ムロ語初の文法書を刊行―言語復活の希望の光に

原文掲載日2022年3月5日

Younguang Mro, his appearance is like a ray of light in the remote dark Chittagong hill tracts. Art by Tufan Chakma. Used with permission.

ヤンガン・ムロ「彼の出現は、遠く暗いチッタゴン丘陵地帯に差し込む一筋の光のようだ」絵と文トゥファン・チャクマ 許可を得て使用

国際母語デーは、言語や文化の多様性への意識を高め、世界中のすべての母語を祝福するための日として定められている。2022年のこの日、バングラデシュでとりわけ注目されたのは、消滅が危惧されるムロ語で書かれた初めての文法書が出版されたことだった。

ムロ族はバングラデシュのチッタゴン丘陵地帯バンダルバン地域に住んでいる。1991年の国勢調査によると、ムロ族の人口は22,178人。言語はシナ・チベット語族に属している。

1982年、17歳のクラマディ・メンルがムロ語のアルファベットを作り出した。それは結合文字がなくて、文字列は左から右に流れる分かりやすいものだ。しかしムロ語のこれ以上の発展は遅れている。ユニコード・ブロックはあるが、まだオンライン上に表記ができない。

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The cover of the first Mro language grammar book ‘Totong’. Image via Younguang Mro and Adibasi Barta. Fair use.

ムロ語の初めての文法書『トトン』の表紙。写真提供:ヤンガン・ムロ、アディバス・バルタ。公正利用。

ムロ語初の文法書のタイトルは『トトン』。著者はヤンガン・ムロ氏である。ムロ氏はチッタゴン丘陵地帯のムロ族出身の作家であり研究者だ。彼はベンガル語や英語の文法に倣って、ムロ語の文法を作り出し本にまとめた。ムロ語による本はすでに出版されているが、整った文法構造が書かれた本はこれまでなかった

2022年2月17日、この本はバンドルバン市ウジャニ・パラにある著者の自宅での非公式な会で、出版が発表された。記念の式典でヤンガン・ムロ氏は語った

এ বইয়ের মাধ্যমে ম্রো সম্প্রদায়ের লোকজন শুদ্ধভাবে তা‌দের ভাষায় লিখতে ও পড়তে পারবে। বিশেষ করে ম্রো শিক্ষার্থীদের বাংলা ও ইংরেজি ব্যাকরণ বোঝার জন্য বইটি সহায়ক ভূমিকা রাখবে।

この本によって、ムロ・コミュニティの人々は、自分たちの言語で正しく読み書きできるでしょう。またムロ族の生徒たちがムロ語と同じような文法構造を持つベンガル語や英語を理解するのにも特に役立つと思います。

ヤンガン・ムロ氏はチッタゴン大学の東洋言語学部を卒業後、ムロ・コミュニティの社会文化的発展のために活動している。作家としてヤンガンは、ムロの文化や童話についての計28冊の著書がある。18冊はムロ語で、10冊はベンガル語で書かれている。

ムロ語の教師ナンシン・ムロ氏は出版記念会の会合に参加し次のように語った

ম্রো বর্ণমালা আবিষ্কারের পর তাদের হাতে লিখে লিখে বর্ণমালা পড়ানো হতো। এখন নিজেদের ভাষায় বই আকারে ছাপা হলো। এর ফলে এখন থেকে বইটির মাধ্যমে শিক্ষার্থীরা ম্রো ভাষা আরও শুদ্ধভাবে লিখতে ও পড়তে পারবে।

ムロ語のアルファベットができた後は、生徒たちに手書きの文字で教えてきました。アルファベットと文法がこのように本の形で出版されたので、生徒たちはムロの言語をより正確に読み書きできるようになるでしょう。

バングラデシュ最大のブックフェアであるエクシェイ・ブックフェアが現在開催されていて、新しい本も日々出版されている。若い作家スハン・リズワンは、フェイスブックでムロ語で書かれた初の文法書の出版を次のように称賛した

বইমেলার সমস্ত বইয়ের মাঝেও যে বইটা অমূল্য।

この本はブックフェアのすべての本の中でも、特別に価値がある。

若きアーティストのトゥファン・チャクマは、視覚芸術を使ってバングラデシュ先住民社会の様々な問題にスポットライトを当てている。彼は、ヤンガンの出現は「遠く暗いチッタゴン丘陵地帯に差し込む一筋の光のようだ」とフェイスブックに投稿した。

バングラデシュにおける言語領域

バングラデシュはベンガル語話者の国である。ベンガル語を話す人は98%に上る。バングラデシュの人類学者や部族の首長たちによると、国内には47のコミュニティに属する500万人の先住民がいる。このうち4つの言語群に属する30言語は広く話されており、12から16言語は、程度の違いはあれ消滅の危機にある。先住民の研究者サレック・ココンはオンラインのニュースポータルサイトBdNews24.comの論説でクルク語とナグリ語はほぼ消滅していると述べている。一方ムロ語はユネスコの絶滅危惧言語リストに挙げられている。

A map of the languages spoken in Bangladesh. Image via Wikipedia by Map Master. CC BY 3.0.

バングラデシュの言語地図。Wikipedia  Map Master. CC BY 3.0

消滅の危機にある言語を保護するため、国家教育政策2010では、小学校に通う先住民の子どもたちが母語を学ぶ権利を認めている。そこには「先住民の子どもたちには先住民の教師がつき、現地語の教科書を配布することにより、母語で学ぶことができる」と明記している。条項20には「丘陵地や平地にかかわらず部族民が住むそれぞれの地域に小学校を置く」としている。この政策に沿って、政府はまず2017年にいくつかの先住民言語による初等教育の教科書を導入した。5年が経過したが、熟練した先住民教師の数が不足し、この構想の実現はたいへん難しい状況にある。

民族の進歩は、言語による知識の獲得にかかっている。言語とりわけ母語を途絶えさせないことが重要だ。一つの言語を正しく学び習得するためには、体系化された文法が必要である。その意味でヤンガン・ムロ氏の『トトン』は、ムロ族の人々の新たな言語発展の歴史を切り拓くだろう。

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