81歳のツイート:子供のころ空襲があった

まっちゃこさんと両親と弟。1939年頃、神戸市東灘区にて。許可を得て使用。

まっちゃこと両親と弟。1939年頃、神戸市にて。許可を得て使用。

現在は武力放棄をうたう憲法をもち、70年の間戦争していない日本だが、平和主義政策の土台には先の戦争への苦い反省がある。第二次世界大戦に日本は積極的に関与し、中国から東南アジアに侵攻の手を広げ、米英連合軍と戦った。開戦時、アジアの小国が世界に挑むことを、当時の日本人は熱狂的に支持し、和平を探る声は圧殺された。反戦論を唱える者は治安維持法により逮捕・拷問を受け、「非国民」と排斥された。天皇のために死ぬことが至高のこととされ、敗戦色が濃くなっても、「一億玉砕(国民全滅を美化した表現)」のスローガンのもと破滅に突き進んだ。やがて主要な都市が空襲を受けて焼け野原になり、広島・長崎に原爆が落とされるに至り、1945年8月15日、ラジオ放送にて昭和天皇が国民に終戦を伝えた

人々は政府やメディアに踊らされるまま戦争を賛美していたことを恥じ、戦争はもうこりごり、子孫にも二度と味あわせまいと決心した。日本は戦後7年間米軍の統治下にあり、その間に新しい憲法が制定された。戦争放棄・戦力の不所持をうたったこの憲法を、人々は、世界に先駆けて平和国家を作るのだという誇りと喜びを持って受け入れた。

70年を経て、平和のありがたみを肌で感じてきた世代の人たちは少数派になった。総務省によると、戦後生まれの日本人は8割を超えているとのことだ。出征した世代はおろか、戦火に怯えた子ども時代の記憶を持つ世代も年々その割合を減らし、戦争の記憶が風化するのではないかと危機感を募らせる人は多い。日本は8月15日を終戦記念日と定めており、政府主導で全国戦没者追悼式が毎年行われる。また、この日が迫るとTVや新聞は戦争を振り返る特集を組む。この夏は、安倍政権が推し進めた安保法案への不安の声が高まり、特に多くの特集が扱われた。当時を覚えている世代は、自分たちが語らねばと、戦争体験を公表している。私の母、ハンドルネーム「まっちゃこ」もその一人だ。

終戦記念日の前日、彼女は短いツイートを投稿した。

これに、日頃の旅行の写真より多いRTがついた。まっちゃこには、趣味のお笑い観賞や旅行で知り合った若い友人が多く、ツイッターは彼らとの交流に利用している。彼女は戦争当時の体験を、友人たちに語ってみようと思った。

1930年代、日本は謀略を用いて中国に攻め込み戦線を拡大していた。国民に好戦気分が盛り上がり、1940年の日独伊軍事同盟締結の際は、幼い子供まで旗行列で祝った。

まっちゃこは兵庫県神戸市に生まれ育ち、神戸大空襲を体験している。第二次大戦末期、連合軍が日本の市街地に向け盛んに空爆を行なったうちのひとつで、ジブリ映画『火垂るの墓』でも描かれている。
まっちゃこの両親は神戸市東灘区で代々続く和菓子屋を営んでおり、彼女の下に弟妹がいる5人家族であった。父は持病のため出征を免れたが、食糧が配給制になると商売は苦しくなった。小学4年生(1944年)の終り頃から、たびたび敵機襲来の警戒警報のサイレンが鳴り、下校させられるようになった。
翌年、彼女が11歳になって間もなく、父は富豪の留守邸の管理を頼まれ、一家で住み込んだ。大空襲があったのは、その一週間後の早朝だった。

上人山は2~3kmほど山の手にあるお寺だが、機銃掃射に追われ、そこに行きつくことはできなかった。

空襲が収まってから、探しに来た母と落ち合うことができた。

留守を任されていた豪邸も、和菓子屋だった一家の元の家も全焼だった。

ツイートを読んだ友人たちから「涙が出た」との反応をもらったまっちゃこは、後日談として、さらにトラウマになった出来事もツイートしている。
――空襲の翌日、両親が隣人たちと安否を確認し合い、家族同然の知人が見つからないことに気づく。和菓子屋の職場に居候していた身寄りのない女性で、子供たちの世話をしてくれた人だった。

大っぴらには口に出せない時代だったが、犠牲者は体制への不満を抱えていた。

(2合3勺は330g、2合1勺は300g。小児用便器に不要な古新聞を敷くこと自体は珍しいことではないが、天皇の写真は当時神聖視されていた)

家を失った一家は親戚の部屋に数日身を寄せた。その後親戚でもない知人の実家を頼って島根県の山奥へ疎開し、そこで終戦を迎えた。閉鎖的な風土の慣れない土地で避難民として暮らす苦労はあったが、『火垂るの墓』の主人公と違って両親が無事だったため、餓死せずにすんだ。紙一重で切り抜け、まっちゃこはその後70年の平和な日本を謳歌することができた。

実は、私は母の空襲の話を、子供のころから飽きるほど聞かされている。「もし将来ボケてあんたらのことがわからんようになっても、空襲の話は何べんも繰り返すやろな。覚悟しとき」と彼女は言う。「時代の空気があのころに近付いている。戦争は絶対にあきません」

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