「アラブの春」から10年ーーチュニジアは国の経済を救うために肥大化した公的部門を改革することができるのか

チュニジアの首都、チュニスにある政府庁舎。写真:エイミー・ケウス ウィキメディアから転載。 (CC BY-SA 2.0)

チュニジアでは、2011年の革命以降、公務員の採用が大幅に増加した。現在では経済の低迷により、公的支出を削減するために国の改革が押し進められている。

チュニジアの経済は「ジャスミン革命」のそもそもの原因となった数十年に及ぶ低賃金と高い失業率により、すでに悪化していた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受け、事態はさらに悪化し、失業率が高まり危機的状況は深刻化している。負債を抱え込んだチュニジア政府は現在、国際通貨基金(IMF)に40億米ドルの融資を求めている。ヒシェーム・ムシーシー首相によれば、この融資は国の経済を救うための「最後のチャンス」だと言うが、その最後のチャンスには、チュニジアが国の経済改革を行い、公的部門の賃金総額や補助金を削減するという条件がからんでくる。

チュニジアは、きまって「アラブの春」 の成功例として欧米の政府から高く評価されるが、国の財政状態は民主主義への政治的移行を脅かしている。同国は、対国内総生産(GDP)比で推計11.5%とされる慢性的な赤字と、対GDP比で90%にのぼる公的債務を抱えている。 IMFの調査によると、公的部門の給与支出は国の歳出の半分以上を占め、チュニジアの経済規模と比較しても、世界で最も高い水準にある。

「社会的平和」の高い代償

公務員の数は急激に伸び、革命以降、ほぼ倍増した。歴代政府は、国民の不満を和らげるために公的部門の仕事を次々と利用してきた。「仕事、自由、尊厳」は、腐敗の慢延や機会の欠如に不満を抱くチュニジアの若者の揺るぎない核となる訴えである。尊厳を持ち公正な賃金で働く権利が 憲法に明記されているだけに、政府は雇用の創出を迫られている。健全な経済計画や社会保障制度が無いため、必要性に基づかずに仕事や社会的公正を求める抗議行動に応じて人々は行政に採用されている。
元公的部門担当大臣のカメル・アヤディは「社会的平和」を買うために人を雇ってきたと述べた。失業中の若者が、カスリーヌタタウイヌ などをはじめとする町での「開発と労働の権利」を求めて全国各地で街頭デモを行い、結果として公的部門での雇用が約束された。 数カ月間の抗議活動 の後、少なくとも10年以上失業状態にある大卒者を公的部門に採用することを保証する法案が議会で可決された。しかし、これらの措置がどのように実施されるのか、あるいはそもそも実施するのかということは明らかでない。

公的部門での雇用は、仕事を求める訴えに応えるだけでなく、他の党派的な政治的動機でも利用された。特にイスラム政党のアンナハダは、党の権力を打ち固めようと党支持者や忠誠者の中から大量に採用したと非難されている。ザイン・アル・アービディーン・ベン ・アリーの前政権下では、イスラム主義者は主要な反対勢力であり、迫害されたり政権から追放されたりした。何十年にもわたる抑圧の後、革命後の新指導者にとって公的部門での安定的な職は、かつて受けた排除に対する公正な賠償や補償と考えられていた。公的部門の雇用が最も急増したのは、2011年から2014年のアンナハダが率いる連立トロイカ政権の統治時代であった。チュニジア公共サービス・行政の中立性に関する組合(UTSPNA)によると、トロイカ政権下における公的部門での人事の90%は、党派的、地域的、家族的な関わりに基づいて行われたとされる。報道によると、大使や領事、知事、判事、またメディアや治安、情報技術といった戦略的分野の管理職などが党の支持者の中から採用されたといわれる。また、2012年には、革命で負傷した7,000人以上の人々が払った犠牲に対する補償と表彰として公的部門での 仕事を与えるという、 物議を醸した恩赦法が採択された。

若いエンジニアのモハメドは、私とのインタビューでこう述べた。
「歴代の政治家は汚職を深める一因をつくってきました。政治家は、本来の機能を果たせない機能不全のマンモスに政権を変えてしまったのです。このようなポピュリスト的な短絡的な施策は、災いのもとになります」

公共サービスの低下と賃金の上昇

強力なチュニジア労働総同盟(UGTT)の圧力により、公務員の数が無秩序に増加したことと相まって、給与も増加した。国家統計局(INS)の調査によると、 2011年から2015年の間に給与は23.18%上昇しており、最も上昇したのは2013年のトロイカ政権下であった。こうした状況が重なり、ただでさえ厳しい国家予算の中で、公的部門における賃金総額の急激な上昇を招くことになった。しかしながら、職員や給与の増加は、職務遂行能力の向上にはつながらず、むしろ逆の結果となった。教育、健康、治安など、ほとんどの公共サービスが悪化している。民間企業が私立の学校や病院を急成長させ、このギャップを埋めているが、ほとんどのチュニジア人にとっては手の届かない価格である。

「革命後のこの10年間は、欧米諸国ではロマンチックに語られてきましたが、私たちにとって結局、悲惨さが増した時代であり、機能不全の国家機関とともに暮らした時代だったのです。チュニジアに、かつては素晴らしい公共サービスがありました。しかし、今では毎日のように新しいものが壊れていきます。水道といった基本的なサービスは、今では質が悪すぎて飲むことができません。私たちはペットボトルの水を買っています。交通機関は混雑していて危険です。学校や病院があまりにもひどい状態になってしまったので、民間企業に頼らなくてはならないのです。でも、誰がそんなお金を払えるというのでしょうか」と、退職した公務員のサルワ* は苦々しく語った。

最大の問題は、規模ではなく政権の職務遂行能力である。採用が必要性やスキル、能力に基づいていないため、生産性や効率が低下している。 2015年、チュニジア反汚職協会(Tunisian Anti-Corruption Association)の調査によると、公的部門における 常習的欠勤 は驚くほど高く、公務員の効果的な業務時間は1日平均わずか8分だという。チュニジアの人々は公的機関への信頼を失っている。2020年に国家汚職対策機関(Instance Nationale de Lutte Contre la Corruption)が実施した 全国協議 で、チュニジア人の87.2%は汚職が深刻に増加していると考え、28.5%が2020年に少なくとも1回は汚職的状況を経験したと報告した。

ほとんどの政治家や市民は、公的部門が持続不可能であり、早急に改革の必要があることに同意している。改革への試みは何度も行われてきたが、真の意味では何の進展もなかったのだ。例にもれずチュニジア政府は対策を取るのが遅い。少数の利益のために先送りにしたり一歩進んで二歩下がったりといったことを繰り返した結果、変革が妨げられ大多数が犠牲となっている。 国際援助機関がこうした経済的失速の一因をつくったために、チュニジアは今日、IMFからの救済融資を緊急に求めているのだ。不安定な地域であると同時に、ヨーロッパの玄関口にある国で、援助機関は機能不全に陥った破綻に瀕している経済システムを何とか維持し続けてでも、民主主義への移行を強固にすることを優先してきたのである。その結果、経済的な進歩に見合わない資金調達の悪循環が生じ、長期的には民主主義への移行を支援するどころか、弱体化させてしまうという負の波及効果が広がっている。

*要望により名前を変更しています。

校正:Shigeru Tani

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