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ジョージア:あるドラァグ・アーティストのストーリー 敵意、受容、そして愛

カテゴリー: 中央アジア・コーカサス, グルジア, 人権, 同性愛者の権利 (LGBT), 市民メディア, 若者

「ここまで自分らしさを曲げずに貫き通して来られたことを誇りに思う」とドラゴは話す。(タムーナ・チカレウリ/OC Media)

この記事は、OC Media [1]のウェブサイトに掲載された、パートナーであるタムーナ・チカレウリ [2]による記事 [3] の別版である [4]

ドラゴ(芸名)はジョージア、ルスタヴィ出身の17歳の男の子だ。 彼はメイクアップアーティストであり、ファッションモデルであり、ドラァグ・パフォーマーでもある。彼はどこへ行っても露骨な視線を浴びる。髪を染めてメイクをし、堂々と女性ものの服を着ること。彼が求めているのはそれだけだ。自分らしくいる勇気を持てるのは、これまでずっと側で支えてくれた母のおかげだと言う。

「小さい頃から、他の人とは違うことに色々と興味があったんだ。髪はいつも伸ばしていたし、友達は女の子だったし、男の子っぽい遊びに参加したいと思ったことは一度もなかった。僕を変えようとした人はいたよ。大体父だけどね。だけどいつも反抗した。」

「僕は反骨精神と共に育ったようなものだよ。いつだったか僕が寝ている隙に父が髪を切ろうとしたことがあった。でも僕が起きたから何もできなかったんだ。ボクシングのグローブを買い与えてボクシング教室にも連れて行ったけど、それも効果がなかった。」

「父はときどき外で僕を待ち伏せしては、少なくとも『普通』の格好をするように言ったよ。だけど僕は本当の自分を隠したくない。父だけでなくほかの男の親戚も同じような感じだった。自分の身を守るために、叔父や祖父とは縁を切った。」

ルスタヴィの街を移動するのに、ドラゴはよくミニバスを利用する。2週間前、男がバスの外からドラゴを殴って逃げようとした。(タムーナ・チカレウリ/OC Media)

「母さんだけが僕の人生の光だった。母さんはずっと僕のそばにいて、今日まで何があっても味方でいてくれている。子どもの頃も、母さんは父に立ち向かって僕を守ってくれた。時が経った今では、立場は逆になった。これはよくあることなんだけど、母さんが人から嫌味を言われたときは僕が母さんを守る。ほとんどの場合、そんなことを言うのは父なんだけどね。でも幸運なことに、ここ4年間父とは別々に暮らしていて、自由になった気分だよ。」

「僕のアイデンティティのせいで、父は僕と母さんからルスタヴィのアパートを奪って追い出そうとしたけれど、イクオリティ・ムーブメント(クィアの人権団体)のおかげで、裁判に勝ったんだ。」

「今は前よりずっと幸せだよ。僕はハッピーだし、母さんのおかげで何一つ不自由してないしね。いつか海外にいってプロのメークアップアーティストになりたいんだけど、その夢も応援してくれている。もちろん、最初から僕のやることを認めてくれていたわけではない。だけど今はそれなりに収入も得ているし、僕が自立していることを喜んでくれている。」

13歳のとき、初めて警察を呼んだ

「学校では、びっくりするくらい僕のことを皆がよく受け入れてくれた。みんな僕のことをよく知っていたし、誰も僕を攻撃するようなことはなかった。みんなと違う格好をして学校に行ったのは僕が初めてで、いじめられたけど、暴力はなかった。僕が自分の権利についてよくわかっていて、必ずそれを守ろうとすることを知っていたんじゃないかな。」

「初めて警察を呼んだのは13歳のときだった。僕の私物はいわゆる普通の見た目じゃなかったから、いじめっ子たちが取り上げようとしたんだ。それ以来、ほぼ毎年警察を呼ぶ羽目になったよ。」

「母さんは一番大切なことを教えてくれた。一人で生き残っていかなければならないこと。自分以外に誰も助けてくれない状況になることがあるということ。」

「一番最近被害にあったのは2週間程前かな。ミニバスに座ってたら、男が外から僕を殴って逃げようとしたんだ。僕は目撃者の連絡先を控えて、外にでて車のナンバープレートの写真を撮って、僕を殴ったやつの顔を覚えた。後で犯人を特定することができて、彼は今裁きを受けるところだ。」

本当の親ならば、たとえどんな子どもでも愛する

「僕は将来家族を持ちたい。そして何があっても子どものことを受け入れて育てていきたい。本当の親ってものは、どんな子どもでも愛情を注ぐものだと思う。僕にとって父は本当の親じゃないし、そんな風に言うことを恥ずかしいとは思わない。」

「クラスメイトや友達、それから近所の人も僕のことを知っていて助けてくれる。彼らは父よりよっぽど僕のことを分かっているよ。ここまで自分を曲げずに自分らしく生きてきたことを誇りに思っているよ。親戚にもこの気持ちを分かってくれる人が何人かいて、母さんの親戚の旦那さんなんか、僕の安全を本当に心配してくれている。」

「5月17日(国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日 [5])には、僕の身の安全のために一緒にピクニックに行こうと誘ってくれたんだ。母さんは全く心配してなかったけど。社会が良い方向に変わっていることもたくさんあって、それに希望を持っているよ。」

弁護士との打合せに行く途中で、ドラゴは法律は彼の味方だと確信していると語った。(タムーナ・チカレウリ/OC Media)

クィアにとって一番大切な日

「5月17日は僕にとってヘイトと戦う日なんだ。みんなが一つになって立ち上がる日で、クィアにとって最も大切な日だと感じている。残念なことに、この美しい日をジョージア正教会が勝手に『家族の純潔の日』にしてしまった。僕の家族だって純潔だと言ってやりたいね。僕たちだってそのお祝いに参加できるって。」

「怖くてまだ家族に話せていない人たちには、最初の一歩を踏み出す勇気を持とうと伝えたい。慎重にやれば、家族も受け入れてくれるチャンスは結構あるんじゃないかな。だけど確かに親によるところもある。だけど必ずしも親が『イマドキな考え方』を持っている必要はないと思う。親ならば子どもを愛さなくてはいけないという考えに、イマドキも何もないからね。」

校正:Moegi Tanaka [6]