ロシアのウクライナ侵攻に対する日本の煮え切らない反応

(訳注:この記事の原文は2022年3月26日に公開されました)

"Pray for Ukraine" cycle cap

ウクライナカラーのウクライナ支援サイクルキャップ、京都の 縁 Enishi Handmaide Cyclecap 製。売り上げは全てウクライナ救援のために寄付され、帽子は完売している。註:「縁」という文字は、「人と人をつなぐ絆や結びつき」を意味する。写真:jun.skywalker Flickrより。 Image license: Attribution-NonCommercial 2.0 Generic (CC BY-NC 2.0)

2月24日のロシアのウクライナ侵攻後、日本はロシアに経済と金融制裁を迅速に課したが、完全に結びつきを断つことを躊躇している。今回のロシアの侵攻は、日本が難民を歓迎しない国ということを再認識させ、また、核兵器を拒否する日本の国是を揺るがせた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、3月23日、オンラインを通じて日本の 国会で710名の議員を前に歴史的な演説を行った。 その中で、日本を次のように称賛した。

[…] the first [country] in Asia to put real pressure on Russia to restore peace. Who supported the sanctions against Russia.

[中略]平和を取り戻すために、日本はアジアで初めて、ロシアに実際に圧力をかけ、ロシアに対する制裁に踏み切ってくれました。

大統領は、日本向けのスピーチを慎重に準備したと、東京を拠点にするジャーナリスト、フェーベ・アモロソ は CBC/RadioCanada のテレビインタビューで語った。

For example,  [Zelenskyy] mentioned the nuclear power plants that were at risk of Russian attacks in Ukraine. This refers to of course the Fukushima incident in 2011 […] that led to a nuclear meltdown.

たとえば、(大統領は)ロシアの攻撃の危険にさらされていたウクライナの原発について言及しました。これはもちろん、福島原発事故が念頭にあったからです。(中略)福島原発もメルトダウンに至りました。

ゼレンスキー大統領はまた、戦争が終わった後には、ウクライアナの再建と、戦争によって避難した人々のために家を探す手助けも必要だと言っている。2011年の東日本大震災による津波でコミュニティが破壊された東北地方沿岸の地域では、11年経った今も38,000もの人たちが避難生活を強いられている。このことが大統領の念頭にあるのでこう言っているのだと、アモロソは語った。

また、ゼレンスキーは演説の中でロシアの侵略を阻止するために日本にこう訴えた

 So that Russia seeks peace. And stops the tsunami of its brutal invasion of our state, Ukraine. It is necessary to impose an embargo on trade with Russia. It is necessary to withdraw companies from the Russian market so that the money does not go to the Russian army.

ロシアが和平を求め、 そして、我々ウクライナへの残忍な侵略の津波を止めるには、ロシアとの貿易を禁止する必要があります。資金がロシア軍に行かないように、ロシア市場から企業を撤退させる必要があります。

ロシアのウクライナ侵攻開始以来、ここ1か月、日本はこの危機に対してまちまちな反応を示してきた。 最初の頃には、日本政府がロシアに迅速に制裁を課すよう動いたため、ウクライナを支持するデモが日本中で行われた。

Note: Tsuji Asako is a media personality and television producer; this demonstration is in Tokyo.

註:辻愛沙子は放送タレント、テレビプロデューサーである。このデモは東京で行われた。

日本はこれまでウクライナからの難民の受け入れにそれほど熱心ではなかった。 3月、政府は、ロシアの侵略から避難を求める47人のウクライナ人に入国を許可すると発表した。これは、通常日本が毎年受け入れる難民30名を超える数字だ。

ただし、日本はウクライナ人を難民として認定しておらず、代わりに「一時的な避難所」を与えているだけである。

日本は一時的な避難所を提供しているだけだ。これは、ウクライナ人が滞在し、ある程度の支援を受けることができる法的地位だが、国際法上の難民の認識には程遠い。

— Hiroko Tabuchi (@HirokoTabuchi) March 6, 2022

日本の経済制裁も同じく一筋縄ではいかない。一部の日本企業は、侵略が始まってもロシアでの完全な撤退を差し控えてきた。そうした中、日本政府は一部の制裁を解除し、今のところ更なる制裁を課すことを拒否している。

2021年、日本は 73億ドル以上の物資をロシアに輸出した。 日本は、侵略の開始以来、ロシアへの高級車の輸出を禁止 (訳注:8/16日現在、リンク先は閲覧できない状態になっている)することに加えて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と新興財閥オリガルヒを対象とした多くの経済制裁を課している。 日本政府はまた、ロシアとの資本取引に 制限 (訳注:8/16日現在、リンク先は閲覧できない状態になっている)を課し、一部のロシアの銀行を国際決済ネットワークから除外するよう働きかけた。

しかし、3月になって日本政府は「国民生活への影響」を理由に、ロシアのウニとカニの輸入を禁止する決定を取りやめた。日本にとってロシアは、世界3位 の水産物の輸入先である。卸売業者、スーパーマーケット、および外食産業は、2月の侵攻開始後すでに、水産物の不足について不満を募らせていた。

ロシアでビジネスを継続すれば評判が落ちてしまう という認識が日本企業の間に広がってはいるが、すべての日本企業がロシアとの関係を断ち切れるわけではない。

例えばファーストリテーリング社は、ユニクロの名でよく知られたアジア最大の小売業者だが、ロシアでの事業を継続すると発表していた。しかし、消費者からの抗議を受けて当初の決定を取り消した

一方、日本政府、三井物産三菱グループは、侵略後に共同事業体のメンバーであるシェル石油の突然の撤退にもかかわらず、これまでのところ大規模なサハリン2天然ガスプロジェクトからの撤退に消極的である。 サハリン2は、日本の液化天然ガス輸入のほぼ10パーセントを占める供給源である。

プロジェクトから撤退すると、三井と三菱の共同事業体は 150億米ドルの損失を被り、日本の天然ガス価格が最大35%上昇し、国のエネルギー安全保障が危険にさらされると予想される。

いずれにせよ、ロシアに対する日本の最近の経済制裁よって、両国の関係は冷えきっている。 両国は長年の領土問題のために厳密に言えば戦争を続けており、ロシアは「 反ロシア」感情を引き合いにして、3月に日本との平和条約締結の交渉を中断すると発表した。このことにより、平和条約を締結し第二次世界大戦を公式にそして最終的に終わらせる計画は、無期限に棚上げされることになった。

ロシアの発表は、岸田文雄首相に、日本の「北方領土」返還政策の断念を迫るものだ。千島列島の最南端の4島は第二次世界大戦後ソビエト連邦に占領されており、この北方4島を取り返すため、日本は20年近く大きな犠牲を払ってきた。

岸田首相は3月7日の国会で、北方領土を日本の「固有の領土」と表現した。 これは一貫して日本の立場だったが、安倍政権下の内閣では、ロシアを刺激することを避けるためにこの言葉を公に使用することを慎重に避けていた。

— James D.J. Brown (@JamesDJBrown) March 8, 2022

 

その後、ロシアは、日本の最北端の北海道からも視界に入る、これらの島々で 軍事演習を開始した。 訓練には、400kmの射程を持つロシアの対空ミサイルシステムS300が含まれ、この地域の日本の軍用および民間航空機にとっては脅威である。

ウクライナ侵攻後、ロシアの潜在的脅威の高まりが、日本で国防についての新たな議論を引き起こしている。 1945年の広島と長崎の原爆投下以来、日本はその国土に「核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず」という 非核三原則を堅持してきた。 しかし、3月、日本の連立与党は、NATO軍事同盟のように、米国との「核共有」政策の採用について 正式な議論を開始した。

これに対し、有力野党である日本共産党の代表は、次のように 述べた

The three non-nuclear principles are not a mere policy measure but a national cause. A person who served as prime minister of the world's only atomic-bombed country in warfare should under no condition be talking about possessing nuclear arms.

非核三原則は単なる政策ではなく国是だ。唯一の戦争被爆国の首相を務めた人物が核保有に関わる発言を間違ってもすべきではない。

校正:Masato Kaneko

こちらに関連する記事については、特集 ロシアのウクライナ侵攻をご覧ください。

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