GV翻訳のヒント 第1回: まずは記事を良く知ろう

(編集部注: 新しくGVに加わった翻訳者に向けて翻訳のヒントを3回に分けて紹介します)

間違いがなくて「正しい」だけでは不十分、記者のメッセージを伝える「正確」な翻訳を目指そう。
これは私がグローバルボイス (GV) の翻訳を通して学んだ、1番大きな成果です。

GVで翻訳を始めて10週間、私がこの間に学んだヒントやアイデア、そして貴重なレッスンとなった私の失敗談を、これからGVで翻訳を始められる皆さんに紹介します。正しさだけでは足りない、では正確な翻訳がどういうものか考えてみましょう。

スリランカで開催されたGVコロンボサミットにて 写真:ジャー・クラーク

翻訳準備

翻訳を始める前には、まず下調べを行います。デンバー大学の翻訳研究コースを修了して、私は「ログを残す」こと、そして「類似した文書を調べる」ことの重要性を学びました。GVで翻訳を始めてからも、原文にある情報を落ち着いて、注意を払って考えることができるのは、この時の成果です。私を担当しているエディター、ラウラ・ビダルの考えによると、GVの翻訳では通常の翻訳以上のものが求められており、記事が語っている話と文脈、それに記事に登場する人たちのことを考えながら翻訳する必要があります。

私にとっては、翻訳を正確に行うために行うべき最重要事項、それは「ログを残す」ことです。初めて原文を読むときには、思い浮かんだことは何でもスグに書き留めます。記事の印象、理解できないこと、疑問点、難しい単語や句、それに記事の話題に関連した社会、政治、経済情報など、何でもとにかく書き留めます。

そしてこう自問します。

  • 手強わそうな単語、句、熟語、俗語はどれか?
  • 記事に書かれている事は間違いはないか?
  • 想定読者像は?読後の反応も考えよう。
  • 注意して翻訳すべき部分は?

例えば、こちらはニカラグアでの人権侵害の記事です。原文には被害者が連絡を取り易いように、人権保護団体がWhatsAppのホットラインやフェイスブックのページを準備したとの記述がありました。翻訳した記事では、エディターの判断でこの部分を削除しました。これらのソーシャルメディアが、政府の追求から被害者の身元を守る十分な対策をとっているか判断がつかなかったからです。

ポルトガル語チームのファリス・アダムとルイーザ・カスティーリョ。スリランカでのコロンボサミットにて 写真: ジャー・クラーク

「GVの翻訳者には翻訳以上のものが求められる」
私を担当するエディターの考えでは、翻訳とは二つの世界の橋渡しであり、そのために翻訳者は、記事の編集者、検察官、それにアナリストにもなるのです。

ログの次は「類似した文書探し」です。同じ話題について公開済みの文書を探します。まずはGV内で同じような記事がないか調べます。GVのガイドラインに沿った翻訳を行う参考になります。
アルゼンチンでの中絶合法化投票の記事を翻訳した際は、スペイン語の “pro vida(プロライフの)” を英語では “anti-abortion(中絶反対の)” と訳しましたが、この翻訳がGVのガイドラインに即していることを類似の記事で確認できました。
ベネズエラの教育制度が変わる記事では、“patria(母国、故郷)”の訳語として“homeland(母国)” を使うのは記事内容に合っていることも確認できました。
GV内での調査が終わったら、今度は実績のある新聞社や放送局の報道で同じことを調べます。

記事の背景を理解する

類似した文書を読むと、記事の背後にある重要な情報を理解できるので翻訳の大きな手助けになります。
正確に翻訳するためには、コンテキスト、つまり記事に直接書かれていないことも含めて、原文の本当の意味を知らねばなりません。コンテキストとは記事に意味を与える重要な要素であり、これから翻訳する話題を取り囲んでいる世界そのものだからです。多くのGVの翻訳では社会的、経済的、政治的背景に注意を払う必要があります。

2015年にオンラインで開催されたラテンアメリカミニサミットでは、リンガマネージャーのモハマド・エルゴアリーは記事の背景や方向性をつかむためには、ウィキペディアは良い出発点になると語っています。

コンテキストを考えた上で訳語を決めると、単語や句、熟語に重みがでます。コンテキストに敏感になるには、言葉の明示的な意味と、隠れた暗示的な意味の違いに注目しましょう。明示的とは言葉の公式な、ハッキリした定義ですが、暗示的とはその言葉が登場したときに誰もが抱く印象です。言葉の暗示的な意味はその場の力関係、環境、場所によって変わりますが、コンテキストも参考に推測します。

こちらはラウラお勧めの動画。コンテキストを考えながら意味合いをつかむ…って言葉だと難しそうですが、このビデオなら楽しく理解できます。

単語の意味を解明し、適切な訳語を割り当てるのに、翻訳者はまず二カ国語の辞書、つまりWord ReferenceやLingueeで訳語をあたります。(ところでLingueeは例文がたくさんのっているので、どのような時にその単語を使うのかを知るのに有用です) 普通の辞書で足らない時は専門のニカ国語辞典も見てみます。検索するときは単語や句を引用符 (“ “)でくくると訳例がよく見つかります。それでもラチがあかない難問はPro-Z.comTranslatorsCafe.com にポストして尋ねるのもアリです。ラウラのおすすめは両言語について、単独言語の普通の辞書(英英辞典や国語辞典)でも確認する方法です。普通の辞書には、全ての語義がのっているからです。Word ReferenceやLingueeの例文は必ずしも専門の翻訳者が用意したものばかりではないので、私も今は翻訳した後は単独言語の辞書も使って再確認しています。
Google翻訳は翻訳の方向性をつける上では役立つが、翻訳結果自体については必ず再確認してからでないと使えないと言うのが、オンラインサミットでのゴアリーの意見でした。

最後に「正しい翻訳」と「正確な翻訳」の違いは何か、そしてコンテキストつまり文の背景を知ることがなぜGVの翻訳で重要なのか、私の失敗を紹介して終わりとします。
スペイン語の “Calladitos se ven más bonitos (黙ってさえいれば良く見えるし、粗も目立たないのに)” を文面通りに、つまり文法通り正しく英訳すると “They look more beautiful when they remain quiet (彼らは静かにしている時の方がより美しい)”です。私はオンラインの俗語辞典で見つけた “Silence is golden (沈黙は金)”と言う訳語をあてました。この言葉が登場するのはキューバの同性婚合法化への障害と、キューバのLGBTIQコミュニティが直面する差別を解説した記事だったのですが、この言葉がどのような意味合いで使われているかをよく考えていませんでした。
“Silence is golden”から受ける印象は「賢明な態度」ですが、ここで言わんとすること、つまりコンテキストに流れるのは「キューバ人の多くは、ゲイは目立たず静かにしていてほしいと望んでいる」と言う考えだとラウラは説明してくれました。文脈を考慮してラウラは “We tolerate gay people, but we don't want to see them (ゲイの人たちはいて良い。だが声高な自己主張はごめんだ)” と書き換えました。

翻訳: Mitsuo Sugnao, 校正: Keiko Hirasawa