
写真:Zhendong Wang、Unsplash licenseにより自由に使用可能
この記事はグローバル・ボイス2026年4月のスポットライト・シリーズ「人から見たAIという存在」の一環として書かれた。このシリーズは、AIが「グローバル・マジョリティ」と呼ばれる世界の大多数の国でどのように使われ、その使用と導入がそれぞれのコミュニティにどのように影響しているか、このAIの実態が将来の世代にとって何を意味するのかなどを考察するものだ。この特集への寄付はこちらから。
(訳注:グローバル・マジョリティとは、アフリカ系、アジア系、先住民、ラテンアメリカ系、あるいは混血の背景を持つ人々の総称であり、世界人口の約85%を占めている)
AIを利用した製品を提供する企業は消費者の未来を拓くための製品をパッケージ化して売り出す。しかしグローバル・ノース(訳注:主に北半球に偏在している先進国)以外の潜在的な消費者は取り残されているのが実態だ。
2025年1つの論文がスタンフォード大学の人間中心AI研究所(HAI)から発表された。それによると、多くの主要な大規模言語モデル(LLM)は英語以外の言語においては十分に機能していないことが指摘されている。研究者は、グーグルやメタなどによる開発を含め公開されているLLMが世界で多数を占めるグローバル・マジョリティの国々のユーザーに対して不適切な回答をしていることに注目している。結果として、世界の多くの人々は偏りのある信頼できないAIツールに頼らなくてはならない。このことからも大手企業は大多数の人々のニーズを後回しにしていると言えるだろう。
低資源言語の話者、つまりAIが回答を出すため適切に学習するのに必要とされる十分なデータが揃っていない言語の話者は、この技術革新の恩恵を受けられてこなかった。オンライン上の英語のコンテンツの量が際立って多いことは、広く市場に出回るツールの開発に影響を与え、結果的にAIに興味を持つ世界中の非英語話者には障壁を作ってきた。
AIにより性能が強化されたアプリケーションは、国際社会のごく少数の基準や価値観を反映したアウトプットも生み出している。低資源言語データを生成することによってこの課題に対応する試みは、かえって害にもなり得る。もしこの状況が変わらないとしたら、非英語話者のコミュニティは、AIの可能性を引き出す競争においてさらに遅れをとるだろう。
つづくデジタル上の排除
低資源言語のデータ不足は、AIエンジニアの問題だけにとどまらない。グローバル・マジョリティに属する一般の人々はこの明白な格差により、テクノロジーによる膨大な利益を享受できない可能性がある。ニューヨーク・タイムズはAI産業がアメリカなど裕福な国々に集中していることが、この問題を悪化させてきたことに注目した。シリコンバレーのような拠点にインフラが作られ、その地域の会社が自由にあつかえる豊富なデータがグローバル・ノースに有利な状況をつくってきた。結果として、クルド語やスワヒリ語の何百万の話者は、彼らのいるかなり大きなマーケットとともに優先順位を下げられ重視されないことになる。英語話者に比べてリソースの少ない非英語話者は、AIに注力する企業に将来的にも見過ごされつづける可能性がある。
この言語格差の影響は広範囲にわたる。英語話者の世界では、さまざまなタスクにおいてAIの活用が広まっているが、低資源言語コミュニティの人々は同じ機会を得られていない。Wired誌が指摘しているように、グローバル・マジョリティに属するユーザーはChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)により答えを出したとしても、役に立たないだけでなく価値のないものしか得られないかもしれない。たとえばタミール語でメール作成をリクエストした場合、不明瞭な間違いだらけの英語のドラフトが出てくることもあるだろう。こうしたユーザーはこのような欠点だらけのAIツールは価値がある以上に問題が多いと結論づけることになる。AIがあらゆる分野や学問領域で活用されるようになっても、非英語話者は、ますます相互接続が進み単一言語化された経済環境を生き抜かなければならないかもしれない。
取り残される多様な文化
AIの英語偏重は、英語以外の低資源言語コミュニティに経済面を超えた影響をおよぼす。特に広く利用されているAIツールが生成する世界観はグローバル・ノースに住む英語話者の見方を反映するものになっている。The Atlantic誌はこれに注目し、リソースの豊富な国々の価値観が、いかにして普遍性を獲得していくかを表している実例だと述べた。非英語圏では、AIの回答を導く自国言語によるデータの蓄積が最低限であることで、それらの国の価値観は排除されてしまうのである。このようなコミュニティ出身の人々は、この技術が人類の役に立つだろうという展望とは異なり、AI開発者から不当にあつかわれていると感じるかもしれない。巨大産業により作られるツールが、さらに発展したとしてもそのアウトプットに反映される価値観はさほど変わらないだろう。
AI業界の中には、低資源言語のデジタル材料を増やしてこの不釣り合いを失くそうとする人もいるだろう。しかしこのような努力で得られる結果は理想からかけ離れてきた。The MIT Technology Reviewは調査の結果、LLMなどの製品を改善させるためウェブ上で集めたコンテンツの多くがエラーに満ちていると指摘した。なぜならAIの多言語対応能力をアップグレードさせているサイト自体が機械翻訳のミスにあふれているからである。いくつかのケースでは善意の個人がこの言語格差を埋めようとする場合もあるが、多くは専門知識のない状態で作業が行われ、そのままウェブ上に不正確なコンテンツが残ることになる。結果としてAIがその「流暢さ」を向上させるためのデータとして間違った内容が使われてしまっている。この段階で、低資源言語コミュニティはすでにダメージを受けていると感じるかもしれない。
今、立ち止まって考える必要性
これらの懸念があるにもかかわらず、グローバル・ノースのAI企業は、この利益率が高い産業の主導権を握ろうとフルスピードで邁進している。しかしこれによる多大な結果を考えると、スピードを緩める必要がある。たとえば低資源言語のコミュニティは製品開発者から軽視されつづけ、英語話者に比べて不利な立場に置かれてきた。このセクターの報告では、英語話者が優遇されるという文化のヒエラルキーが現れていて、この急成長した構造を解体するためには、慎重で意図的なやり方が求められることも示している。まとめると、長年テクノロジー業界を特徴づけてきた「素早く行動し破壊せよ」という精神が、このAI時代にも依然として生き続けていることは明白だ。当時と同じように今も、非英語話者はその影響を受けるようになるだろう。
この格差をなくしていくステップはある。まずAI開発を加速する中で取り残されてきたコミュニティと共に歩むことだ。主要な開発企業は低資源言語コミュニティとの協働を模索し、現れてきた不平等に対応しなくてはならない。LLMのようなAIソリューションを構築するにあたって、これらの人々からの情報も統合し、同時にその出力結果が正確で信頼できるものか確認することが、変革を目指す会社にとって最優先課題にならなくてはならない。さらに低資源言語のニーズを満たすツールを作ろうとする草の根AIリーダーたちと力を合わせることもできるはずだ。このような文化的に配慮したアプローチによって、AI開発は一部の人々だけでなく多くの人々を高めていく方向で改善してゆくことが可能となるだろう。







