「ようこそモンゴルへ」観光客に微笑みかける恐竜化石

ウランバートルのフンヌ・ショッピングモールに展示中のサウロロフス恐竜の化石 筆者撮影 掲載許可済

(原文記事は2023年7月28日に公開されたものです)

7月29~30日にモンゴル初の恐竜博の開催が予定されている。主催者側はこの催しを毎年の恒例行事として観光客を呼ぶ計画を立てている。この博覧会はゴビ砂漠にある南ウムヌゴビ県のバヤンザグ遺跡発掘場で開かれる。主催者のモンゴル古生物学研究所は、遺跡ジオラマの展示やレーザーライトショー、そして恐竜の立体映像体験や恐竜化石ハンターとの特別ツアーなどのプログラムの準備を進めている。

開催間近いモンゴル恐竜博のYouTube映像をどうぞ。

 

この博覧会開催の日程と会場は慎重に選択された。その日付と場所が世界の古生物研究学会にとって非常に重要な意味を持っているからだ。ちょうど100年前のこと、アメリカ自然史博物館のロイ・チャップマン・アンドリュース館長が、自らが「炎の崖」と名付けたバヤンザグ発掘場で初めて恐竜の卵を発見した。当時これは画期的な発見で、恐竜が現代の鳥類同様に卵生だったことの証明となり、鳥類が恐竜の子孫だという学説が生まれた。

1920年代初頭、南モンゴルで化石発掘中のロイ・チャップマン・アンドリュース発掘隊の様子をYouTubeの画像でどうぞ。

 

その後数年のうちに状況は大きく進展することになった。モンゴルが恐竜と古代史の研究における最重要国のひとつになったのだ。アンドリュース発掘隊はたった2年間で100体以上の恐竜化石を発見し、アメリカに持ち帰り博物館展示を行った。この発見のおかげでアンドリュースは科学界の伝説的人物となり、架空の考古学者冒険家インディ・ジョーンズのモデルにもなるほどだった。しかし1920年代初頭にモンゴルの政情が不安定になり、アンドリュースはもうモンゴル遠征ができなくなった。

しかしそれまでの発見物のおかげで、モンゴルはすでに古生物学地図上の注目のスポットになっていた。1940年代の旧ソ連ーモンゴル合同探検隊や、1960年代と70年代のポーランドーモンゴル合同探検隊が数々の恐竜種を発見したが、その多くはそれまで人類には未知のものであった。

これまでに発見された400種の恐竜のうち80種は南モンゴルから出土している。中生代白亜紀にその地に住んでいた恐竜たちだ。例えば映画『ジュラシック・パーク』に登場するヴェロキラプトル、そしてオヴィラプトルプロトケラトプスなどはゴビ砂漠のモンゴル領内で初めて見つかった。プロトケラトプスとヴェロキラプトルの格闘の化石は最も有名な恐竜化石のひとつで、1971年にポーランドとモンゴルの古生物学者たちによって発見された。

この「戦う恐竜たち」の化石の写真とともに発信されたツイートを見てみよう。

#FossilFriday!のお気に入りの化石です。このプロトケラトプスとヴェロキラプトルの格闘の化石は1971年に発見されました。
モンゴル恐竜研究所(@MongolianDinos)2017年8月4日

モンゴルで発見された最も有名な恐竜は7000万年前に生息していたタルボサウルス・バタール(T-バタール)だ。これは北アメリカの頂点捕食者ティラノサウルス・レックスのアジアにおける近縁属だとされている。モンゴルの首都ウランバートルにあるモンゴル中央恐竜博物館を象徴する展示物になっている。

T-バタールといえば、モンゴルの古生物学会史上最大の事件が思い出される。つまり恐竜化石の密輸の問題だ。この化石は2012年にニューヨークのオークションで危うく落札されそうになった後、2013年にモンゴルに返還された。2016年には30体以上の化石がアメリカでのオークションから取り戻され、今はモンゴル中央恐竜博物館の玄関ホールに展示されている。噂によると、密輸され取り戻されたモンゴルの恐竜の一体はハリウッドの俳優ニコラス・ケイジ購入したものだそうだ

T-バタール骨格標本。ウランバートルのモンゴル中央恐竜博物館展示。筆者撮影 掲載許可済

発掘作業の舞台裏で最前線に立った人物はモンゴル人古生物学者のボロルツェツェグ・ミンジンだ。モンゴル恐竜研究所の創設者であり所長を務めている。この研究所の目的はモンゴルの化石遺産を保存し、モンゴルの次世代の古生物学者を育成することである。国中で古生物学が盛り上がり恐竜遺産がモンゴルの国民意識の発露の一環になっていると、自信を持って言えるのはミンジンのような人々のおかげである。モンゴルは2023年と2024年を観光年と宣言し、外国人観光客を引きつけるために自国の恐竜を活用しようとしている。モンゴルの恐竜たちはその期待に応えてくれるかもしれない。

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