも、建築や住む所などを見直す機会はたくさんあります。私たちは今、問題解決に向けて力を注がなければいけないのだと思います。大きく成長できるチャンスなのだと私は思っています。

 

この場所が2年前に私が撮影した噴火口だったとは信じられない。この現状を見て、自然の力に支配されると人間というものがいかに脆く、同時に私たちの島はいかに劇的な影響を受けるかということを痛感した。(2019年11月9日)
スライド1:噴火口内部から北西方向を見る。
スライド2:1979年のドームと噴火口壁の北東面。
スライド3:1979年のドームの一部分の前に立つ地質学者リチャード・ロバートソン教授とモニーク・ジョンソン氏、UWISRC(西インド諸島大学地震研究センター)のスタッフ。

JMF: あなたが撮る写真の多くは、被災者が直面している日常的な問題を、非常に個人的な手法で伝えています。例えば、安定的な水の供給、家を失うといった問題についてです。長期的な支援を必要としているのはどの分野ですか?

貯水槽 2021年4月9日

 

NH: Construction, mental health and education to me seem paramount. We already had a mental health system that wasn't very reliable, so I think we need to start figuring out how we're going to put those systems in place. Maybe it's just a matter of setting up organisations that come here specifically to deal with the fallout of disasters and how it impacts people's lives, and help them face that trauma in some way.

You know Caribbean people: something traumatic happens and they just laugh it off and power through, but there are lasting effects and we don't realise that we're bringing our suffering and pain onto other people in the process. [In terms of rebuilding], immediately what needs to happen is major ash cleanup, bulldozers to clear the roads. The road to Sandy Bay [in the red zone, home to the island's indigenous Garifuna community] is crazy. I was so shocked! I mean, that road was horrible before and they get neglected [by government] so I don't know what's going to happen to them.

NH:私の考えでは、建築、メンタルヘルス、教育が最優先だと思います。すでに、メンタルヘルスに関する取り組みを始めていましたが、あまり信頼のおける取り組みではありませんでした。ですから、これらの仕組みをどのようにうまく機能させるかといったことを考えるところから始めていかなければならないと思っています。災害の余波や、生活への影響に対処するために特別に現地に赴き組織を立ち上げ、何らかの形でそのトラウマに向きあうようにすることが、課題となってくるかもしれません。

カリブ海諸国の人たちは、何かトラウマ的なことが起きても、笑い飛ばして前に進みます。けれども、影響は長く続き、その過程において自分の苦しみや痛みが自分以外に影響を及ぼすことに気がつきません。再建という意味では、すぐに灰を除去して、ブルドーザーで道路を整備しなければなりません。レッドゾーンにあるサンディベイ(島の先住民族 ガリフナ のコミュニティがある)までの道は最悪です。本当に衝撃を受けました。あの道は以前からひどい状態でしたし、(政府から)放置されていたので、どうなるでしょうか。

避難所に用意された緊急用の寝具(2021年4月15日)

JMF: あなたが映し出す写真は、回復する力を物語っています。積もった灰に描いたガリフナ族酋長の絵は、本当に深く私の胸にくるものがありました。ドミノの写真や、灰に覆われた植物から新たに芽吹く写真もそうです。希望の物語を撮影することは、なぜ大切なのでしょうか?

希望、勇気、回復する力といったイメージを呼び起こそうと、親友に協力を求めた。マガルディ・ニーホール @wildbreedが灰の中に描いたガリフナ族酋長、ジョセフ・シャトワイザ (サトゥエ)のイメージ

2021年4月13日。今日は、42年前のラ・スフリエール火山の噴火による犠牲者を追悼する日。ビーチまで車を走らせると、いつものようにドミノゲームをしている男たちに出会った。42年前の出来事に無関心で、明らかに私が邪魔をしていたゲームを再開したがっているように見えた。男のひとりが、今日が賞味期限のキスケーキの箱の日付を指摘した。

灰の重みで多くのココナッツツリーの枝が垂れ下がった。けれども、再び成長は始まっている。(オレンジゾーン) 2021年5月6日

NH: We don't want to live in a state of panic and depression for the rest of our lives. We'll never get anything done in that state. I'm not saying it's not important to grieve, of course it is, but if [disaster porn] is the type of imagery I have to share to get people to be empathetic and help people, then I think we don't have our priorities straight. It's also important for future generations to see that this is how people in the Caribbean dealt with [hardships] and there is hope—a way for us to come together in communities, help each other and just keep on pushing forward. We cannot always depend on international aid and our government to do the work; we also have to find something in ourselves [..].

NH:私たちは、訳も分からず打ちひしがれたまま残りの人生を生きていたいとは思っていません。そんな状態では何もできません。哀しむことが不必要だと言っているわけではありません。もちろん重要な意味があります。けれども、もし人々の共感や支援が目的ならば、シェアすべき写真は「惨状や打ちひしがれた人々」と言った、衝撃の強さだけを狙ったものではなく、もっと別の視点からの写真もあると思います。カリブの人たちがどのようにして苦難に打ち勝ってきたかを、将来の世代に知ってもらうことも大切ですし、そこには希望があります。コミュニティが一丸となって助けあい、ひたすら前に進み続けるのです。復興という目的はありますが、いつまでも国際社会の援助や政府に頼ることはできません。私たち自身が、自分の内側から何かを見つけ出すことも必要なのです。(中略)

JMF: 赤外線写真の作品群は特に感銘を受けました。1979年のラ・スフリエールの噴火をきっかけに赤外線写真が注目されるようになりましたが、その歴史的意義と、あなたが赤外線写真に敬意を表するようになった動機を教えてください。

新たな成長。グレッグス(グリーンゾーン)2021年5月2日。1979年のラ・スフリエールの噴火後に撮影されたアール・カービー博士のオリジナルの赤外線写真へ敬意を表して。

新たな成長。グレッグス(グリーンゾーン)2021年5月2日。1979年のラ・スフリエールの噴火後に撮影されたアール・カービー博士のオリジナルの赤外線写真へ敬意を表して。

新たな成長。グレッグス(グリーンゾーン)2021年5月2日。1979年のラ・スフリエールの噴火後に撮影されたアール・カービー博士のオリジナルの赤外線写真へ敬意を表して。

NH: Dr. Kirby was one of our main historians. I'd actually put together a photography exhibition of images from the 1902 and 1979 eruptions [and] he contributed a couple of infrared images, done in a similar way. It's a kind of scientific method to figure out where vegetation growth is. There was something striking about it to me because you wouldn't expect to see an image [like this]— landscapes are green, obviously—and I felt like he was an important figure […] he had done a lot of research with Garifuna people, trying to preserve our history and I think a lot of times we forget to honour people like that. I wanted to do images in a similar vein, but I was a little hesitant because it is a drastic departure from my usual colour palette. There are other photographers who use a similar technique and there's always the fear of somebody saying you're trying to copy, so I had to make it very clear where those images were inspired from.

NH: カービー博士は、セントビンセントとカリブ海地域における中心的な歴史家のひとりでした。私は、1902年と1979年に起きた噴火の写真をまとめた展覧会を開催したことがあったのですが、その際、カービー博士は同様の手法で撮影した赤外線写真を何枚か提供してくれました。その写真には、植生の生育に関する分布を把握するための一種の科学的手法が用いられていたのです。私は、その赤外線写真を見てとても意外に感じました。目に見える景色はちゃんと緑なのに、赤外線だとこんな具合に映るんだなんて思いもよらなかったからです。私は、博士が重要な人物だったことを実感したのです。(中略)博士は、ガリフナの人たちと一緒に多くの研究を行い、セントビンセントとカリブ海地域の歴史を守ろうとしていましたが、私たちはそうした人たちへの敬意を忘れがちなのだと思います。私も同様のイメージを作り上げたいと思いましたが、いつものカラーパレットとは大きくかけ離れているため、少し躊躇していました。同様の手法を使っている写真家は他にもいますし、誰かの真似をしていると言われる不安もつきまといます。ですから、着想の源をはっきりと示す必要がありました。

JMF: サステイナブル(持続可能)な観点から考えたり行動したりすることの必要性、またカリブのような小島の開発途上国にとっての問題点について、写真でどんなことを伝えたいですか?

NH:My main focus was really thinking about food security and architecture; to me, they're the most interesting aspects of this whole eruption. I don't know if the images communicate a need for that but I hope that people who have those sort of skills and who are thinking about these things, can use the images in some way to help fortify their own ideas and their projects in the long run.

How do we incorporate design into these landscapes? How are we maintaining what we have without wiping out acres and acres of forest just to build a town because we think it's going to attract the right kind of tourist? How are we working with these landscapes in a way that maintains our own needs?

NH: 私が主に考えていたのは、食糧の安全保障と建築についてです。私にとって、この2つは今回の噴火で最も興味深い側面を持っています。この写真が私の考えを適切に伝えているかは分かりません。けれども、食糧の安全保障や建築に関する知識を持つ人や、これらに関心を寄せている人が、長期的視点に立って自分のアイデアやプロジェクトを強化するために、この写真を何らかの形で利用してくれればと思っています。
では、どうやって、景観にデザインを取り入れれば良いのか? 観光客を呼びよせる町を作るために、何エーカーもの森を一掃せずに、今の状態を維持するにはどうしたら良いのか。私たちは、自分たちの求めるものを維持しながら、景観をどのように扱っていけば良いのかなど考えています。

灰に覆われた階段。灰の量に注目してください。何トンものこうした灰が家の屋根に落ちてくることを想像してみて。サンディベイ(レッドゾーン)。2021年5月30日。

JMF: 噴火を題材にした作品群を制作することは考えていますか?

NH:It's definitely a part of it, but it's not the only focus. I have been documenting the volcano [and its environs] way before the eruption, so there's definitely an arc of something going on; I'm just not quite sure what it is yet.

NH: やってみたい気持ちはたしかにありますが、それが唯一の目的ではありません。私は噴火のずっと前から火山(とその周辺)を記録してきましたから、何かを写真に収めていることは間違いありません。でも、それが何なのかは、まだ分からないですね。

ハギンズの写真が伝えるように、真実は自ずと明らかになるだろう。

(訳注:2022年5月28日から7月9日までTwo Queens Galleryにて、ナディア・ハギンズが参加するグループ展「At Peace II」を開催)

校正:Masato Kaneko

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