ブラジルの写真家が撮るファベーラの人々の美しさ

ラファエルの初めての撮影は、自身と彼のモデルが住む地域の隣にあるブラジル南東部ベロオリゾンテ市の公園で行われた 写真:ラファエル・フレイレ 許可を得て使用

写真家ラファエル・フレイレ(28)は、ブラジル南東部のミナスジェライス州ベロオリゾンテ市にあるアグロメラード・ダ・セーラと呼ばれる地域で、人々の暮らしと美を撮ることに時間を捧げている。フレイレの映し出す写真には、人種差別、黒人であること、ルーツ、社会的不可視などの背景が見えてくる。

フレイレはベロオリゾンテ市に生まれ、ずっとこの地で暮らし、離れるつもりはない。フレイレとモデルが伝える彼らの物語は、ソーシャルネットワークで公開している写真やビデオで見ることができる。

「私の作品は自分のものでも、自分のことでもありません。人のためなんです」と語気を強める。

夢見る権利

プロジェクト「Natureza Nua」(ネイキッド・ネイチャー)のなかの1枚 写真:ラファエル・フレイレ 許可を得て使用

両親の別居後、フレイレは「車の見張り」をするようになった。彼の言葉を借りれば、これはブラジルやラテンアメリカの多くの地域でみられる小銭稼ぎの仕事である。彼は、ファベーラの丘 (セーラ) の向こう側」にある中流階級が住む地域の車を見張るようになった。

アグロメラード・ダ・セーラは、ラテンアメリカで 最大規模 のファベーラ(スラム街)のひとつである。この一帯は、丘を毎日上り下りする 5万近く の人々で密集している。なお、ベロオリゾンテ市の人口は約250万人ほどである。

「私の家はちょうど中腹にあるんです。上から見ると、街路が花の絵みたいになっているのがわかります」とフレイレは言う。

もうすぐ18歳になる頃フレイレは、地域の文房具店での仕事についた。

同僚のひとりが「あなたの夢は何?」と聞いてきた。

「知らないと答えたのを覚えています。僕たちは生まれて、成長して、子孫を殖やして、死んでゆく。あとは働くだけ。夢見る権利もない。そんなことが許されるのかも知らない。何にもなりたくない、もう成長したくないって言ったんです」

同僚はそれでも問い続けた。フレイレはやがて、書くことが好きで、ときどき写真も撮っていたことを打ち明けた。当時持っていた携帯電話で写真を撮ったときのやすらぎを語った。

「自分の才能に投資すれば、やがて写真家になれるよと(同僚に)言われたんです」と振り返る。

彼女(同僚)は結婚資金を貯めていて、カメラを買うための資金を貸すと申し出てくれたんです。互いに友好を深め、私は夢を見続けたんです。

初めての作品は、同じベロオリゾンテ市にある マンガベイラス公園で撮影した。毎朝、フレイレはカメラと軽食を詰め込んだ。そして何時間も機材に慣れたり、いろんな方法で木々や草木、また自分の肌への光の当たり方を観察したりして、家に戻るだけの日々だった。

こうした日々は,フレイレの最初のプロジェクトであるセルフ・ポートレートのシリーズとして実を結んだ。フレイレは、当時、ソーシャルネットワークの Orkut で作品を公開し、地域や学友の間で認知されるようになっていた。

「ファベーラの人々のポートレートを撮って欲しいと頼まれるようになったんです。こうした機会を経て、初めて周りと一緒に写真家としてやっていく自信がついたんです」と語る。

こうして生まれたのが、裸体を表現したポートレート「Natureza Nua(ネイキッド・ネイチャー)」である。このプロジェクトは、フレイレが捉える身体の多様性から、地元で反響を呼んだ。

「過剰にセクシュアリティを表現したり、身体を物体として扱ったりはしません」と彼は強調する。

フレイレはやがて高校を卒業した。しばらくして、地元の公立学校で子どもたちに写真を教えるようになった。

フレイレは、学生時代に表現の重要性に目覚た。その目覚めが、作品の一部となって表れていると指摘する。

「黒人の生徒が9割を占める学校で教壇に立つことになったんです。この時期には髪を伸ばしました。特に黒人の美学に関する補完的講座も受講し始めました」と言う。

ところが、2015年半ば、学校の機能はマヒしてしまった。誰も路上に出ることができず、どの家も門戸を閉じていた。「2つの派閥の抗争があったんです。子どもたちをどうして良いのかわかりませんでした」

そこで、フレイレは自分が見たものを写真に収めることにした。この時期に 「Construindo a Paz: versos em imagens)」(平和の構築:イメージの詩)というプロジェクトが始まって、フレイレの生徒である10歳前後の子どもたちが写真に添える詩を創作した。

「ある詩の中で生徒が、ファベーラには花がない、ということを指摘したんです。私はそのことに全く気づかなかったんですが、彼女の言うとおりだったんです」とフレイレは言う。ファベーラという言葉はの一種を指す言葉でもあり、フレイレはこの矛盾を強調する。

こういったことを反映して、最新のシリーズ「Favela Flor que se Aglomera」 (ひとつになったファベーラの花)は生まれた。「このプロジェクトの事務所はまだ設置されていませんが、いずれ置かれるでしょう」と、まだ展示場所が見つかっていないこのプロジェクトについて語った。

現在、フレイレは、彼の活動をクラウドファンディングで支援しようとする人たちが毎月集めた寄付金で生活を送っている。加えて、教師としての給料もある。

写真家としての夢は、アグロメラード・ダ・セーラに事務所を開いて、実際に住民をモデルとして雇い、写真の収益の一部を住民と共有できるようにすることだ。すでにファベーラの人々がモデルになっているが、まだ報酬を支払うことはできない。フレイレは、写真のアイデアを思いつくたびに、周囲に相談しているという。

「きれいな写真を撮るだけの写真家にはなりたくないんです。人の人生に貢献する写真家になりたい。そうでなければ、私にとって写真家である意味はないんです」と語る。

写真:ラファエル・フレイレ

写真:ラファエル・フレイレ

写真:ラファエル・フレイレ

写真:ラファエル・フレイレ

写真:ラファエル・フレイレ

校正:Masato Kaneko

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