「ピンホールカメラ」で見るリオデジャネイロのファベーラ

foto de Juliana de Oliveira - localidade: Santa Tereza

リオデジャネイロ近郊 サンタ・テレサ 写真:ジュリアナ・デ・オリベイラ 許可を得て掲載

小さな穴のあいた缶と粘着テープ。簡単なようで、そこにはパラドックスが存在する。オートフォーカスのデジタルカメラなら、シャッターを押すだけでいい。しかし、アナログカメラの起源であるピンホールカメラ(針穴写真機)となればそうもいかない。根気と集中力が必要だし、写真の基本原理とされる「光の使い方」も理解しなくてはならない。あとは、少しの想像力とインスピレーション、そして励ましがあれば大丈夫。

それが Mão na Lata (手に缶を携えて) プロジェクトの概要である。このプロジェクトが行われるリオデジャネイロ市コンプレクソ・ダ・マレー地区には、16のファベーラで構成する 13万人近くが暮らしている。 Mão na Lataでは、同地区内に暮らす12歳から18歳の若者にピンホールカメラの普及を図ろうと、粉ミルクの缶を使ってカメラを作るところからネガの現像に至るまで、すべて参加者自身が行い自分たちの街の日常をモノクロで記録してもらう。

写真家のタチアナ・アルトバーグが設立したMão na Lataは、2003年からNGOの Redes da Maréと連携して地域の若者たちに、手作りの写真と文学のワークショップを行なってきた。2012年に、アルトバーグは国営石油会社ペトロブラスの支援を受け、ブラジルのルーアネット法(企業の文化事業への出資を奨励する法律)を通じてピンホールカメラと、デジタルカメラの基礎を学ぶプロジェクト「クラフトからデジタルまで」を展開した。また、19世紀にリオデジャネイロに暮らし、国民文学を代表する作家、マシャード・デ・アシスの著書に登場する場所を撮影するという試みも行われている。

この取り組みは、2013年にNAU出版から10代の若者たちの作品を収めた写真集『Cada Dia Meu Pensamento é Diferente』 (仮訳:日々、私の思考は異なる)を出すまでに展開した。

foto de Yasmin Lopes - localidade: Ramos

ラモス コンプレクソ・ダ・マレー付近 写真:ヤスミン・ロペス 許可を得て掲載

foto de Rafael Oliveira - localidade: Passeio Público, Centro

リオデジャネイロの市街地 パセオ・プブリコ 写真:ラファエル・オリヴェイラ 許可を得て掲載

写真集の中でRedes da Maréのディレクターであるエリアナ・ソウザ・シルバは、プロジェクトについて次のように説明する。

Essa obra coletiva caracteriza-se por articular qualidade artística e impacto político. Afirma que os moradores da Maré criam e se (re)inventam todos os dias, como quaisquer cidadãos da polis. A iniciativa é parte do projeto maior da Redes da Maré, instituição que aposta em iniciativas que criem/estimulem experiências estéticas como parte fundamental da vida humana, numa região importante da cidade do Rio de Janeiro, a Maré. […] Tudo isso, reconhecendo esse processo como um direito que se negou historicamente a uma parcela da sociedade brasileira”

この作品集は芸術性と政治的な影響力を兼ね備えています。マレー地区の住民は、他の都市に暮らす人々と変わることなく日常の創造的な側面に触れて、新たな自分を発見しているのです。このプロジェクトは、リオデジャネイロの重要な地域であるマレー地区で、人が生きる上で欠くことのできない美的体験を創出し展開することに重きを置く機関、Redes da Maréの大規模プロジェクトの一環です。[中略]こうした活動は、市民の権利として親しまれていますが、かつてはブラジル社会の一部の地域で認められていなかったのです。

foto de Géssica Nunes - localidade: Rua do Miolo, Nova Holanda, Maré

サルジェント・シルバ・ヌネス通り ノバ・オランダ  コンプレクソ・ダ・マレー 写真:ジェシカ・ヌネス 許可を得て掲載

foto de Nicole Cristina da Silva - localidade: Arcos da Lapa

リオデジャネイロの繁華街にあるラパ・アーチ 写真:ニコル・クリスティーナ・ダ・シルバ 許可を得て掲載

アルトバーグと写真集の出版に協力した文学部の教授ルイザ・レイテは、タイトルの経緯を説明する。

O título do livro é um fragmento de um dos textos produzidos por um dos alunos do projeto. Queríamos um título capaz de ressaltar a qualidade cambiante do pensamento reflexivo, conquistado pelos alunos após um prolongado processo de criação.

これは、ある学生が書いたエッセイからの抜粋です。学生が、長い創作活動を経て到達した発想の転換をタイトルに反映したいと思いました。

foto de Jonas Willami Ferreira - localidade: Rua do Rosário, Centro

ロザリオ通り中心部 写真:ジョナス・ウィラミ・フェレイラ 許可を得て掲載

Morro do Livramento, Gamboa. Foto de Larisse Paiva, publicada com autorização.

ガンボアにあるリブラメントの丘 写真:ラリス・パイバ 許可を得て掲載

エッセイを書いたジョナス・ウィラミ(17歳)は、同写真集の 出版記念パーティーで次のように語っている。

Me deu mais paixão pela fotografia. Foi uma sensação muito boa, de ver a felicidade de todos aqui no lançamento, pois não é apenas um projeto, somos uma família. E a frase se encaixa perfeitamente no eixo da história que se passa o livro.

写真に対する想いがもっと強くなりました。出版記念パーティーでみんなが喜んでいる姿を見て、すごく胸が高鳴りました。この取り組みは単なるプロジェクトなんかじゃありません。メンバーは家族同然だし、あの言葉こそがまさにこの写真集の根底にある部分なんです。

foto de Augusto Araújo - localidade: Rua Sargento Silva Nunes, Nova Holanda, Maré

サルジェント・シルバ・ヌネス通り ノバ・オランダ コンプレクソ・ダ・マレー 写真:アウグスト・アラウジョ 許可を得て掲載

foto de Lucas Eduardo Mercês da Costa - localidade: Palácio do Itamaraty, Centro

リオデジャネイロの繁華街にあるイタマラチ宮殿 写真:ルーカス・エドゥアルド・メルセレス・ダ・コスタ 許可を得て掲載

アルトバーグは、プロジェクトに関するドキュメンタリーも制作している(ポルトガル語:字幕なし)

写真集の中で、フルミネンセ連邦大学歴史学部の准教授であるアナ・マリア・マウアドが、イメージの象徴性と普遍性について考察している。

O mundo que conhecemos com essas imagens atravessa os tempos, reunindo passado e presente – os Rios de Machado, do conflito, da pacificação, da vida das pessoas comuns nas suas fascinantes excepcionalidades.

マシャード・デ・アシスが描いた「リオ・デ・ジャネイロ」、紛争と平和の「リオ・デ・ジャネイロ」、そして人を魅了するような意外性の中から立ち現れるファベーラの人たちの生活。こうしたイメージを通じて私たちが認識する世界は、時間を越えて過去と現在を結びつけるのです。

校正:Masato Kaneko

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