環境保護と観光は両立できるのか?

Puerto Villamil, Isla Isabela (Albemarle), the Galápagos Islands, Ecuador

エクアドルガラパゴス諸島 イサベラ(アルベマール)島 プエルト・ビジャミル – 写真提供 Flickrユーザー Elias Rovielo (CC BY-NC-SA 2.0)

(この記事の原文は2022年9月20日に掲載された)

アマゾンやアラスカ、西オーストラリアのキンバリー地方など、自然環境に配慮した旅に出かけませんか?
ナショナルジオグラフィックやWWF(世界自然保護基金)など有名な自然保護団体は、南極大陸ツアーなど魅力的な旅行先を数多く紹介している。

ナショナルジオグラフィックはウェブサイトなど広告宣伝の中で、持続可能な旅行先の多さを売りにしていて、その人気は加熱している。

…wildlife encounters and hands-on conservation experiences will provide information and inspiration for travelers to continue protecting the world and its creatures long after returning home.

野生動物との思いがけない遭遇や旅先での保護活動の体験を通じて、旅行が終わってからも、あなたが世界中の環境と生き物を保護し続けるための情報と、肌で感じるステキな体験を提供します。

エコツーリズムに関して、環境保護や絶滅の危機に瀕した野生動物の保護など、ポジティブなイメージを持っている人が多いのではないだろうか。エコツーリズムというと、手つかずのビーチで日光浴、サンゴ礁でシュノーケリング、人里離れた原生林や山でのトレッキング、地元の文化に親しむなど誰もが羨むイメージであふれている。

この言葉の意味を定義する試みはこれまでにも数多く行われてきた。
例えばオーストラリアでは、クイーンズランド州の国立公園や森林の番人とも言える同州の環境科学省が詳しい説明をしている。

Ecotourism encompasses nature-based activities that increase visitor appreciation and understanding of natural and cultural values. They are experiences that are managed to ensure they are ecologically, economically and socially sustainable, contributing to the wellbeing and conservation of the natural areas and local communities where they operate.

エコツーリズムとは、自然や文化的価値への認識と理解を深める屋外での自然をベースとした活動を指します。その体験、活動のどれもが環境保全、経済、社会的に行き詰まらないことを確認しながら実施されており、地元の自然を守るとともに健全な地域社会の維持にも貢献します。

同様にウィキペディアにはこう記載されている。

Ecotourism is a form of tourism involving responsible travel (using sustainable transport) to natural areas, conserving the environment, and improving the well-being of the local people.

Responsible ecotourism programs include those that minimize the negative aspects of conventional tourism on the environment and enhance the cultural integrity of local people.

エコツーリズムとは、持続可能な交通手段を使用して自然豊かな地域に旅行し、環境を保全し、現地の人々の幸福度を向上させるという責任に応えようとする観光のあり方の一つの形態である。
責任あるエコツーリズムとは、従来の観光が環境に与えるマイナス面を最小限に抑え、現地の人々の文化的統合性を高めるものである。

エコツーリズムは少人数で高価な旅行をすることが多く、宿泊先や食事も高品質なものになっているのが現状である。世界中の遠隔地を訪れることは多くの人のやりたい事リストの上位に挙げられている。

自然環境を考慮した持続可能な旅行と言うと、とても良いもののように聞こえる。
人が守るべきと思うのは、値打ちがあると感じた物だ。特にお金が絡むとそうなる。
PRB(人口統計局)はウェブサイト上で次のように主張する。

At its best, eco-tourism is responsible travel to natural areas that safeguards the integrity of the ecosystem and produces economic benefits for local communities that can encourage conservation. At the nexus of population and the environment, eco-tourism is a creative way of marrying the goals of ecological conservation and economic development.

エコツーリズムとは、それがうまく機能する場合は自然を相手にした責任ある旅行である。
生態系の健全性を保護し、地域社会に経済的な利益をもたらし、その結果生態系保全を促すことができる。現地住民と環境のつながりであるエコツーリズムは、生態系保全と経済発展の両立を目指す建設的な方法である。

しかしこのような旅行には、公害などの環境破壊、飛行機・クルーズ船などの利用による大量の二酸化炭素排出、地域社会への社会的・文化的混乱などの恐れやマイナス面があることも少なくない。

エコツーリズムの試みが行われている地域を紹介する。

ガラパゴス諸島

The Discovering Galapagos(ガラパゴス発見)プロジェクトはガラパゴス諸島に関して子供達が学校でガラパゴス諸島について学ぶための教材を作っていて、観光の影響を検証している。

Some of the good parts are that the tourists bring money to the Islands and are a source of income for many Galapagueños. However, there are also bad parts. As more tourists visit the Islands, they will need more places to stay meaning that big hotels could be constructed that possibly endanger nearby wildlife.

良い点としては観光客が島でお金を使ってくれること、そしてそのお金が多くの島の住人の収入になる。しかし悪い点もある。
より多くの観光客がガラパゴス諸島を訪れるようになり 島嶼部では滞在場所増加による大型ホテル建設が予測され、近隣の野生動物が危険にさらされる可能性が出てきたのである。

ガラパゴス諸島における観光の「Rethink and reset」(再考とリセット)。
観光開発の持続可能性に関する関係者の見解がこのほど「Annals of Tourism Research Empirical Insights」(観光研究年報 実証的洞察)に掲載された。気になる問題点をいくつも提起している。

A key finding of the study is that stakeholders share the view that unrestricted tourism growth is counterproductive because of both social and environmental impacts. Addressing the effects of overtourism in the Galapagos, as in other tropical islands, may involve degrowth strategies or a transition to slow tourism that provides a mechanism to increase the revenue and employment benefits from tourism, but decrease the per-capita impact on island resources.

For a tourist destination to succeed with sustainable tourism, social and ecological concerns must be considered; if tourism is thought to be a catalyst of sustainable development, then, quality-of-life and individual well-being of local residents must be addressed, even as conservation priorities are considered.

本研究の重要な結論は、関係者誰もが無制限の観光成長は社会的・環境的影響の両方から逆効果であるとの見解を持っていることである。
他の熱帯の島々と同様にガラパゴスにおけるオーバーツーリズムの影響に対処するには、脱成長戦略や、観光による収入と雇用の利益を増加させ、島の環境に与える観光客一人当たりの負担を軽減する仕組みを提供するスローツーリズムへの移行が必要かもしれない。

観光地が持続可能な観光を成功させるためには、社会的・生態的な問題を考慮しなければならない。もし観光を持続可能な開発のきっかけにしたいのなら、自然保護をを論じると同時に、地域住民の生活の質と幸福に配慮することも忘れてはならない。

マチュピチュ

ペルーのインカ帝国の遺跡マチュピチュは毎年多くの人々を魅了している。多くの人が伝説のインカ道を辿って、遺跡に到着する。
世界で発生している問題に関心を抱いている活動家や旅行者のための旅行や社会貢献に関するコンテンツを提供するオンラインコミュニティ「カタリスト」は、2022年5月に警告を発した。

The lack of infrastructure supporting these numbers leads to an even higher impact. There is only one bathroom at the entrance and human waste is a huge problem. The closest village, Aguas Calientes, has resorted to pumping human waste into the Urubamba River. Increases in garbage, especially plastic water bottles, on the Inca Trail also contributes to uncontrolled waste.

The term ecotourism is now over used. It has been stretched from its original purpose to encompass any nature-related travel and to many is synonymous with sustainable.

この多い観光客を受け入れる公共施設が不十分なことがさらに大きな問題に繋がっている。
トイレは入り口に1つしかなく、し尿は大きな問題になっている。
最も近いアグアス・カリエンテスの村では、し尿の処理ができずに困った末、汲み上げてウルバンバ川へ流すという手段を取っている。
またインカ道でのゴミ、特にペットボトルの増加も処理しきれないゴミの増加を助長している。

「エコツーリズム」という言葉は今や使い古されたものとなっている。本来の目的から拡大解釈されて自然に関連するあらゆる旅行を指すようになり、多くの人にとって「持続可能」と同義語になっている。

キリマンジャロ山

世界遺産に登録されているタンザニアのキリマンジャロ山のオーバーツーリズムも批判を浴びている。

Tanzania’s government sparked uproar in recent years after announcing plans for a cable-car system on the southern side of Kilimanjaro, to boost tourist numbers and provide access to those unable to climb it. Expedition groups, porters who help climbers and climate experts said the project would endanger the mountain’s delicate ecosystem and hurt the local economy.

タンザニア政府が数年前に公表したケーブルカー敷設計画はひと騒動となった。
観光客を増やし、登山ができない人にもアクセスできるようにするためにキリマンジャロの南斜面にケーブルカーを導入することを発表したのだ。
観光登山家を引率・サポートする地元ツアー会社のメンバー、気候の専門家は、このプロジェクトは山の繊細な生態系を危険にさらし、地元経済に打撃を与えるだろうと批判した。

長所と短所

エコツーリズムや持続可能な旅行のプラス面を提唱するサイトは、ネット上に数多く存在する。「ミニマリスト的アウトドアの提案」を掲げる「ソフトバックトラベル」は、以下のような利点があると考えている。

  • 自然地域の環境保護に基づく持続可能な農村・山林などの開発
  • 雇用の創出
  • 絶滅の危機に瀕している動物や気候変動に関する教育・啓蒙活動
  • 現地住民の生活の質の向上
  • 異文化への理解、配慮

環境認証

グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会 (GSTC)は、エコツーリズムの指針を設けて、環境の保全にも役立つようにするガイダンスを提供する組織の一つである。
彼らは「持続可能な観光のための国際基準を開発し、真っ当で持続可能な観光ビジネスであるかを検証できる手法を作り出し、一方でグリーンウォッシングとして知られる環境配慮を装った虚偽の活動広告や企業と戦う」ことを目的としている。その活動についてはこちらのビデオで紹介している。

しかしエコツーリズムを否定する論者も多く、エコツーリズムは自己矛盾しているという。
建築家でありエンジニアでもあるスミス・モルダックは 国際建築雑誌の「アーキテクチュラルレビュー」で次のように論じている。

Ecotourism is an oxymoron [seemingly self-contradictory]. Trying to fix environmental degradation with tourism is like trying to fix a black eye with a right hook. It’s a total farce, but also a helpful case study. Ecotourism is an illustration of the wider phenomenon facing climate action: the interests of economic development are all too often diametrically opposed to the interests of environmentalism.

「エコツーリズム」の実態は矛盾している。観光で環境劣化を解決しようとするのは青あざを右フックで治そうとするようなもの。完全な茶番だが、見ておいて損はないだろう。
気候変動行動に対抗してアチコチで姿を見せる有象無象。エコツーリズムもその一つにすぎない。経済発展により獲得しようとする利益と、環境保護が目指すところはほとんどの場合正反対なのだ。

校正:Mitsuo Sugano

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