
大エチオピア・ルネサンスダム(GERD)の航空写真。エチオピア首相府提供。パブリックドメイン(Wikimedia Commons経由)
アマヌエル・テスファイ、マティ・ポホヨネン
2025年9月9日、エチオピアは5,000メガワット以上の電力を生み出す巨大ダム「大エチオピア・ルネサンスダム」(GERD)の完工式を行った。式典は大々的に報道され、国営メディアやソーシャルメディアが沸き立つ中、エチオピアの人々は14年の歳月と50億米ドルを投じて建設したダムの完成を祝った。一方、デジタル空間では、祝賀ムードと並行して別の特異な現象が起きていた。人工知能(AI)によって生成された映像や画像が急増したのだ。こうしたコンテンツの一部には、エチオピアが次に注力すべき目標として、隣国エリトリアが支配するアッサブ港の取得を示唆するメッセージが込められていた。
拡散される生成AIコンテンツ
あるAIで生成された動画は、ダムの完成を祝いながら、次はアッサブ港の獲得を呼びかける内容だ。TikTokやXで広く拡散され、ビルハヌ・M・レンジソ前国務大臣もシェアしたこの動画は、GERDを舞台にした架空のコンサートを再現した巨大ステージから始まる。エチオピア国旗がはためき、AIが生成した歓声に包まれる会場で、AIによるナレーションがこう呼びかける。
How joyful it is to be Ethiopian!
How joyful it is to live in the era of the Renaissance!
How honorable it is to be a maker of Red Sea history!
May Ethiopia live forever!
From the Nile to Assab, one people! one heart!
エチオピア人である幸せ!
復興の時代に生きる喜び!
紅海の歴史を創る者としての名誉!
エチオピアよ、永遠に!
ナイルからアッサブまで、ひとつの国民!ひとつの心!
このナレーションに続いて、AI生成の愛国的な音楽と動画が続く。動画の後半では「GERD 2.0 Coming Soon!(GERD 2.0近日公開!)」というはっきりとしたメッセージが現れ、続いて「See you all in Assab!(みなさん、アッサブで会いましょう!)」の文字が表示される。動画のフルバージョンはこちら:
The inauguration of the Grand Ethiopian Renaissance Dam (GERD) has sparked widespread euphoria among Ethiopians, symbolizing a historic triumph of national pride, sovereignty, and collective resilience. After 14 years of self-financed construction through domestic bonds and… pic.twitter.com/AKvNanQH56
— Birhanu M Lenjiso (PhD) (@BMLenjiso) September 8, 2025
AIを利用した政治プロパガンダ

アフリカの角地域とアッサブ港を示す地図。 Copyright Z Fre、 CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons経由)
制約なく海へのアクセスを確保したいエチオピアの思惑のもと、このようなAIによるプロパガンダの急拡散が、明らかにアフリカの角地域の緊張を高めている。2023年にアビィ・アハメド首相は、海へのアクセスは国家の存続をかけた問題だと述べ、1億5千万人が「海を奪われた牢獄」に閉じ込められたままでは生きていけないと嘆いた。この発言は周辺国を警戒させ、自国の主権と領土保全への脅威と受け止められた。その結果、特にエチオピアとエリトリアの間で、国家間戦争に発展するのではと不安が広がっている。
エチオピアは繰り返し、平和的かつ外交的に海への自由なアクセスを希求すると述べてきたが、次第に好戦的な発言が増えている。軍幹部は、政府が「義務または責任」を命じるのなら応じる用意ができていると繰り返し発言しており、アハメド首相も地元企業の経営者に対し「平和的な方法で港を獲得したいが、失敗すれば武力行使もやむを得ない」と述べたと報じられている。
生成AIを用いたプロパガンダは、現代の民主主義社会において重大な懸念となっている。とりわけ地政学的に緊張が高まっている地域では、その影響が深刻だ。TikTok、Instagram、YouTube、X、FacebookといったSNS上で拡散される生成AIによる画像・音声・動画は、合成プロパガンダ(AIで本物そっくりに生成した映像や音声)やスロパガンダ(政治目的で大量拡散される低品質コンテンツの生成AIコンテンツ)と呼ばれる。
この新しい手法は、特に米国やヨーロッパで人気が高まっており、ドイツのための選択肢(AfD)などのポピュリスト政党や、ドナルド・トランプのような政治家が、誇張したユーモア画像や動画を使って支持者を動員し、対立勢力を批判する手段として活用している。世界各地で、こうした現象が右派ポピュリストの流れにとどまらず、地政学的な紛争にも影響を及ぼしている。
同様にエチオピアでも、AIを使った合成動画が世論を動かすための重要な手段として活用されている。政府とその支持者は、プロパガンダ映像をこれまで以上に利用している。アッサブを取り上げた合成動画や画像を見ると、政府の公式発信を補強する新たな手法が広がっていることがわかる。これらの映像を注意深く見ると、政権の主張を連想させる視覚的なモチーフが、効果音とともに繰り返し用いられている。
生成AIコンテンツに潜む思想
画像や動画は色鮮やかで、どのシーンにもエチオピア国旗を連想させる緑・黄・赤の国旗が多用されている。広大な青い海を背景にした現代的な港は、 アッサブ港や紅海を表しているようだ。「ASSAB(アッサブ)」と書かれた巨大なアーチ状の看板も繰り返し登場する。海軍艦艇の数は誇張され、掲げられた国旗から間違いなくエチオピアのものだと分かる。船舶には白い制服に身を包む兵士が乗船し、なかには船体側面に「no more landlocked(陸地に囲まれるのはまっぴらだ)」という文言が大きく書かれたものもある。
もう一つよく使われるフレーズが「from GERD to Assab(GERDからアッサブへ)」だ。GERD開発の波に乗り、その支持を次の港湾計画へとつなげ、社会を再結束させたい狙いが表れている。アッサブを制圧するエチオピア軍と機械化された部隊の動画も人気がある。首相が港とともに描かれることもあり、失われた海へのアクセスを取り戻すというビジョンを打ち出す上で、首相が重要な役割を担っていることを示している。
ショート動画の急増によって、動画で使用される音声も政治的なメッセージを伝える重要な手段となり、AIが生成した愛国的な歌が映像とともに流れる。あるAIが作った曲は、「Assab, my bride, the gateway and passage of my being. Do not despair, my country — the hour has come; your landlockedness will soon be over!(アッサブよ、私の花嫁。希望へ通じる玄関口。あきらめるな、我が祖国よ−−時は来た。海のない暮らしはもう終わる!)」と、ささやくように優しく歌う。動画のフルバージョンはこちらから:
🚨Now, back to our regular programming: #ASSEB😎 pic.twitter.com/WtZOZ0BXov
— ኢትዮጵያውያን🇪🇹🇪🇷 (@ethiopiansone) March 27, 2025
こうした動画や画像には、キャプションや画面内テキストとしてメッセージを強化するテキストが添えられている。人気のある親政府系のX(旧Twitter)アカウントでは、次のようなキャプションが投稿されている。
“The Red Sea is in our past, and it must be in our future. For dignity, for development, and for generations to come, Ethiopia’s rightful access to the sea must be restored.
過去に我々の元にあった紅海は、未来にもあるべきだ。尊厳、発展、そして次の世代のため、エチオピアは紅海への正当なアクセス権を取り戻さなければならない。
また、AI生成によるエチオピア海軍の艦艇が並ぶ港の画像には、こんなコメントが添えられている。「My next summer vacation destination! (次の夏休みの旅行先に!)#Assab #Ethiopia」
これらの映像や音声の根底には、失われた海へのアクセス回復を正当化する、国民意識に深く浸透した物語が存在する。生成AIコンテンツは愛国心に訴えかけ、国民のナショナリズムを動員しようとするのだ。エチオピアが内陸国であるという現実と、海岸線を失った経緯は、おそらく分断が続くこの国において、国民をひとつにしうる数少ない政治的課題である。国民には喪失感や後悔の念があり、動画はその感情をうまく刺激し、政府の野心に対して国民の支持を得ようとしている。
AIによって生成された画像や動画は「地理的な牢獄」から脱却し、繁栄へ向かうもう一つの未来像を描き出している。
この現象は、AIが視覚的プロパガンダを強化し、その拡散を加速させている実態を示している。画像・動画・音声を生成するAIツールが広く普及したことで、コンテンツの制作と流通はこれまでになく低コストで容易になったからだ。とりわけ注目すべきは、政府関係者が、テキストよりもショート動画が好まれるというプラットフォーム文化の変化にいち早く気づき、その変化を巧みに利用する能力である。さらに重要なのは、真実と嘘という従来の区別がもはや大きな意味を持たなくなりつつあることだ。私たちはいま、評論家が名づけた「“Fuck It” Era of AI-Generated Slop.(くたばれ、AI製クソコンテンツ時代)」に突入しているのである。







