冷戦は20年前に終わったはずだが、アメリカとロシアが互いをスパイし続けていることは公然の秘密となっている。3年前にアメリカでロシアのスパイ組織が暴露 [en] され、SVR(ロシア対外情報庁、アメリカのCIAに当たるロシアの機関)の時代遅れの慣習が明らかになったが、今回は、CIAでも同様だということが示された。2013年5月14日(火)にFSB(ロシア連邦保安庁)が、在モスクワ・アメリカ大使館政治部第3等書記官ライアン・クリストファー・フォーグルを、ロシア国民をスパイとしてスカウトしようとした容疑で逮捕したと、発表したのだ。フォーグルは見込みのある諜報員に最高100万ドルの報酬を提示し、手紙や電話で連絡を取っていたとされる。アメリカ国務省は、フォーグルがどの政府機関で働いていたか、またそのスパイ容疑に関して、公けのコメントを拒否した [en]。
フォーグルの逮捕の現場はFSBが録画しており、ロシアテレビで放映された。ビデオ [ru] の中でフォーグルは怪しいブロンドのかつらをつけ、野球帽をかぶっているが、フォーグルが待機していた車に押し込まれる前に、それらはFSB諜報員によって取り上げられる。それから、フォーグルの「スパイ道具」(かつら2つ、サングラス、コンパス、安物のノキア携帯、モスクワの地図、スイス・アーミーナイフ、500ユーロ札の束が入った封筒)がカメラで映し出される。ビデオの後半では、フォーグルと大使館の彼の同僚と見られる3人が、モザイクのかかったFSB諜報員から叱責を受ける。奇妙にも、校長先生が言うことを聞かない生徒を叱っているように見えてしまうのだが、この諜報員は、ボストンマラソン爆破事件をきっかけにロシアとアメリカの諜報機関が最近緊密になっていること考えると、フォーグルがロシア国民をリクルートしようとしたことには驚きと落胆の気持ちを禁じ得ない、と話す。
この事件は対敵諜報活動の闇の世界を、ロシアブログ圏のスポットライトの中に放り出した。そこでは事件の詳細が興味本位で切り刻まれる。初めから多くの人は、初期のジェームズ・ボンドの小説から取り出したようなフォーグルのスパイ道具に、いくらか困惑していた。
ツイッターユーザーのひとり、Best_JS [ru] はからかった。
Парики,черные очки и особенно–компас в Москве.Не хватает только секстанта и астролябии.ЦРУ оснащает своих агентов в магазине 99 центов?
かつら、サングラス、それにコンパス? モスクワで? 六分儀と天体観測儀もあればよかったのに。CIAは局員に99セントショップで身支度させるのかしら?
ツイッターユーザーTimque [ru] もフォーグルのスパイ技術を蔑んだ。
Если наша контрразведка способна ловить только шпионов с чуть ли не надписью «ШПИОН» на лбу. То из меня бы вышел отличный агент ЦРУ!
この国の対敵諜報活動が、「スパイ」と額に書いてあるも同然のやつしか捕まえられないなら、俺はすごいCIA諜報員になれるよ!
しかし驚くことに、フォーグルの道具について、遥かに寛容な評価 [ru] を有名なロシアの技術系ブロガーが掲載した。エルダー・ムルタジン [ru] はスパイの世界では最新の道具を使うことは危険だと指摘した。
Начнем с самого противоречивого предмета в глазах обывателей — обычного атласа Москвы и дорог с указанием каждого дома. В век высоких технологий, когда у каждого в телефоне есть навигация и хорошие карты, это выглядит анахронизмом. А теперь давайте представим специфику работы агента, когда он не должен оставлять следов, в том числе и цифровых. Я плохо представляю себе агента, который прокладывает путь к тайнику или месту встречу в Google Maps и затем сохраняет маршрут. Этот агент должен быть конченным идиотом. Равно, как мне сложно представить как сообщить о месте встречи в электронном виде, это дополнительный риск […] Поэтому можно долго ворчать, что разведчикам чужды новые технологии, но это не так. Эффективный способ не оставлять следов, не использовать программы навигации.
一般人から見て、最も問題とされるアイテムから始めよう。すべての建物の住所が載っている普通のモスクワ道路地図だ。このハイテク時代には、誰もがGPSと優秀な地図のついた携帯を持っているから、これは時代錯誤に見えるかもしれない。しかし、諜報員の仕事の特殊性を考えてみよう。移動時には追跡されてはいけない。デジタル的にもだ。秘密の場所や待ち合わせ場所をグーグルマップで探して、ルートをセーブするような諜報員は想像できない。そんなことをする諜報員は相当間抜けだ。同じように、待ち合わせ場所の情報を電子媒体で送るということも想像できない。危険が増すからね。 […]ハイテクグッズを使わない諜報員の文句を言うのは勝手だが、事実は映画とは違う。追跡を避ける効果的な方法はGPSを使わないことだ。
一方、ブロガーでソーシャルメディアの権威でもあるアントン・ノシック [ru] は、アメリカ人に、人間を介した諜報活動を行う諜報員としての能力が欠けていることに問題がある、と言っている [ru] 。有名なソ連の亡命者、ヴィクトール・スヴォーロフのインタビュー [ru] を引いて、ノシックは主張した。
По мнению Суворова, у ЦРУ просто очень хреново поставлена агентурная работа. Потому что, с одной стороны, львиная доля разведданных собирается с помощью техсредств (спутниковая съёмка, перехват коммуникаций), а не от живых людей. С другой стороны, самые эффективные агенты на службе Америки — иностранцы, шпионящие в своих собственных странах. Которых не нужно учить маскироваться, гримироваться, носить парики, потому что их главная маскировка — реальная биография и занимаемая должность.
スヴォーロフによれば、CIAの諜報員としての働きはひどいものだ。これは、機密情報の大部分はテクニカルな手法(衛星写真、通信傍受)で集められたもので、生身の人間を介するものではないという一面があるからだ。しかし一方で、アメリカのために働く最も効率的な諜報員は、各国で働いている現地の人間だというのも事実だ。彼らはメイクしたり、かつらをつけたりして偽装する方法を学ぶ必要はない。なぜなら最も強力な偽装は、彼らの本当の経歴と実際にしている仕事だからだ。
ノシックはフォーグルの(文法的には正しいかもしれないがへたくそなロシア語で書かれた)疑惑の手紙 [ru] についても「グーグル翻訳を通したナイジェリアのスパム [en]」のようだ、と主張を続けた。
もちろん、いつも通り、RuNetユーザーの中には、このエピソード全体にクレムリンの見えざる手が見えるという人もいるだろう。この皮肉たっぷりの批評家 [ru] のように。
Ну, да — накладные усы, парики, шифры и прочая хуета. Почти как в кино. Не верю я в это лицедейство! Компас меня убил окончательно. Надо было еще словарь англо-русский добавить. И детскую порнографию.
ほら見ろ、付け髭、かつら、暗号表と他のちんけなもの。映画に出てくるようなものばかりだ。こんな茶番は信じない。極めつけはあのコンパスだ。露英辞書もあるべきだった。それと児童ポルノも。
興味深いことに、フォーグルのスパイとしての能力(あるいはその欠如)は話題の的となっているが、スパイ活動のためにアメリカの外交官が国外退去させられることによって生じうる影響については、何の注意も払われていない。同様に、なぜクレムリンが、クレムリンとアメリカがシリアについて高官レベルの協議をしており、情報を共有していたこの時期を選んでフォーグルの事件を表ざたにしたのか、についてはほとんど検証されていない。これは、通常、外交上の主要事件とされるべきことが、今はロシアのネット市民向けの面白い逸話としてしか見なされていない、ということを示している。