
ツバル沿岸適応プロジェクトの航空写真。UNDP Climate Flickrページからの写真。CC BY-NC 2.0
この記事はグローバル・ボイスの2026年5月のスポットライト・シリーズ「Global crisis, local solutions(グローバルな危機、ローカルな解決)」の一部です。このシリーズでは気候変動対策とその成果についての記事を掲載します。また、グローバルサウスのさまざまな地域の気候変動対策を理解し、その取り組みが将来を担う世代にもたらすものを分析していきます。この記事へのご支援はこちらからお願いいたします。
国土をもたない国はどうなる?
これは、海面上昇が進み気候変動の影響が増大する中で、ツバルがデジタル国家プロジェクトを立ち上げるきっかけとなった問いである。
ツバルは人口約1万2千人の、海抜の低い環礁からなる太平洋上の国だ。気候危機が深刻化し海水面が上昇することにより、ツバルは今後100年のうちに海に沈むおそれがある。
2021年、当時のツバルの外務大臣サイモン・コフェは、気候に関する世界最大の年次会議である気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)でスピーチを行った。膝まで海水に浸かりながら演壇に立ち、歴史的に見て炭素排出量の少ない小さな国々が気候変動によっていかに大きな被害を受けているかを強く印象づけた。

ツバルの外務大臣がCOP26参加国に向けてスピーチを行った。膝まで水に浸かり、海水面の上昇が太平洋諸国をおびやかしていることを示した。サイモン・コフェのフェイスブックより。公正利用。
翌年のCOP27で、コフェ外相は、ツバルは最初のデジタル国家になるだろうと発表した。
This digital transformation will allow Tuvalu to retain its identity and continue to function as a state, even after its physical land is gone. It will also facilitate the governance of a Tuvaluan diaspora by creating a virtual space where Tuvaluans can connect with each other, explore ancestry and culture, and access new opportunities for business and commerce in various industries. Moreover, a permanent digital replica of Tuvalu — a new ‘defined territory’ — will aid in the fight for continued sovereignty under international law.
このデジタル・トランスフォーメーションにより、物理的な国土を失った後でも、ツバルは自国のアイデンティティーを保ち、国として機能し続けることが可能になります。また、ツバル人同士がつながり、ルーツや文化を探求し、さまざまな産業でビジネスや取引の新たな機会を得られる仮想空間を作ることによって、国外に移住した国民への行政運営も容易になります。さらに、ツバルの永続的なデジタル・レプリカ、つまり新たな「画定された領土」が、国際法の下で主権を維持するための闘いに寄与するでしょう。
デジタル国家プロジェクトには、3つの主要な構成要素がある。1) 「デジタル・ツイン(Degital Twin)」。大小124の島々をスキャンし、ツバルの国土のデジタルコピーを作成する。2)デジタルデータの方舟「デジタル・アーク(Digital Ark)」。ツバルの重要な事物や人々の価値観、伝承のデジタルデータや3Dスキャンデータを保存するクラウドプラットフォーム。3)「電子政府(E-government)」。これによりツバルでは「国民が行政サービスをより利用しやすくなると同時に、気候変動でツバルを離れなければならないという最悪のシナリオにおいても、政府が仮想空間で機能することも可能になる」。
これは全国民に動員を求める大規模なプロジェクトだ。国民から支持を得て、価値の高い文化的資産を確実に保存するためには、協議を重ねることが極めて重要だ。
Digital Nation in Nui 🌊
The team continues consultations today, meeting communities & students to hear their views on the project and what should be preserved in the Digital Ark.
Final stop next: Vaitupu ➡️#DigitalNation #Tuvalu pic.twitter.com/WRxHXOQ1Pg— Digital Nation Tuvalu (@digi_nation_tv) April 22, 2026
ヌイ島でのデジタル国家プロジェクト🌊
プロジェクトチームは今日も協議を続けています。いくつものコミュニティの人々や学生に会い、プロジェクトに対する考えや、デジタル・アークに保存すべきものについての意見を聞いています。
次の目的地はヴァイツプ島です。➡️#DigitalNation #Tuvalu――デジタル国家ツバル(@digi_nation_tv)2026年4月22日
プロジェクトに関するワークショップと協議に参加した後、ツバルの人々自身が、デジタル化したい出来事や文化的習慣を決める役割を担う。たとえば、ある住民はカヌー作りの技を記録したいと望んだ。
ほかのある住民は、ツバルに古くから伝わる競技に使われるボール「アノ」の作り方を候補に挙げた。
あるワークショップでは、「プロウ(葉を編んで作る伝統的な帽子)」と枕の3Dスキャンを作成した。
筆者とのインタビューの中で、デジタル国家運営チームはプロジェクトの現状について語った。
We are in the middle of Outer Islands consultations promoting and explaining the project to Tuvalu’s Outer Islands communities.
When we are digitizing stories of Tuvaluan objects, values, and practices in the Digital Ark, we have to make sure that the people who store their data are fully protected and we also have to ensure that Tuvalu hosts, houses, and maintains sovereignty over the platforms that support this data.
私たちは今、離島地域での協議の最中で、ツバルの離島の皆さんにプロジェクトの周知や説明を行っています。
ツバルの事物や価値観、風習についての記録をデジタル・アーク上にデジタル化する際、私たちは、データを提供する人々のプライバシーを全面的に保護しなければなりません。また、このデータをサポートする全プラットフォームを確実にツバルが運用し、自国で保管し、それらに対する主権を維持できるようにする必要があります。
彼らはまたプロジェクトを実施する中で学んだ点をいくつか挙げた。
- The importance of closely collaborating with all departments who work on digitization in the Government of Tuvalu (there are a lot!) to gather best practices and ensure a streamlined approach to digital futures.
- The strong appetite for digital and cultural preservation, especially among youth in Tuvalu.
- The vast range of objects, values, stories, and practices communities want to digitize.
- The need for different levels of security in digital platforms like the Digital Ark to ensure that people can digitize objects and stories but also ensure that access to those objects and stories can be limited if the people who digitize the objects and stories request that only their family members or specific community can have access.
- 成功事例を集積しデジタル化が描く未来に効率よく近づくには、政府内でデジタル化に取り組むすべての部署(驚くほど多い)との緊密な連携が重要である。
- 特にツバルの若者を中心に、デジタル化と文化の保存に対する意欲は高い。
- コミュニティがデジタル化を望む事物、価値観、伝承、風習は非常に幅広い。
- デジタル・アークのようなデジタルプラットフォームでは、段階に応じたセキュリティが必要である。人々が事物や歴史を安全にデジタル化できるようにする一方で、その人々が自分たちの家族や特定のコミュニティだけにアクセス権を付与したいと希望した場合、デジタル化した内容へのアクセス制限も確保されなければならないからだ。
このプロジェクトはインターネット接続に依存しているため、必要とし使用する資源や体制についての問題や、サイバー攻撃の危険性といった懸念もある。
また、ツバルが地図から消えるのは避けられないと当局者たちが認めているということだと、プロジェクトを批判する人々もいる。
ヴェヌ・エドウィン・ペドロとジェス・マリナッチオは「デブポリシー・ブログ(DevPolicy blog)」の記事でこの問題を取り上げ、このプロジェクトが伝えるのは希望のメッセージで、諦めではないと断言した。
The Digital Nation represents the hope that Tuvalu can prepare for extreme climate impacts, with its culture and government services fully protected in the face of rising sea levels and other disasters
It is about being proactive in the face of climate change and other influences and preserving culture for a better tomorrow.
Digital Nation is an investment in improved connectivity and e-services that can help citizens buy inter-island boat tickets, renew passports or obtain marriage certificates online rather than travelling great distances to do so in person. It is a story of staying in Tuvalu — not leaving it.
デジタル国家は、ツバルが海面上昇などの災害に直面しても自国の文化や行政サービスを完全に保護し、極端な気候変動の影響に備えることができるという希望の象徴です。
気候変動のほかさまざまな変化を見越した行動を起こし、よりよい未来のために文化を守り続けることが重要なのです。
デジタル国家は、ネットワークへの接続性の改善と電子行政サービスへの投資です。それらによって国民は、島間フェリー切符の購入や、パスポートの更新や結婚証明書の受領を、遠くまで出向くことなくオンラインでできるようになるのです。これはツバルにとどまり続けるための筋書きなのです。離れるための筋書きではありません。
ツバル生まれのヴェヌは、このプロジェクトによって国民がツバルの文化的資産に対してより深い感謝の念を持つようになったと強調している。
To me, the Digital Nation is a new way to fight, adapt and protect our identity and sovereignty. It is about taking control, shaping our future and keeping our roots alive.
As someone who does not want to migrate, the project is a beacon of hope and a way for Tuvaluans to solve the problems they face without relying on others.
私にとってデジタル国家プロジェクトは、アイデンティティーと主権を勝ち取り、現状に合わせながら守っていくための新しい道です。つまり、私たち自身が主導権を持って未来像を描き、ルーツを生きた形で守り続けることなのです。
移住を望まない者としての私には、プロジェクトは希望の光であり、ツバル人が直面する問題を、他者に頼らず自分たちで解決する手段なのです。
このデジタル国家プロジェクトは、ツバルでの埋立やサンゴの再生など、気候変動の過酷な影響へのさまざまな対応策を補完するものだ。
また同時に、ツバルのような小さな島国の消失を食い止めるには、一刻も早く行動を起こさねばならないという大切なメッセージを国際社会に投げかけている。
ツバルなどの小国は、インターネット上のデジタル空間に自らの複製を作らなければならなくなっている。国民国家や国際機関が、化石燃料排出物がもたらす悪影響を削減し食い止めるための対応を遅らせ続け、行動を起こさず、継続的な行動計画を実行してこなかったからだ。
言い換えれば、このデジタル国家プロジェクトはツバルの保全に重点をおいた話のようだが、その国際的な意義もまた強調されるべきだろう。






