ネパールのシェルパ、エベレストのデスゾーンで奇跡の救出劇を達成

マレーシアの登山者を背負って下山するゲルジェ・シェルパ。デヴィッド・スノウのユーチューブ動画より。公正利用

ネパールのプロ登山家兼ガイドであるゲルジェ・シェルパ(リンク切れ)は、2023年5月18日にエベレストでマレーシア登山者を救出する快挙を成し遂げた。政府関係者によると、この「異例の救出劇」の現場は空気が非常に薄い超高標高域だ。「デスゾーン(死の領域)」と呼ばれるこの標高域では、気候が急変しやすく、数多くの登山者が命を落としている。

5月18日、標高8,849メートルのエベレスト山頂を目指して中国の登山者をガイドしていたゲルジェ・シェルパは、無視できない光景に出くわした。マレーシアの登山者が極寒の中、瀕死の状態で動けなくなっていたのだ。すぐに助けなければ命が尽きると判断、ゲルジェはガイドを頼まれていた登山者に、登頂を断念しベースキャンプに下りるよう説得、動けなくなっている登山者の救命に全力を振り向けた。

ツイッター(現在はX)で、ジョー・ポンピリアーノは次のように述べている。

ゲルジェ・シュルパ

自分の客をエベレスト登頂ガイド中、山頂から500メートル下の地点で、瀕死の登山者に気づいた。
すぐさま駆け寄って、身体を寝袋でくるみ、酸素を与え、その登山者を背負って、安全な場所まで6時間をかけて下山した。
最高!

ガーディアン紙との取材で、ゲルジェは登頂よりも人命救助の方が大切であることを語った。彼は動けなくなった登山者を背負い、超高標高域で1,900フィート(約579メートル)を下山した。この救助には約6時間を要している。ゲルジェは自身のインスタグラムで「私は彼を担いでキャンプ4まで下山し、そこからは救助隊が助けてくれた」と今回の救助について投稿している。

ツイッター(現在はX)で、ナサーは次のように述べている(リンク切れ)。

この人はゲルジェ・シェルパ。
エベレスト登頂に挑戦中に死にかかっていた恩知らずな登山者を、自らの命の危険も顧みず6時間かけて背負って運び救助した英雄だ。
シェルパは影のヒーローであり、もっと評価されるべきだpic.twitter.com/SWttmeEXQe
— Naser (@NaserMestarihi) June 5, 2023

下界に降りれば

ゲルジェ・シェルパの勇敢な行動は国際的な報道機関でも多数取り上げられ、その英雄的な行為は世界中から称賛を受けた。しかし、当のマレーシア人登山者、ラヴィチャンドラン・タルマリンガム本人は、この救出劇には不満があったようだ。タルマリンガムはインスタグラムで、スポンサーへの感謝を綴ったが、ゲルジェについてふれることはなかった。この投稿の直後SNS上では、タルマリンガムが命の恩人であるゲルジェへ感謝していないことへ非難が集中した。これを受けてかタルマリンガムは、追加の投稿でゲルジェと救助に携わったシェルパたちに謝意を述べた。

エベレストでのシェルパの役割

世界最高峰とされるエベレストをはじめ、最高峰トップ10のうち8座を擁するネパールは登山家あこがれの地だ。

エベレスト登頂は究極の挑戦であり、登山家の勲章だが、登頂はシェルパとして知られるネパールのプロ登山家の支援なしには達成できない。シェルパはただの荷物運びと誤解されがちだが、その名称はネパールの文化と歴史に深く根ざした山岳少数民族名から来ている。シェルパ族は何世代にもわたって山岳地帯に住み、厳しい環境下で日々生き抜く能力を身につけてきた。

その能力を活かして、シェルパはどのエベレスト遠征でも重要な役割を果たしている。キャンプ設営支援、遠征隊の食事準備、キャンプへの酸素ボンベ運搬、登山計画へのアドバイスと、エベレスト登頂という長く厳しい挑戦を一貫して支援している。シェルパはヒマラヤ登山を支える屋台骨であり、世界最高の運動選手とも言えよう。シェルパは登山者の登頂ガイドだけでなく、危険を冒してでも他の登山者の救助にあたることもよくある。

残念ながら世界ではシェルパは影の存在であり、単に山の荷物運びと誤解されることが多い。ベテランガイドが1回の登山で4~5千ドルを稼ぐことができる一方で、荷物運びのポーターの稼ぎ(リンク切れ)は1日わずか5ドル程度と言われている。ポーターは1人で30キロ以上の非常に重い荷物を担ぎベースキャンプまで運ぶが、その収入では家族を養うのがやっとだ。

シェルパの活躍でエベレスト登頂を身近に感じるようになったが、現実は全く異なる。記録破りのシェルパが多数いたおかげで、ヒマラヤ遠征が登山の世界的な基準に合わせて行えるようになり、ヒマラヤ登山の認知度が向上したのだ。
ネパールは世界の登山をリードする十分な能力はあるのだが、政府の支援が不十分であったり、人材開発が不十分な状況が続いている。

この記事は第二回翻訳ワークショップ(2023年11月25日開催)で使用した原稿より作成しました。原稿はクスノキ様、モリシマ様、マキモリ様、イチノセ様、チョウ様、イトウ様、エノモト様、ヒグチ様より提供いただき、スガノがまとめました。

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