新しい食糧安全法でインドは救えるのか?

人口の約3分の2に対して基礎食糧を大量に援助するというインドの新しい食糧安全保障法案が、国中で議論を引き起こしている。多額の費用がかかる法令の賢明さをめぐってだ。

国家食糧安全保障法案は2011年12月22日にインド連邦議会の下院(ローク・サバー)に提出された。それ以来、その法案の真価と影響についての入念な議論がなされてきた。しかしながら、かなりの時間をかけて議論してきたにも関わらず、議会は意見を一致させることができなかった。ここに到って、2013年7月5日に、現職の 統一進歩同盟(UPA)政権は立法府を無視し、2013年国家食糧安全保障法令を公布したのである。

国家食糧安全保障法令はインド国民全体の利益となることを意図したものだ。多額の助成金を受けたレートで、インド国民のおよそ67パーセントが、合法的に毎月5kgの穀類を手に入れられると見込まれている。米、小麦、雑穀の価格はそれぞれ1kgあたり3インディアンルピー(0.051アメリカドル)、2インディアンルピー(0.03アメリカドル)、1インディアンルピー(0.02アメリカドル)と規定されている

A customer in Mumbai, India inspects food grains before making his purchase

購入前に穀物の品定めをするインド、ムンバイの客 Prasad Kholkute撮影(CC-BY-SA 2.0)

現在、この法令は効力がある。しかし、国会議員はもちろん、かなりの数の国民がこの法令に疑念を抱いている。この法令を公布するために政府がとった方法に対し、野党が公然と非難する以外にも、この法令の実用性、費用、長期持続性についての様々な疑問や懸念の声が出てきている。

Infochange IndiaのDiva Aroraとのインタビューの中で、有名な政治および社会活動家であり、大統領の国家諮問委員会のメンバーでもあるAruna Royは、国家食糧安全保障法令というものの存在の必要性を強調した。そして、次のように、その必要性と実行可能性の理由を説明した。

……福祉国家となるために、インド政府はこれまで国民を受動的な受益者ではなく正当な権利所有者とする決定的な役割を担ってきましたし、今後も引き続きそうするべきです。政府は、貧困層が、尊厳ある生活に必須な食糧の入手方法を確保できるようにすることを理想とすべきであり、施しによる解決を理想とすべきではありません。

繁栄期において特にそうあるべきなのです。皆のため、後世のためにセーフティーネットを確立するには。この法律を支える理論的根拠は尊厳をもって生きる権利と飢えの根絶です。

人道主義の面に加えて、住民に食糧を与えることには、たくさんの利益があります。必ずしも数量的に捕捉することはできないかもしれませんが。GDPの上昇や国庫歳入の増加、政府調達の拡大、備蓄食糧の増加(と無駄)、多くの州における公共配給制度(PDS)の著しい改善などを考慮すると、経済はこのプログラムに絶好の状態だと言えるでしょう。

しかしながら、 同じインタビューの中で、彼女は、このプログラムの受益者の認定に関わる法令の欠点もいくつか指摘した。

 実は、援助を受ける貧困層の認定方法は、本当の意味での問題をはらんでいます。対象者を自動的に除外していた以前のシステムでは、少なくとも認定の基準がありました。現在提案されている一般世帯、優先世帯、除外世帯の区別には、非常に分かりにくく複雑な基準があります。それは実用的ではなく、実行するのは不可能です。人々は、自分がどのカテゴリーに属し、何を受け取れるのか明確に分からないでしょう。それによってこのシステムは不透明となり、多くの人々が除外されることとなってしまうでしょう。

法令に明らかな欠陥、特に実施するうえでの欠陥があるとして、各方面からの連合政府への厳しい批判は高まってきている。ネチズンの人々も懐疑的な態度を示している。例えばTejinder Narangは自身のブログで以下のように書いている。

食糧大臣/州首相/その他公式な代表者はこの計画を実施することには政治的にも財政的にも「問題ない」と断言している。経験則上、政府が「問題ない」と言うときは、「深刻な問題」があるものだ。確かに、選挙の際になされた公約としては「問題ない」。しかし、歴代の政府が多大な国家経費をかけて行ったこととしては「重大な問題」があるかもしれない。

食糧が全体に行き届かない主要な理由は、全ての製品を安全に保管することができないということだ。「食糧穀物の腐敗」というタイトルのSlideshareのプレゼンテーションで、KD030303はインドにおける食糧保管状態が劣悪であると説得力のある主張をした。貯蔵能力がないにもかかわらず、食糧の輸出を減らすだけでなく、仕入れも増やすという政府の計画は、食糧の損失を増やすことに直接つながると考えられる。政府は、国内の農業生産 の程度に合った 貯蔵庫を作ることに力を注ぐべきである。現在の基本的な論点は、政府の助成金の利益を全体的に見極めることの必要性にある。この意見は以下のツイートにも反映されている。

インドは不適切なものを対象とした助成金を使いすぎていて、インフラや教育にはお金を惜しみすぎている。 @swaminomics http://t.co/OEKcD7enAZ — Sadanand Dhume (@dhume01) 2013年7月28日

世界銀行さえ食糧補助は貧困層を救わずインドの財政問題を引き起こしかねないと考えている。 http://t.co/ImdgwHanHR — Ekankar (@AwaazAzad) 2013年7月28日

ブロガーのSonail Ranade (@sonaliranade)は助成金について以下のようにコメントしている。

他国は国民の仕事に焦点を当てている。インドは助成金に焦点を当てている。だから貧困がなくならない。— SonaliRanade (@sonaliranade) 2013年7月7日

インドの有名なブロガー、Nitin Pai (@acorn) も全体への助成金と経済への影響について、彼の考えをツイートしている。

悪い議論#2553: 中産階級の人々も補助金を得るのだから、食糧安全法を批判するのは偽善的だ。1/3 — Nitin Pai (@acorn) 2013年7月28日

第一に、食糧安全法は表面上は「貧困層」のためとしながらも、中産階級“も”援助する。 2/3 — Nitin Pai (@acorn) 2013年7月28日

第二に、ここに注意してほしいのだが、誰が中産階級への燃料助成金を続けてほしいと思うものか?これも廃止すべきだ。 3/3 — Nitin Pai (@acorn) July 28, 2013

助成金はどの国の経済にも不利な影響を与えるだろう。歴史をひもとけば、燃料肥料、電気に対する助成金はこれまでも国庫に非常な損失を与えてきた。国家の 記録的な赤字予算も、急上昇する生活費には効果がない。政府がどうやってこれほど大規模な助成計画の資金をねん出するのか、まだ分からない。おそらく我々自身が、このことわざを思い出すときがきているのだ。「人に魚を与えればその人は一日生き延びられる。魚のとりかたを教えれば一生生きていける」

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