ワールドカップだけではなかった2014年のブラジル

The Cantareira System, which supplies 7 million people with water, has reached record lows yesterday with 4,1% of its total capacity. Image by Flickr user Fernando Stankuns.

2014年10月、サンパウロで700万人に水を供給するカンタレイラ・システムが、総貯水容量の4.1%という記録的な低水位に陥った。写真提供: FlickrユーザーFernando Stankuns氏。CC BY-NC-SA 2.0

「ブラジルは素人向けではない」―ブラジルのソーシャル・メディア上でよく言われることである。これは専門家ですら説明の難しいこの国の政治的・イデオロギー的混乱を表しており、筆者もこれに同意する。

2014年、ワールドカップによって世界中の注目がラテンアメリカ最大の国に集まったが、これは波乱に満ちた一年のほんの一面にすぎない。2014年はブラジルにとって、選挙と抗議運動と「textões de Facebook」の年だった。「textões de Facebook」とは、「Facebookでの大実験」を意味し、ソーシャル・メディア戦争に疲れ、幸せそうな写真と猫動画が終わった後の日々を待ち焦がれている人々が使う新語である。

サッカー決勝戦のようだったゲイのキスシーンテレビ放送

メロドラマ「Amor à Vida (愛の生活)」最終回、フェリックスとニコのキスシーン

2月、数百万人がお茶の間で、ブラジルのメロドラマ史上 初めて全国放送されるゲイのキスシーン のてん末を見守った。このキスは、ソーシャル・ネットワーク上で脚本家に対して「Amor à Vida」最終回でゲイカップルのフェリックスとニコが唇を合わせるのを見せてほしいという 一大キャンペーン が展開された結果であった。

ブラジルのメロドラマの力は大きいが、ふつうステレオタイプやタブーに抵抗する手段としてはみなされないため、たかがキス一つが大問題に発展した。ブラジルは世界最大のゲイ・パレード開催国であると同時に、LGBT殺害件数においても世界一であり、LGBTの権利問題はこの国が抱える矛盾の中でも最大のものである。

人種差別と暴行を加える大衆

新聞紙で局部を覆っただけで電灯に繋がれた少年

続いて、リオデジャネイロの裕福なエリアで15歳の黒人少年が暴行を受け、電灯に裸で繋がれたところを発見されるという事件において世論は紛糾した。少年は30人ほどのグループによって暴行を受けたと証言しており、これは明らかに現場周辺の「自警団」―彼らいわく盗難防止を目的としている―の仕業である。社会において暴行を非難する機運が高まる一方で、この若者が盗みを働いたかどうかは脇に置いて、全国放送である強い影響力を持つ保守派のニュース司会者が暴行者達を擁護した

翌週に同様の事件が発生した際、主だったメディアは速やかにこれを取り上げ、私的制裁を加えることにどんなメリットがあるかについて、火花が散るような意見が交わされた。しかし海辺の町グアルジャ近郊の貧しいエリアで、女性が大衆からの暴行によって殺害された事件に至っては、国中が恐怖状態に陥った。この襲撃事件は、女性が魔術の儀式のために子どもをさらっていたというFacebook上の噂によって引き起こされたが、後にそのような事実はなかったと判明した。

スペインの新聞エル・パイスは、ブラジルにこんな質問を投げかけた。「もしも彼女が有罪だったならどうするか?」―彼女を死に至らしめた残虐な方法は、彼女がどんな弁解もできない状況にあってさえも、まだ我々を驚かすものだろうか?

#ThereWillNotBeAWorldCup vs. #YesThereWillBeACup

5月、抗議運動で「ワールド杯開催反対」のプラカードを掲げたデモ参加者。写真提供:FlickrユーザーのNinja Mídia。CC BY-2.0

ブラジルの通りでは、ワールドカップ反対のデモが年間を通じて頻繁に開催された。ワールドカップの開催は国費に過剰な負担を強いるものであること―そしてチケットがブラジルの最低賃金よりも高いということ―に対し、「FIFAゴーホーム」(かつての「ヤンキーゴーホーム」をもじったもの)というシュプレヒコールとともに、国民の大半が直面する不平等と基本的権利の欠如を訴えた社会運動が展開された。

カメラマンのサンティアゴ・イディリオ・アンドラーデがデモを撮影していた際、リオで活動家の放ったロケットに当たって死亡するという事件は、抗議活動への規制強化につながる「テロリズム法」へと立法者を動かした。この法案は、社会運動による強い批判を受けた。

ワールドカップの数週間前、ソーシャル・メディア上に新たなハッシュタグが登場した。「#VaiTerCopaSim」つまり「#YesThereWillBeACup(ワールド杯は開催される)」であり、明らかにFacebook起源である。このハッシュタグは、主として反対派の消極性を皮肉り、ブラジルの諸問題はこの国固有の特徴として受け入れようというものだ。中には、これは国民の精神を高揚させ、抗議運動について無関心にしようとする政治的運動だと指摘するものもあった。

ブラジルは準々決勝戦にてドイツに忘れ難い7対1のスコアで惨敗し、各紙一面を暗たんたるニュースで飾ったのはもちろん、インターネット上でこの先10世代は受け継がれるであろう豊富な話題を提供した。そうこうするうちに決勝戦前日、抗議活動はしていないものの計画はしていたらしいという理由においてリオで28人が逮捕された

忘れ得ぬドイツ戦7対1の屈辱―今後10世代は受け継がれるだろうインターネットミーム。写真提供:作者不詳

国政選挙

ワールドカップに続いて、ブラジルはまたもやソーシャル・メディア戦争の新たな局面に見舞われた。10月6日、国政選挙である。8月に飛行機の墜落事故で予期せぬ死を遂げたブラジル社会党代表エデュアルド・カンポス氏に代わり、マリーナ・シルヴァ氏が台頭したことにより、トップ争いに思わぬ番狂わせが生じたのだ。

ブラジル二大政党の長きにわたる拮抗は(やや左寄りの労働者党が2002年より政権を取っており、やや右寄りのブラジル社会民主党がこれに対抗する)シルヴァ氏によって突如乱され、9月中旬には彼女がトップ争いを率いていた。

かたやコミュニズムの脅威、かたやファシズムの脅威。二党が融和する日は来るのか?写真提供:Ninja MídiaとAécio Neves氏のFlickrより。CC BY 2.0

福音派のキリスト教徒であり熱心な環境保護論者であるシルヴァ氏は、自身を保守派と革新派を結ぶ「架け橋」であると打ち出した。しかし彼女の対話の試みは、一連のキャンペーン方針の失策によって頓挫した。最も重大なミスは、宗教的指導者たちからの圧力に同調し、同姓婚支持の方針を転換したことである。

最終的に彼女は1980年代の民主主義移行期以来もっと議論が過熱した首位争いから脱落し、現職のジルマ・ルセフ氏が投票率51%で辛くも再選を果たした。

この労働者党の代表者の弱体化は、国民の大半に変化を受け入れる用意があることを示すものだという意見もある。また、大半は反政府的である主流メディアの役割がこの結果をもたらしたと指摘するものもいる。一方で左派に属する人々は、両党にも対抗する保守派にも代弁者がいないのを感じながら、「真の左翼候補」が(望み薄ながらも)中心的位置を占める日を待っている。

水問題

選挙問題が一段落した頃、ラテンアメリカ最大の都市が水不足に陥った。専門家はほぼ一年を通じて問題を軽んじ、危機はブラジル南東部における単なる一時的な雨不足が原因であるとした。年が変わる頃には、サンパウロ850万の住民に対し100日分に満たない水しか確保できない可能性もある。

校正:Maki Kitazawa
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