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ワールドカップに行けなかったけどアメリカに勝って喜ぶトリニダード・トバゴのサポーター

カテゴリー: カリブ, トリニダード・トバゴ, スポーツ, 市民メディア
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「2010年ワールドカップの ジャブラニ [2] ボール 写真:タイ・グレイ CC BY-SA 2.0」

この記事は2017年10月12日に掲載されたものである」

2017年10月10日の夜、サッカーファンがちらほらと、ワールドカップ予選トリニダード・トバゴ対アメリカ戦応援のためトリニダードの中心部にあるアト・ボルトン・スタジアムにやってきた。このカリブ海の小国はすでに2018年ワールドカップ・ロシア大会への出場の可能性は消滅していたが、アメリカはまだ可能性を残していた。しかしそれは、トリニダード・トバゴと引き分けたとしたらの話だ。

番狂わせが起こるということから、サッカーが世界中で最も人気のあるスポーツになっている一因である。

たった1つのゴールが状況をガラりと変えてしまうことがよくある。当初、今回の試合の結果は、取るに足らないものと思われていた。試合では何が起こるかわからないが、まさかこんな事が起こるとは! 2-0でトリニダード・トバゴが勝利し、アメリカはロシアへの道 [3]を絶たれた。

アメリカのDFオマー・ゴンザレスの不運なオウンゴールとトリニダード・トバゴのアルビン・ジョーンズの素晴らしいゴール [4]により「ツイン・アイランド共和国」はアメリカが去ることになった予選ラウンドで3ポイントを獲得し、アメリカは予選敗退の憂き目にあった、そしてファンは大きなショックを受けた。

人気のスポーツサイト「Wire868」は次のように [5]報じた。

What came next was a right-footed screamer that arrowed into the far corner. It seemed to belong in an entirely different match and it certainly illuminated a contest that had, up to that point, been low-tempo and scrappy.

Howard’s eyes opened as wide as saucers, the Trinidad and Tobago bench was in uproar and, all over CONCACAF, word of Señor Jones (Alvin Jones) spread like wildfire; the United States were in trouble at 0-2 down.

次に来たのは、右足で蹴られた強いシュート。ファーサイドに向かって矢のごとく放たれた。まったく対照的なチームのようだった。だがあの時点で、確実にテンポが遅くチグハグだった試合に光をともした。

ハワードは目を皿のように開けて呆然とし、トリニダード・トバゴのベンチ入り選手も大騒ぎとなった。そしてセニョール・ジョーンズ(アルヴィン・ジョーンズ)の活躍は、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)中に山火事のようにあっという間に広まった。アメリカが0-2とリードを奪われてしまった。

11月の思い出

アメリカが外れたことでトリニダード・トバゴ [6]サポーターの心は弾んでいた。そして概ね2017年10月10日は永遠に、1989年11月19日 [7]の記憶の上へ焼きつけられるであろう。それはかつて「ストライクチーム(優秀な攻撃部隊)」として愛されたトリニダード・トバゴ代表チームに、初めてワールドカップの可能性が見えた日のことである。アメリカとの最も重要な試合で引き分けたことで、英語を話すカリブ海の国 [8]として初めてワールドカップ予選に参加した国となった。試合は1-0で負け、予選敗退した。面白いことに [9]3万人を超えるサポーターは後日、FIFAフェアプレイ賞 [10]を授与され、ささやかな慰めとなった。残念な結果な上ごった返すような状況にも、真摯に応援する姿が評価された。

9年後、ジャマイカ代表のレゲエボーイズ [11]は英語を話すカリブ海の国として初めてワールドカップ・フランス大会への出場を果たした。トリニダード・トバゴは後の2006年ドイツ大会 [12]に念願の出場を果たすことになったが1989年のアメリカとの予選試合はほろ苦い思い出としていまだに記憶されている。

それらを踏まえたうえで、2017年10月10日の結果はアメリカあるいはトランプ政権にとって当然の報い [13]であるという声があがることも無理のない話である。1989年のトリニダード・トバゴのようにアメリカは引き分けさえすればで予選突破という状況であった。28年後今度は彼らが敗戦の痛みを負うことになった。それは1986年以来のワールドカップ連続出場が止まったしまったのだ。

シャーデンフロイデ [14](他人の不幸を喜ぶ)をもたらす

トリニダード・トバゴのウェブサイトTTWhistleBlower [15]ソカウォリアーズ(トリニダード・トバゴ代表チームの愛称)の予選での迫力に欠ける戦いぶりにもかかわらず、ウェブサイトTTWhistleBlowerは嬉しさを隠しきれない様子を伝えた。

また同代表の勝利を決定づけたゴールを詩的な表現で飾り立てた。

For Trinidad and Tobago, it was a happy ending to an otherwise disappointing tournament where they ended last on the six-team table. The Warriors won just two matches out of 10. […]

It was 2-0 in the 36th minute when Alvin Jones smashed a swerving shot from the right flank past Howard. Alvin’s father Kelvin Jones was a member of the national team which failed to qualify in 1989.

トリニダード・トバゴよ。予選6チーム中最下位という残念な結果だけど、ハッピーエンドだった。我らがウォリアーズは10試合で2勝もしたのだから。[中略]

アルビン・ジョーンズは36分に右サイドから素晴らしく曲がるシュートで2-0とした。アルビンの父親ケルビンは1989年の予選敗退したチームメンバーの一人だった。

不正 [16]により解任された前FIFA副会長のジャック・ワーナー(トリニダード・トバゴでは歓迎された)もまた敗者の傷口に塩をすり込む [17]ようにとても喜んだ。

歓喜に対して批判的なソーシャルメディアのユーザーもいるが、キャロライン・テーラーは人々がトリニダード・トバゴの勝利を喜ぶ理由を解説 [18]してみせた。

[The] argument is that we didn't qualify so what's the big deal. […] Of course that's the larger context, and we're in far worse a state than the US team. I don't think amusement at us eliminating the US (and the reactions to it) and recognising the depressing state of our local football (and much else on the home front) are mutually exclusive. I came home to the news and laughed very, very hard because of the improbability of it, and the strange, unlikely poetic justice of 1989 v 2017. And I have no problem with people finding catharsis in it, however shortlived, and however dreary the rest of the circumstances. ‘Celebration’ mischaracterises it, I think. But there's no need to police other people's feelings, which is what many are going around social media doing, and often with a degree of condescension that actually reveals more about them than those they're trying to deflate.

予選突破できなかったから大したことないというのは尤もである。[中略]もちろん長い間アメリカよりずっと悪い成績だった。アメリカを予選敗退させ、彼らの不幸を喜ぶのは楽しいことではないし、トリニ国内のサッカーが低迷している状況(母国以外の多くの場所で)であるのは認識しているので、不釣り合いな対戦相手である。私は家に帰ってニュースを見て笑い声をあげた、なぜならば有りえないことが起きて、1989年の詩的正義が2017年に完結するという、奇妙でありえないことが起きたからだ。人々にとってはカタルシス効果があったであろうが、それは一時的なことであるし他の状況から見れば悲劇である。誤った賞賛であろうと。しかし他人がどう感じるかはとやかく言う権利はない。ソーシャルメディは多くの情報を広めて、それは大抵、人を傷つけようと必要以上に軽蔑する表現をするからだ。

フェイスブックユーザー、キム・ジョンソンはいまだ自分の考えを隠すことができない。このような考え方 [19]があることを知っても。

How come everybody talking about ‘revenge’ when 28 years ago TT gave away the match? The team stayed down South, and took an hours-long drive to the stadium in a small, hot maxi, stopping to pray and wave at crowds. The US team stayed at the Hilton. Our team arrived exhausted. The yanks didn't beat us, we beat ourselves. The revenge would be against the local people who set us up to lose.

どうしてみんなは、28年前トリニダード・トバゴの敗戦のリベンジ話をしているのか? あのチームは南部のほうに滞在していて1時間も車に揺られ、途中お祈りのために停車し、群衆の声援に応え、ちっぽけで暑いスタジアムへ向かった。アメリカチームは贅沢なヒルトンホテルに泊まっていたというのに。我がチームはスタジアムへ着いた時には疲れ切っていた。代表チームはアメリカに負けたのではなく自分自身に負けた。リベンジはあの時のチームを敗戦へと導いた地元の人々にたいして行われるべきであろう。

殺到する批判

試合会場であるスタジアムの不十分な整備状態もさらに事態を複雑にしていた。試合の前日練習に現れたアメリカチームは水びたしの [20]フィールドを目の当たりにした。

トリニダード・トバゴは水に覆われたスタジアムでアメリカチームを歓迎し、そして彼らをワールドカップの沼へ引きずりこんだように見えた。 Newsday_TT [21]

アーサー・ダッシュ 2017年10月10日 [22]

スタジアムの状態はW杯予選を行うのに十分な状態であると我々が保証した [20]にもかかわらず、偏った形で報道された’とトリニダード・トバゴサッカー協会は 主張した。

Wired868が再び話題に加わった [5]

Although the contest meant everything to the visitors, it had been a low-key affair for local football fans. Or at least it was—until the United States Soccer Federation (USSF) and American journalists posted images of the waterlogged Ato Boldon Stadium surface [23] on Monday morning.

It was a light-hearted ribbing really but it touched a raw nerves with the Trinidad and Tobago Football Association (TTFA) and Sport Company of Trinidad and Tobago (SPORTT)—both already repeatedly criticised for incompetent management—as well as with some supporters who were taken aback at the supposed impudence of their guests.

Suddenly, a football match that was little more than a chore and barely advertised locally had taken on increased significance.

‘If you want to see what is really embarrassing,’ one commenter remarked, ‘why not look at your own president!’

試合はビジターのアメリカにとっては重要なものであったが、自国のサッカーファンにとってはそれほどでもなかった。月曜の朝アメリカサッカー協会とアメリカのメディアが水浸しのアトボルドンスタジアムのフィールドの写真 [23]を報道するまでは少なくともそうだった。

軽い悪ふざけのつもりだったが、トリニダード・トバゴのサッカー協会と同国のスポーツカンパニー(スポーツ省下部組織)を怒らせる形となった。両組織は、すでに何度もアメリカの管理能力のなさを非難した。同様にアメリカ人サポーターの厚かましい態度に、驚きを隠せない自国のファンも抗議した。

フットボールの試合は少しだけ面倒なことが起きて、それがローカルニュースとして報道された後、あっという間に重大な事件に発展してしまうことがままある。

「もし本当の厄介なことを知りたければ、あなたの国の大統領を見てみたらどうかね」とあるコメンテーターが言った。

事実かなりのソーシャルメディアが、ドナルド・トランプ大統領を引き合いに出し最終結果についてコメントしている。それはトリニダード・トバゴ市民へのビザを拒否することで報復すべきというツイートも含む。

アメリカがワールドカップに行けなかったの大変残念だけど、みんなは仕方ないと思っている。
でもトランプはだめだ、みんなに迷惑をかける。

ロナルド・ジョン2017年10月11日 [24]

プレイの要約

Apart from its outstanding play by play, the Wired post neatly summed up [5] the tone of the event:

素晴らしいプレイの数々とは別に、情報誌ワイアードがある出来事の様子を丁寧にまとめて掲載している

The Soca Warriors’ own chance of advancing ended a month ago but the loud cheers and dancing in the stands suggested that the home crowd enthusiastically embraced what the Germans refer to as ‘schadenfraude’—or what Trinis might call ‘bad mind.’

‘America, we know we not going to Russia,’ a nuts vendor shouted to nobody in particular, during the first half, ‘but allyuh not going neither!’

The score was goalless at the time but how prophetic his words turned out to be. A combination of results were necessary to eliminate coach Bruce Arena’s outfit: not only did Warriors coach have to break a nine-match winless streak but Panama needed to defeat Costa Rica and Honduras needed a win against the group leaders, Mexico.

And on a remarkable night of CONCACAF [25]football, all three happened.

ひと月前、ソカウォリアーズは、彼らが一歩前進するチャンスを手に入れる結果となった。

しかしスタンドで踊るうるさいチアガールは、観戦客が本気である強い念を持ってるように思わせた。それはドイツ人がかつて「シャーデンフロイデ」(他人の不幸を喜ぶ)またはトリニの人々なら「悪意」と言った表現かもしれないが。

「アメリカ諸君よ。俺たちはロシアには行けない。だけどお前たちも無理だ!」と試合の前半に一人の風変わりな売り子が、誰に向けてでもなく叫んだ。

その時スコアは0-0だったが なんと彼の発言が予言してたかのように的中してしまった。

各試合結果の組み合わせによっては、コーチであるブルース・アレーナのチームを倒す必要があった。さらに~ウォリアーズのコーチが9試合全敗を止めるだけでなくパナマがコスタリカを倒しホンジュラスがグループ首位のメキシコに勝たなければならなかった。

そしてCONCSCAF [25]予選という注目すべき夜に、その3つ全ての偶然が重なることとなった。

校正:Etsumi Itai [26]