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ネパールの低木が日本紙幣に

カテゴリー: 南アジア, ネパール, 労働, 国際関係, 市民メディア, 環境, 経済・ビジネス
Manual labours process Himalayan bush Argeli (Edgeworthia gardneri). Photo by Lakpa Sherpa Via Nepali Times. Used with permission. [1]

手作業で加工されるヒマラヤの低木アルゲリ(エッジウォーティア・ガルドネリ、別名ネパールペーパーブッシュ) 写真提供:ラクパ・シェルパ(ネパール・タイムズ [1]) 許可を得て掲載

マヘシュワル・アチャリヤによるこの記事は当初ネパールでHimalkhabar [2]に発表されたもので、アリア・プラサイが英訳しネパール・タイムズ [1]に掲載された。以下はグローバル・ボイスとの共有合意のもと編集され再掲載するものである。

ネパールのユニークな生態系の多様性と地形は、この国に多くの換金作物をもたらすが、文字通り「お金」になる作物はひとつだけだ。近年ヒマラヤの低木エッジウォーティア・ガルドネリ [3]の輸出は大きな伸びを見せている。日本では紙幣、パスポート、封筒、切手、そのほか文具を作る原材料として重宝されている。

ヒマラヤ [4]の標高1500-3000メートルでよく見られるこの植物は通常「アルゲリ」として知られている。その需要の高まりを受け、シンドゥ・パルチョーク郡、ドラカ郡、タプレジュン郡、イラム郡、バグルン郡、ミャグディ郡などにある農家が商業的な栽培を始めている。

ドラカ郡で紙をつくる低木アルゲリを育てる農家のラクパ・シェルパ氏は次のように語る。「アルゲリはこの地域の唯一の輸出品で、200万ネパール・ルピー(約204万円)を超える収入をもたらしています」

ナラヤン・マナンダールの著作「Plants and People of Nepal(ネパールの植物と人々) [5]」によると、手漉きの製紙技術は14世紀に中国からネパールに伝えられたとされている。ラスワ郡やドラカ郡のタマン族 [6]の人々は、ネパール固有の手漉き紙の元としてより知られたロクタの樹皮を、少なくとも700年間使ってきた。

ネパールはこの紙になる低木のアルゲリを10年以上前から日本に輸出 [7]し始め、すでに伝統的に和紙に使われてきたミツマタ [8]に代わるものとなっている。ネパール手漉き紙協会のキラン・クマール・ダンゴル氏は次のように言う。

While Japanese paper is considered the best in the world, Nepali paper is seen as stronger and better quality than most paper abroad, which has led to its high demand.

「日本の紙は世界一と評されていますが、ネパールの紙もたいていの世界中の紙に負けないくらい丈夫で優れた品質を持ち、そのため高い需要を生み出しています」

現在アルゲリはネパールの55地域で栽培されている。小ぶりな常緑の低木で、乾燥した日陰に育つ。茶褐色の軸に長い茎を持ち、黄色の花を咲かせ、自家受粉が可能だ。様々な呼び名があり、アリリ、アルカレ、ティンハーンジ・ロクタ、グルン語ではパチャール、タマン語でワルパディ、シェルパの言葉でディヤパティなどと呼ばれている。土壌の状態次第で、すぐに3メートルまで成長する。干ばつや土地の侵食を防ぎ、荒涼としたヒマラヤの山岳地方に草木を増やす重要な役割を担う。

A 1000 Japanese yen (US$ 7.74) note. Photo by Nepali Times. Used with permission. [1]

日本の千円札 写真提供:ネパール・タイムズ 許可を得て掲載

「他の多くの植物と異なり、病気にならず昆虫や家畜も寄り付きません」とシェルパ氏は言う。しかし栽培には細心の注意が必要だ。寒冷期に適切に乾燥させないとだめになってしまう。

この低木は植えて5年後のだいたい10月から2月にかけて収穫され、この時にはくっきりとした白色をしている。水分を多く含むアルゲリは緑色になっており、製紙には適さず品質が良くないとされる。

茎の内側の繊維質の包みのところから紙をつくり、外樹皮からはロープを作る。地域によってはその根を疥癬(かいせん)の治療に使うところもある。A、B、Cと3等級あり、値段は1kg当たり100ネパール・ルピー(約102円)から575ネパール・ルピー(約587円)となっている。

「アルゲリは険しいヒマラヤ一帯の地域に収入をもたらす優れた資源です」とシンドゥ・パルチョーク郡にあるジュガール・ネパール製紙工場のベヌー・ダス・シュレスタ氏は語り、こう続けた。「この植物は灌漑の必要がないため栽培しやすいのです」

40人を雇い栽培を行っているドラカ郡のチェット・バハードゥル・シェルパ氏によると、農民は1,000ネパール・ルピー(約1020円)の日当で2か月間働く。一方植物を加工するのは主に女性で1kg当たり20ネパール・ルピー(約20.4円)が支払われる。

森林研究訓練センター [9]の概算によると、ネパール国内209万1000ヘクタールで、年間10万481トン以上のネパール産の低木アルゲリが栽培されている。伐採直後の成熟した樹皮1kgでネパール産の紙400gが作られる。2015-16会計年度は、およそ3600万ネパール・ルピー(約3672万円)の価値のあるアルゲリの樹皮60,000kgが日本に輸出された。昨年(2022年)は輸出が95,000kgに伸び年間の利益は1億1000万ネパール・ルピー(約1億1223万円)を超えた。

トリブバン大学の応用科学・技術研究センターの生物工学者ヴィジャイ・スヴェディ氏は、アルゲリの栽培は特に東部ネパールにおいて持続的な利益をもたらす大きな可能性があると力説している。

Photo by Lhakpa Sherpa Via Nepali Times. Used with permission. [1]

写真提供:ラクパ・シェルパ(ネパール・タイムズ [1]) 許可を得て掲載

「現在、すべての工程は手作業のため大変な労力がかかります。植え付けや収穫を機械化し、体系的で経済的な作業にする必要があります」とスヴェディ氏は語る。

ネパールの低木アルゲリは、パシュミナ [10]、じゅうたん、衣類と並ぶネパールの最も有名な輸出品の一つになるかもしれない。製紙以外にもその植物の葉や茎や根は農家が商業的に販売することができる。ネパール手漉き紙協会は、現在地元スポンサーやデザイナーと共にトレーニングとワークショップを行い、アルゲリ樹皮や手漉き紙の需要増大を目指している。キラン・ダンゴル氏は次のように語る。

We have the next generation of designers who are really good. By tapping into local employment, we can increase the demand for Nepali paper locally and globally.

「とても優れた次の世代のデザイナーが育っています。地元の雇用を活用することで、ネパールの紙の需要を国内外で高めることができるでしょう」

校正:Yasuhisa Miyata [11]