
ネパールのベンガル・トラ。写真はフリッカーより、マシュー・ノット。CC BY-NC-SA 2.0.
スディクシャ・トゥラダールによるこの記事は、ネパール・タイムズに掲載されたもので、短縮・編集したものを共有合意に基づきグローバル・ボイスに再掲載する。
2010年、トラの生息地である12か国が国際トラサミットのためサンクトペテルブルグに集まり、12年後にはトラの数を2倍にすると宣言した。
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ネパールは達成目標を超して2010年の121頭から2022年の355頭と、野生のトラの数をほぼ3倍にした最初の国になった。しかし国内にはK.P.オリ首相をはじめとして、これは増え過ぎでトラの数は減らすべきだと主張する人々もいる。
同首相は、2018年にトラを「ネパールの誇り」と呼んで、国民にはトラの保護への協力を訴えてきたのだが、その後首相は方針を翻し、人間を犠牲にしてまでトラを繁殖させてはならないと述べた。
「トラの数は国土の森林面積に見合った個体数にすべきだ。それ以上のトラは、経済外交の手段として他国に譲渡してはどうか」と、オリ首相は2024年11月のCOP29の報告会で語った。
トラに襲われて人間が実際に命を落とす事例は、トラがその個体数の多い国立公園の外に餌を求めて出ることにより起こる。野生動物を外交の手段として使うという首相の提案は、それほど悪い考えではないかもしれない。というのも、それによりネパールは国際的な評判を高め、動物保護政策の成功をアピールできるからだ。
「トラを他国へ外交手段として送ることもできるが、受け入れ国にはその飼育に見合った施設と環境が必要だ」と世界自然保護基金(WWFネパール)のガーナ・グルン氏は語り、移送されるトラは慎重に選別されるべきだと付け加えた。
「首相は感情的な発言をしたようです。おそらくトラに被害を受けた人々と話した後だったと思われます」とグルン氏は述べた。「トラの数は3倍になりましたが、管理や援助など適切な手順をとらなければ、すべてを失ってしまうことも容易でしょう」
ワシントン条約(CITES)の加盟国は、トラの移送に関して、条約議定書を厳守した手続きをとらなくてはならない。ネパールはこれらの複雑な手順に従い、これまで2度中国へサイを無事送り出した経験がある。
バルディア国立公園の自然学者スシラ・マハタラは、ネパールにトラが多過ぎるとは言えないとしてこう語った。「トラの数は生息指定地域に対してけっして多過ぎるとは言えません。もし多過ぎるのならトラ同士で殺し合うことで、適切な個体数が維持されるのです」

川の中を走るトラ。写真はウィキメディア・コモンズより(グルン・プラタ)CC BY-SA 4.0.
バルディア国立公園には125頭、チトワン国立公園には128頭の成獣のトラがいる。2024年は約12人がトラに襲われ死亡した。人を襲ったトラの中には、麻酔銃を使って捕獲されたものもいるが、その多くがオリの中ですぐに死んでしまう。
トラの保護活動に50年以上の経験をもつダン・バハドゥル・タマンは、トラがあえて人里に出ていく理由をこう語っている。「人の居住地へと入ってくるのは、たいてい母親とはぐれてしまった若いトラです。怪我をして餌を獲れなくなったトラのこともあります」
その他にも、人間の居住地やインフラ計画がトラの保護区のすぐ近くまで迫っていたり、オーバーパスを設置するなど人間と野生動物が遭遇しないための環境が作られていなかったりすることなどがある。気候危機により悪化している水不足もこの問題に拍車をかける。
ネパールでは、毒ヘビによって年間平均3000人が殺されるが、トラによる死亡事故はメディアの注目をより集めやすい。そのためトラは生態系の頂点に立つ種であるというより、人への脅威として見られている。
トラに対する別の脅威は営利主義だ。2023年に当時の森林環境大臣ビレンドラ・マハト氏(ジャナタ・サマジュワディ党JSP)は、ネパールにはトラが「多過ぎる」ためトラの狩猟の権利をオークションにかけることを提案した。試算では、国は狩猟権を売ることで2500万USドルを得られて、それを国立公園の維持費に充てるとしている。
この発言は、保護活動家や環境問題専門家に嘲笑されただけではなく、多くの人々の怒りを買うことになった。
トラは国立公園の主な収入源でもあり、観光の目玉である。「ジャングルにトラがいるということは、バランスのとれた環境であるということです」とバルディア国立公園のマハタラ氏は語る。「公園内の生物多様性を失うことがあれば、観光客の数の減少を招くことになるでしょう」
チトワンやバルディアでは、野生動物の観光に頼っている民宿や地域の人々にとっても、エコ・ツーリズムやトラのサファリは大きな収入になる。
WWFのガーナ・グルン氏は次のように語る。「観光客はトラを見られると思って国立公園を訪れます。現在トラの数は355頭です。もし観光客がサファリに参加して1頭のトラも見ることができなかったらどうでしょうか。数を減らした場合、見つけるのは難しくなるでしょう」
環境活動家は野生動物のよりよい管理が重要で、それにはトラ外交も含めてさまざまな方法があると語る。人が野生動物に襲われ被害に遭うケースは、多くの場合地域の人が薪(たきぎ)や飼料を集めるため森に入ったときに起こる。このことから、安全のための予防対策を意識して行う必要がある。
「緩衝地区や保護地区の人々の命を守り、生計を維持するため、私たちは野生動物から命を守る技術の向上と行動変容を人々に訴えてきました」とグルン氏は付け加えた。「これは私たちの主な達成目標のひとつで、住民がその地域で野生動物と共存するために、生活の質を向上させることを目指しています」






