ルカ・チャヴァルによるこの記事は元々、バルカン・ディスクルス(Balkan Diskurs)に紛争後研究センター(the Post-Conflict Research Center)が発表したもので、MIRマガジン創刊号に掲載されている。ボスニア語で「平和」を意味するMIRは独創的な若い世代の発表の場になっている年刊誌だ。コンテンツ共有同意に基づき、グローバル・ボイスが編集版を再掲載する。
イェレナ・ミルシッチがコントラルトの独特な低音で旋律を優しく撫でるように歌う。そして世界屈指のアコーディオン奏者メリマ・クリュチョが伴奏をつける。二人にとって音楽は天職であり、共演は運命だったという。
二人のアルバム『ルーメ』は、世界各地の音楽のカバー10曲とオリジナル5曲で構成されている。オリジナル曲もルーマニア、クロアチア、コソボ、セファルディなどの伝統音楽から着想を得たものが選ばれた。二人がすぐに正しい選曲だと思った曲もあれば、その判断に少し時間がかかった曲もあった。
ミルシッチによれば、この選曲作業はとても集中した素晴らしいものだった。二人がそれぞれ曲を提案したが、選ばれた曲はアレンジ面でもアルバム構成面でも二人の共演に相応しいことが絶対条件だった。プロデュースはクリュチョが担当したが、彼女にとって『ルーメ』は二人の素晴らしい共同作業の成果だった。
「ルーメというタイトルは愛を意味しています。私にとってはこのアルバムは全て愛について歌ったものなんです」とクリュチョは語る。
ミルシッチにとって、このアルバムの制作は素晴らしい経験となり、音楽の理解や解釈の点で多くのことを学んだ。
ミルシッチの話を聞こう。
We often forget that lyrics are the basis of interpretation for the song because we focus too much on accurate and beautiful singing and technique and in that process, we often forget to convey the message lyrics carry. Merima pointed this out to me and helped me become aware of one very important part of my creative personality. The entire process of making this album was amazing — from the selection of songs, preparation, rehearsal and recording, and above all it is a special feeling to perform live with Merima.
歌の解釈の基本は歌詞だということを私たちは忘れがちです。それは正確に美しく歌おうという音楽的技術を重視しすぎて、歌詞が持つメッセージを歌や演奏の流れにのせて伝えるのを忘れてしまうからです。メリマがこのことを教えてくれたおかげで、私の創作に対する姿勢の核心となる部分に気づかされたんです。このアルバムの制作過程は初めから最後まで素晴らしいものでした。選曲、制作準備、リハーサルと録音、そして何よりもメリマとの生演奏で生まれる特別な感覚までのすべてが。
ミルシッチのことば通り、二人の共演アルバムは非常に高く評価され、大いに人々の感動を呼んだ。
We had the opportunity to perform in the region and Europe, as well as in the US. Regardless of the region, the audience shares with us feelings in which you can sense admiration. There are also compliments for the performance and energy between Merima and me. Merima’s composition is especially positively welcomed because it is full of surprises.
バルカン地方、ヨーロッパ、米国で演奏する機会がありました。場所を問わず、聴衆と私たちは同じ感情を分かち合い、そこが称賛されるところだと思います。メリマと私の演奏と二人の間に流れるエネルギーにも称賛の声が寄せられています。メリマが作る曲は驚きの連続で、特に好意的に受け入れられました。
二人はアレクサ・シャンティッチの童謡詩『スノウフレークス(Pahulje)』を甦らせた。ミルシッチのソロアルバムの制作をクルチョが申し出て、快諾されたことがそのきっかけになった。
ミルシッチはこう語る。「詩の内容が本当に気に入りました。読んでみると、子供時代の気ままな日々を思い起こし、そんな美しい思い出の中からモスタルの街が蘇ってきたからです。私たちは『スノウフレークス』用に曲を録音しビデオも撮ることにし、その曲を含んだ私のソロアルバムを発表することになったのです」。
クルチョはアレクサ・シャンティッチの詩が非常に視覚的だとつけ加え、こう語った。「彼の歌詞の一語一語とそれに込められた思いが目にみえるようにわかるんです。それを読むと私は心を打たれ勇気づけられて音楽のイメージ作りが広がるのです」。
往年のヒット曲『キャッチ・ミー・イン・ザ・サバーブズ』の改作をクルチョは有名なクロチアのジャズ演奏家マティヤ・デディッチと共演し、ポリン賞を受賞した。彼女は他の音楽家たちに認められたことに加え、故郷の人々がその努力を認めてくれたことと、自分の作品をよく知ってくれていることを特に嬉しく思っている。
クルチョの音楽の源泉はセファルディというイベリア半島をルーツとするユダヤ人たちの音楽だ。その音楽はアルバム『ルーメ』にも感じ取れる。彼女がこの音楽に夢中になったのは14歳の時だ。
I was walking down the Sarajevan streets and passing by an instrument store I heard a wonderful melody. The sound was somehow familiar to me, but different from anything I had heard until then. I couldn’t resist the urge to walk into the store and ask what kind of music it was. I was told it was Sephardic music. I was and still am fascinated by that music, so I did a series of compositions and arrangements on Sephardic themes. My composition ‘Sarajevo Haggadah: Book Music’ was a great success and five years after its premiere and numerous performances, it is still performed all over America.
サラエボの街を歩いていて、ある楽器屋を通り過ぎる時に素晴らしいメロディーが聞こえたんです。その音には少し馴染みがあったのですが、それまでに聞いたことがあるものとは違いました。たまらなくなって店に入り、何の音楽かを尋ねました。それがこのセファルディの音楽だったというわけです。その時から今でもこの音楽に夢中です。セファルディ音楽の主題をもとに次々と作曲と編曲を行いました。私が作曲した『サライェヴォ・ハッガーダー(ブック・ミュージック)』は大ヒットし、初演から5年間、数えきれないほど演奏を続け、今でもアメリカ中で演奏されています。
ミルシッチとアティラ・アクソイは最近、セカンドアルバム『ヨ・ハニノ, トゥ・ハニナ(私はハンサム、あなたはキレイ)』を録音し、聴く人たちを皆、セファルディ音楽の世界へ誘った。
ミルシッチは最後にこう締めくくった。「セファルディ音楽は独特でまるで魔法です。歌詞は理解できなくても感じ取ることができるのは、それが心で聴く音楽だからです。それにセファルディ系ユダヤ人の音楽は私たちの共有文化遺産なのです。私たちの国や地域にこの音楽の演奏家があまり多くないことを考えると、この音楽の伝統を守ることはとても重要だと思われます」。
アルバム『ルーメ』の収録曲はSportifyで聴くことができる。世界中の多様な音楽をもっと聴きたい方は、グローバル・ボイスのSpotifyアカウントをチェックして、世界中の多様な音楽を楽しめる。









