バイカル湖の水位低下は、気候変動の仕業

この記事の原文は2015年4月4日に公開された。

Cove with Shamans Rock Olkhon Island Lake Baikal, Russia. Photo by Flickr user amanderson2. CC BY 2.0

ロシア、バイカル湖に浮かぶオリホン島のシャーマン岩と手前の入り江 写真提供:フリッカーユーザー、amanderson2 CC BY 2.0

この記事は、ミハイル・マトヴェーエフが350.org(地球規模の気候変動問題に関するムーブメント構築を目指す団体)に寄せたものである。グローバルボイスとの記事共有の合意の下にここに再掲する。

2015年の新年気分がまだ残るある日、ロシア天然資源相セルゲイ・ドンスコイは、バイカル湖の水位が極端に低下したため、同湖の水位は緊急水位に達したと 公表した。バイカル湖は、地球上で最大の淡水湖であり、ユネスコの世界遺産に登録されている。また、ロシアの誇る最も人気のある観光地の一つである。

それはともかくとして、バイカル湖とそこから流れ出るアンガラ川は、多数の都市の水道水源となっている。同湖の水位低下により、貯水池が空になる可能性がある。また、周辺都市への水道水を確保するため、水力発電所で使う水量を削減する必要があり、それは発電量の低下を意味する。

ドンスコイ天然資源相は、バイカル湖の水位低下の理由を「気候だ」と一言で言ってのける。いったい、気候に何が生じたのだろうか。

バイカル湖地域の降水量は、数10年周期で変動すると、専門家は言う。しかし、今起こっている現象は、明らかに通常の変動範囲を超えている。例えば、3月下旬にバイカル湖の水位は、危機水位より9センチ下回った。この期間の水不足は、過去100年来観測されたことがない。非常事態省によると、2014年の夏季および秋季における同湖への流入量は、通常の気候時のわずか65パーセントであった。

バイカル湖の水位低下は、ロシアで劇的な気候変動が生じていることの証である。ロシア水文気象環境監視局(Rosgidromet)によると、バイカル湖周辺地域における平均気温の上昇の速さは、地球全体で生じている平均気温の上昇の速さの2.5倍となっている。気候変動は、干ばつなど、自然災害の発生件数の急増をもたらす。

Increase in dangerous climatic events in Russia, according to Rosgidromet

ロシアにおける気象災害の増加 資料提供:ロシア水文気象環境監視局

ロシア水文気象環境監視局の第2報が詳細にわたり予見しているところによると、このような状況が生じた原因の一つとして、気候変動が関与している可能性が挙げられている。 

As a result of increased interannual variability of the runoff, above all seasonally, abnormally high-water as well as abnormally low-water years and seasons are possible. The financial damage caused by low water could be compared to that of floods, since it complicates the work of storage reservoirs, disrupts the water supply to cities and industrial facilities, decreases the production of hydropower, endangers river navigation and lowers the quality of the river water.

雨水流出の経年変動幅、わけても季節変動幅、が拡大した結果、異常低水位と同様に異常高水位を記録する年や季節が生ずる可能性がある。低水位により生じる財政損失は、洪水による財政損失に匹敵するともいえる。つまり、水位低下により、きめ細かな貯水池の運転管理が要求される、都市や産業施設への断水が生じる、水力発電量が減少する、河川航行が危険にさらされる、河川水の水質が低下するなどといったことが生ずるからである。水位低下はバイカル湖が抱える問題の一部に過ぎない。もっと重大な問題が水面下に隠されている可能性がある。2014年の秋、バイカル湖湖岸は、悪臭を放つヘドロ状の水生植物に覆われていった。

水位低下はバイカル湖が抱える問題の一部に過ぎない。もっと重大な問題が水面下に隠されている可能性がある。2014年の秋、バイカル湖湖岸は、悪臭を放つヘドロ状の水生植物に覆われていった。

バイカル湖の生態系は、清澄な極低温水(通常は10℃未満)のおかげで出来上がったものであり、淡水海綿が繁茂していることで知られている。その様子は、カリブ海の岩礁にどこか似ている。

しかし、これらの素晴らしい淡水海綿群は消滅に向かっており、その生息地は、暴風により打ちあげられた同じく水生植物(アオミドロ、学名:スピロギラ)に取って代わられている。バイカル湖の特長を示す「岩礁様」の地形は、湖底を覆う泥に浸食されつつある。こういった状態は、適度な水温を保った底深いバイカル湖の特長というより、日光で温められた池の特長を示すものである。

専門家たちは、これらの問題の原因について論じている。陸水学研究所の研究者たちは、水質汚濁に関して警鐘を鳴らすとともに、バイカル湖への下水排水規制を至急に実施するよう要望している。その一方で、イルクーツク州の環境天然資源審議官、ニーナ・アバリノフは、問題の根本原因は湖面の低下と水温の高温化の中に潜んでいると考えている。

事実、バイカル湖の水温は上昇傾向にある。すでに2008年に公表された報告書によると、バイカル湖表面水の水温は、1946年以来1.21度上昇している。

これらすべての現象の根底には、それぞれの因子が互いに関連しあっている。その中で気候変動が主要な因子となっている。水質汚濁は気候とは直接関係はないとはいえ、バイカル湖への流入水量が劇的に減少した結果、湖岸に汚物が集積し悪臭を放つ区域が拡大している。衝撃なことに、バイカル湖の「岩礁」の難敵は、カリブ海、太平洋およびインド洋にみられるバイカル湖のものと同種の水生植物(アオミドロ)なのである。気候変動と水質汚濁が相まって、安定性を好む淡水海綿やサンゴを衰弱させる一方、水生植物の成長にとって最適の条件が整ってきている。

バイカル地方で生じていることは、地球温暖化を示す大量の証拠のうちの一つに過ぎない。地球温暖化はロシアの寒冷地にとってさえも、よくないことが起こる前触れとなっている。現実の事態は、直ぐにでも対処しなければならないほどの状況に直面しているにもかかわらず、残念なことに、今日のロシア社会には、これらの地球規模の問題を認識する態勢がほとんど整っていない。バイカル地方における、21世紀で恐らくただ一つの最も重要な課題とされる気候問題への積極的取組は、人々の注目を集めるものと期待される。最初の 取り組みが成功すれば、人々の関心はさらに高まるだろう。

追記:この記事を執筆中に、別の災害がこの地方を襲った。ハカス共和国およびトゥヴァ共和国(バイカル州近傍)で発生した大規模な森林火災により、30人以上の人が 亡くなり、数百の人が家を失った。ハカス共和国長官は、今回の災害の主因は「これまでに経験したことの無い気候異常(高温気象と強風」であるとした

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