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今ここで、自分らしく自由に生きる カロリーナ・シチャの音楽とともに

カテゴリー: 東・中央ヨーロッパ, ポーランド, 先住民, 市民メディア, 旅行, 民族/人種, 芸術・文化, 音楽

ポーランドの民族音楽家カロリーナ・シチャ [2]は歌手であり作曲家、そして多くの楽器を演奏するワン・ウーマン・オーケストラだ。彼女は音楽という世界共通言語を使って、ヨーロッパの少数民族が昔から受けてきた偏見をなくそうとしている。グローバル・ボイスのインタビューで、ポーランドの少数民族 [3]の音楽をソロやバンドで演奏する理由を説明している。

少数派がよそ者扱いを経験することはよくあることだ。だが音楽のおかげで異文化間の対話や認識の共有ができる道が切り開かれる。そう、音楽は多くの場合、世代に関係なく文化と国民性の証明となり、多数派から偏見や差別を受けても、自分たちの文化を守り不自然な同化を防いでくれるのだ。

カロリーナ・シチャはこんな話をしてくれた。

Everything I have to say about it is somewhere between the melodies. Music speaks more than words. It is the language of emotions. She is beauty. You have to go to a concert or listen to an album [in order to understand it].

私の主張はすべて旋律と旋律の間に聞き取れるでしょう。音楽は言葉以上に多弁なものです。音楽は感情を表現する言語であり、美そのものなのです。コンサートへ行くかアルバムを聴けば、お分かりになると思いますよ。

その人間味にあふれた演奏は、ドイツの「実存的悲観論者」アルトゥール・ショーペンハウアー [4]の考えと響き合うものがある。彼はその『意志と表象としての世界』 [5]で次のように示唆している。音楽とは人間の内面に潜む自己と願望を明らかにし、それを理解し受け入れるための言語になるうる世界共通語である。つまり音楽の助けによって、人々を偏見の目で見ることなく、永遠の生の苦悩からも守られるのだと。

自身の音楽によって、カロリーナはポーランドと東ヨーロッパの文化の多面性を照らし出す。2017年にバート・ペウィガ [6]『タタール・アルバム(タタール・プレート)』 [7]をレコーディングした。このアルバムはクリミア・タタール人とヴェルガ・タタール人に伝わる歌から選曲された。彼らは西暦1397年のリトアニア大公国への移住に始まる伝統と音楽 [8]を今も伝えている。この時代にタタール人は初めて歴史に登場したのだ

タタール人、特にリプカ・タタール人 [9]は14世紀以来ポーランド社会の一角を担っている。多くの同族の人たちのように、リプカ・タタール人はより多数派のチュルク系イスラム教徒集団 [10]に属し、アラビア文字で書きタタール語を話す。しかし、ポーランドで同化政策(いわゆるポーランド人中心主義 [11])が進む間にその文化と歴史は消滅した。もっとも近年は、活動家や芸術家たち [12]がタタール人の文化遺産の復興を始めている。

カロリーナ・シチャ [13]はポーランドのポドラシェ県 [14]生まれ。タタール人の音楽に惹かれる理由をこう語ってくれた。

Many Tatars live in my home region. They moved to Poland over 600 years ago, grew into Polish culture and at the same time did not forget about their identity and Islam.

故郷にはタタール人が多く住んでいます。彼らは600年以上も前にポーランドに移り住みポーランド文化に溶け込みましたが、一方では自分たちが何者かということを忘れず、イスラム教を捨てなかったのです。

タタール音楽が満載のこのアルバムの前にもう1枚、『イエロマ・エジカム(9つの言語)』 [15]を録音している。そこではベラルーシ人やリトアニア人、ロシア人やウクライナ人、またユダヤ人やロマ人といったポーランドに住む数々の少数民族の歌を取り上げ、タタール人の歌も2曲披露している。

少数民族の音楽を発掘しただけではない。2022年8月にパトリシア・ベトレー [16]カロリーナ・マツスキェヴィッチ [17]らとチェコのプルゼニ大シナゴーグ [18]を訪れた時のことだ。3人は伝統的な民族衣装に身を包み、クリミア・カライム人 [19](ユダヤ教徒を公言する唯一のチュルク系少数民族)の歌を披露した。

Karolina Cicha trio Karaim photo Old Synagogue

プルゼニ大シナゴーグでカライム音楽を演奏している(左から)パトリシア・ベトレー、カロリーナ・シチャ、カロリーナ・マツスキェヴィッチ。写真提供 エルミナ・リアピナ 掲載許可済み

…When it comes to the Karaites, this minority is also present in Poland and very dynamic in terms of organization. It was the Polish Karaites themselves who asked me to arrange and develop their music.

[略]ユダヤ教カライ派はポーランドにもいて、少数派ですが組織としてはとても活動的です。彼らの音楽をアレンジして広めるようにわたしに持ちかけたのはまさにポーランドのカライ派の人たちなんです。

 

カロリーナは少数民族の音楽を紹介するだけではなく、その人たちの言語で歌う。

I am very interested in minorities, hence the desire to learn the phonetics of languages. While learning the language, you must also learn about the culture and view of the world of a given minority.

少数民族の人たちにとても関心があるんです。言語の音声体系を学びたい気持ちが強いんです。言語だけでなく、その人たちの文化や世界観についても学ばなければなりません。

プルゼニ大シナゴーグでのカライ派音楽のコンサートで演奏者が紹介された時のことだ。チェコのリトアニア大使館の三等書記官クリスチーナ・ボービナイトは、カライの言語が絶滅の危機に瀕しているというユネスコの指摘に触れ、その保存のためにカロリーナが果たしている役割を称賛した。2021年に彼女は『Karaimska mapa muzyczna(カライテ・ミュージック・マップ)』 [20]のタイトルですべてカライ派音楽で埋め尽くしたアルバムをリリースした。

カロリーナは民族工芸品や音響作りや他言語で歌われる歴史物の歌などに絞った研究も続けている。例えば『タタール・アルバム』制作のためにクリミアやタタールスタンやカザフスタンを訪れた。

I have been traveling abroad with the music of minorities living in Poland since 2014… The story about the context of the song is a very important element of each concert. I prepare them separately. The presence of some songs is important precisely because of this context, which says a lot about the struggles and sufferings of a given minority. Many people find compassion in this and allow them to see their country and their lives with a larger perspective.

2014年以来海外ツアーを続け、ポーランドに住む少数民族の音楽を演奏しています。[中略]どのコンサートでも歌の背景を語ることがとても大切なステージの一部になっています。曲ごとに話す内容を考えるのです。はっきり言って歌の背景が歌の存在価値を高めていることがあるのです。そのような歌には少数民族の苦闘や受難が歌われています。歌を聞いて心を打たれ、自分たちの国や生活をより広い視野で見ることができるようになるのです。

演奏の中でカロリーナは民族社会の物語を語る。少数民族を紹介し、音楽の中心になっている要素に光を当てる。そしてその社会が目指すものとその担い手を聴衆に伝え、誰がその歌を生み出したのかを聴衆に知ってもらうのだ。『タタール・アルバム』には『ヘイ・グゼル・キリム(Ey Guzel Qirim)』 [21]などのクリミア・タタール人の歌が含まれている。この歌によって1944年のクリミア・タタール人大量追放 [22]のようなクリミア・タタールの歴史の悲惨な1ページが掘り起こされた。14世紀に始まり19世紀から20世紀まで続いたクリミアからリトアニアとポーランドへの大移動 [23]を始めたカライム人たちの物語もそうだ。

We usually meet with a good reception of our music. People are often surprised that in a Slavic country there are minorities originating from the Turkic language group. The presence of Belarusians, Ukrainians, or Lithuanians in the region is hardly surprising, but few people know about Tatars or Karaims, even in Poland itself

私たちの音楽の受けはいつもいいですよ。聴衆の皆さんはチュルク語系起源の少数民族がスラブ諸国にいることを知って驚くことがよくあります。ベラルーシ人やウクライナ人やリトアニア人たちがその地域にいることは驚くにはあたりませんが、タタール人やカライム人のことはポーランド国内でもほとんど知られていないのです。

このような音楽でもっとも楽しいことは何かと聞かれ、ショーペンハウアーの音楽的普遍主義の考えを借りてこう答えた。

I have no musical education. I am self-taught. I learned everything by ear like village musicians… In music, I'm interested in universal emotions and how they manifest themselves through a local song. I don't limit myself to world music. For example, I have just recorded the album ‘SAD’ [24], which I co-create with Sw@da [25], who is the creator of electronic music.

音楽教育は受けていません。独学です。村の音楽隊のように何もかも耳で聞いて学んだのです。(中略)音楽で興味深いのは普遍的な感情と、その土地の歌の中に自分の感情をどう表現しているかなんです。私はワールド・ミュージックのジャンルに閉じこもろうとは思いません。例えば、『サッド(SAD)』 [24]というアルバムを録音したところなんですが、これはエレクトリック・ミュージックのクリエーター、Sw@da [25]との共作なんです。

ショーペンハウアーによれば、芸術家といえども人生の苦しみと無縁ではない。しかし世界の本質を純粋に正しく深く知ることができれば、芸術家はそれで十分に満足なのだ。

カロリーナ・シチャの音楽に耳を傾け、ポーランドの音楽家や文化や言語の多様性に大きな拍手を送ろう。グローバル・ボイスのSpotifyプレイリスト [26]はこちら。

校正:Moegi Tanaka [27]