見えない働き手:新型コロナウイルスの最前線にさらされる家事労働者たち

(訳注:原文掲載日は2020年7月20日です)

ブラジルのアーティスト、 レアンドロ・アシストリシア・オリベイラ による Instagram 9連作イラストシリーズより。使用許可済み。

国際労働機関(ILO) によると、世界には 6千7百万人の家事労働者が存在し、その80パーセントが女性である。 家事労働は私的な領域で行われるため、ほとんど目にすることはない。

掃除、料理、子供やお年寄りなどの家族の世話をする家事労働者は、そもそも契約が無いといった、不十分な法的保護下に置かれている。ウイルス感染の「最前線」に立たされているにもかかわらず、新型コロナウイルス(COVID-19)対策の対象外にされている。

新型コロナウイルス大流行のさなか、感染拡大封じ込めのための外出制限下で世界の女性家事労働者はどうしているのだろうか?

アルゼンチン、アフガニスタン、インドネシアでは、家事労働は無報酬

ほとんどの家事労働者は私的雇用のため弱い立場に置かれているが、特にこのコロナ禍の時期にはなおさらである。

ラヌス国立大学(UNLa)とthe Center for Study and Labor Researchの調査によると、100日間以上に及んだロックダウンを経たアルゼンチンでは、 約70パーセントの家事労働者インフォーマルセクター(訳注:非公式な経済活動)に属しているとみられている。

継続中の外出制限処置のもとでは、 仕事が無いことは報酬もないことを意味する。 しかし、隔離期間中で外出許可が無いにもかかわらず多くの女性が何とかやり繰りして仕事場に通っている。同じ調査では、パンデミックが始まって以来、就労なく満額の給料がもらえる契約で守られている労働者は わずか33パーセントである。

依然としてアルゼンチンでは、法律が明確でないため労働者は弱い立場に置かれ、不満を表明できない状況にある。同じ調査の回答では、例えば仕事を失ったり、自分や家族が感染することを恐れている人々がいる。また、法の不備を利用する雇用主も増えている。つまり、労働者を辞めさせたり、減給したり、「介護人」に名目を変えることで「エッセンシャルワーカー」(訳注:社会にとって必要不可欠な労働者を指す。コロナ禍では感染のリスクが高いとされている)として囲い込んだりするのだ。全体的にみると、外出制限下では70パーセントの家事労働者がなんらかの虐待を受けていると組合は 報告 している。

エクアドルでは、圧倒的多数の家事労働者が契約が無いまま、あるいはほとんど保護の無いままで働かされている。全国組合によると、ほぼ 85パーセントの家事労働者 がコロナ禍で解雇されている。

チュニジアの家事労働者サルマはグローバル・ボイスにこう語る。

We are the invisible hands. Our work is not valued.  We don’t exist for the families we serve nor do we exist for the state. With COVID-19 and the lockdown, we were the first to lose our jobs without any compensation or support.

私たちは見えない働き手なんです。私たちの仕事は軽んじられています。雇い主の家族だけでなく、国にさえも存在を認めてもらえてません。コロナと外出制限のせいで、私たちは真っ先に何の保障やサポートも無く職を失いました。

契約があったとしても、不明確だったり不十分だったりする。これは、少なくとも 420万人の家事労働者がいるインドネシアの事例だ。インドネシアの 家事労働者のための権利擁護団体全国ネットワーク(National Network for Domestic Worker Advocacy) (訳注:9月26日現在リンク先は閲覧できない状態になっている)は、2019年に国内の7地区の家事労働者668人に聞き取り調査をした。98.2パーセントの回答があり、インドネシアの最低賃金のわずか20から30パーセントしか稼いでいないことが判明した。

ときには、大きな組織との契約であっても問題はある。例えばアフガニスタンでは、財務省のオフィスを掃除する女性たちは最初在宅を許され給料も支払われていた。しかし、新型コロナウイルスの状況が悪化すると、給料が払われなくなる恐れから仕事に戻らざるを得ない。一家の稼ぎ頭のため、仕方なく仕事に戻った。4児を抱えるシングルマザーのファウジーアはグローバル・ボイスにこう語る。

If we keep [ourselves] safe from corona, we will die out of hunger.

コロナにかからなくても、飢えて死んでしまう。

中東と東南アジアで、何百万人もの移民女性が家を掃除する

多くの女性が世界各地で仕事を得るため他国から移住し、掃除、子守、料理をしてお金を稼いでいる。例えば、中東では 約210万人の移民家事労働者 がいると推定されている。 大多数はアジアやアフリカの国々の女性たちで、スリランカ、フィリピン、バングラデシュ、ネパール、インドネシア、ケニア、エチオピアなどから来ている。  

中東各地で、給料不払いに見舞われた多くの女性移民労働者が、結果として母国に送金出来なくなっている。これは移民労働者の情緒的、精神的負担を増やすだけでなく、母国にいる家族の収入が無くなることも意味する。香港も同様に、コロナ禍でフィリピンやインドネシアの移民コミュニティでの 債務水準が上昇している。

香港やシンガポールのような都市では、移民家事労働者は一般国民の家事労働とは別個の規則がある。 法律では 、移民家事労働者は雇用主と同居を求められる。ということは、外出禁止の数週間は休日でも仕事場である雇用主宅に居なければならない。

コロナ危機は、この住み込み規則をめぐる議論をあらためて呼び起こした。仕事と私生活の境界が曖昧になることだけでなく、不適切な住居、不十分な食事、プライバシー侵害や安全性の欠如も問題となる。ジャスティス・センター香港が2016年に行った調査によれば 、「66.3パーセントの移民家事労働者が強い搾取のサインを示しているものの、強制労働とみなされる十分な指標は示されなかった」と報告している。曖昧なグレーゾーンなのだ。

香港は厳格なロックダウン下にはなかったものの、政府は1月から4月までのコロナ流行のピーク時に、家事労働者に対して休日も在宅するよう繰り返し 公に要請した。 休日に仕事場を離れれば解雇すると言われた労働者もいると報告されている。 厚生労働大臣のロウ・チ・クワンは、 4月初めにようやく、自身のブログを通じて労働者と雇用主の両方に「休日の扱いに関してはお互いの理解で解決する」よう求めた。

湾岸諸国では、移住はカファラ制度(訳注:中東諸国が採用している移民労働者を監視する制度)によって規制されている。移民労働者のビザは雇用主に管理され、許可なく仕事を辞めたり、変えたりすることは許されない。そんなことをすれば、逮捕され、「逃亡」の罪で、罰金、拘留および国外追放が課せられる。

ブラジルでは、最初のコロナ患者は家事労働者

新型コロナ大流行のさなか、雇用主がマスクや手指消毒剤を用意してくれないと気に病む労働者もいる。

リオデジャネイロでは、最初の新型コロナの死者は63歳の女性で、 家事労働者だった。家族の希望でメディアに名前を非公表だった女性は、イタリア旅行から戻ってきた雇用主から感染した。自宅 と仕事場が遠かったため、週のうち何日かは雇い主の家に住むよう要請されたのだ。3月16日に体調が悪くなり、翌日には死亡した。

ブラジルの家事労働に関する最新のデータでは、2016年、国全体の家事労働者は約610万人で、そのうちの92パーセントが女性で、71パーセントが黒人だった。労働組合に入っているのはわずか4パーセントだった。今のところ、パンデミック時の家事労働を、必要不可欠ではないとする明確な法律はブラジルにはない。労働者は仕事場に行かなければ解雇される。

エクアドルでもまた、経済が再スタートするにつれて、仕事を再開する家事労働者が増えているが、この移行が安全かどうか心配している。労働省は民間企業の雇用主に、労働者の健康を守るために、安全な通勤とマスクなどの衛生安全対策を施すよう要請している。しかしながら、これは通勤や職場環境でコロナウイルスに感染しやすいと感じている家事労働者には 必ずしも適用されない

労働者の権利のために闘う、ジャマイカおよびシンガポールの組合

労働組合が家事労働者の権利を守ろうとしている国もいくつかある。ジャマイカでは、非政府で無党派のボランティア組織 ジャマイカ家事労働者組合(Jamaica Household Workers Union) が数千人もの家事労働者のニーズと利害を代表している。公表では、ジャマイカには5万7千人の家事労働者がいるとされている。

組合の創設者で委員長のシャーリー・プライスは、2017年にカリビアン・コミュニティーズ・ウーマンズ・オブ・ザ・イヤーを受賞したが、彼女はグローバル・ボイスに次のように語った。ジャマイカの他の何千人もの非正規労働者と同じく家事労働者は「その日暮らし」で、コロナ禍の今、他のグループ以上に被害を受けていると。

組合は、このように困窮する家事労働者を援助するための緊急基金を創設するよう政府に要求している。

プライスは、コロナウイルス流行期間中に、不況のために増えている家庭内暴力に関して重大な懸念を強調した。配偶者と家庭内で過ごす時間が増え、生活空間が過密になっているためだ。プライスはグローバル・ボイスにこう語る。

Domestic workers are the backbone of the society. While the government’s primary focus is to contain the spread of the virus, the risks emerging from shortcomings in labor and social protection, and the impact on the most vulnerable groups in society, have increased and the situation is critical.

家事労働者は社会の根幹を支えています。ウイルスの蔓延(まんえん)を封じ込めることが政府にとって最も重要なことだとしても、労務に関する社会的保護の不備から生じるリスクは社会で最も弱い立場に置かれた人々に影響します。そのリスクはますます増えており、家事労働者の状況は深刻です。

シンガポールではこのコロナ禍に家事労働者を解雇する 雇用主が出ていて、家事労働者センターはヘルパーたちを公平に扱うよう雇用主に釘を刺した。市民社会グループもまた、地域のリーダーに東南アジアの国々で働く家事労働者や移民労働者を放置しないよう 働きかけている。 

建設的解決に取り組むエクアドルとブラジル

エクアドルでは、こういった困難解消の対策として、家事労働者の 家事労働者の権利と労働条件を改善するするための アプリを開発した 。家事労働者に関連する情報を集約し、それをアプリのページで見ることができる。アプリはまた、調査により家事労働者の給料、残業代、労働時間といった現在の労働条件に関するデータも集め、さらに起こり得る権利違反を明らかにし、必要に応じて法的処置を講じてユーザーを援助することもできる。

ブラジルでは、Instagram でシェアされている 風刺漫画シリーズで、家事労働者の生活に対する認識を高めている。物語は、家にいることができない女性が自分自身と周りの人々を危険にさらすことを心配する様子を描いている。

世界中の家事労働者、開発者、芸術家、組合、活動家は、パンデミックのさなかであっても、世界の「見えない働き手」が陰の存在から表舞台に飛び出すことができるよう働いている。

コメントする

Authors, please ログイン »

コメントのシェア・ガイドライン

  • Twitterやfacebookなどにログインし、アイコンを押して投稿すると、コメントをシェアできます. コメントはすべて管理者が内容の確認を行います. 同じコメントを複数回投稿すると、スパムと認識されることがあります.
  • 他の方には敬意を持って接してください。. 差別発言、猥褻用語、個人攻撃を含んだコメントは投稿できません。.